第32話 ミケランジェロ広場の魔術師ダンジョン②

「小世界? 壺中の天か故事の!」

「そんな感じです」


 :なるほどわからん

 :おせーてえろいひとー!

 :持ち運べるダンジョンかな、例えるならだけどたぶん


 宝箱に入っていたのは当たりも当たり、異世界では小世界の宝珠と呼ばれていた遺物アーティファクトである。

 文字通り小さな世界が中に入っており、中に入ることができる。安全で快適な持ち運び可能な別荘地というべきものだ。

 中では農業とかやれば自給自足で引きこもり生活ができる。


 :えっ、それってやばいじゃん!?

 :え、めちゃくちゃやばい代物では?

 :世界壊れる

 :中に物資詰めれば探索の常識が変わるぞ

 :ダンジョン引きこもり勢の誕生だ……

 :欲しいでござるな!

 :でも、今まで聞いたことないってことは相当レアなんじゃ

 :世界遺物機構のホームページにも載ってないから世界初やぞ

 :るみるみもってんなー

 :ならなんでわかるんだ?


「この目はだいたいのものは解析もできちゃうのだ」

「ほほう面白いのう。早速入ろう」

「入るならわたしが最初に入るとお爺さん的に良いですよ」

「なるほど、任せた!」

「わっとと」


 最初に入った者のパーソナルから世界を構築するので、わたしが入れば異世界とこの世界の常識の入り混じった世界になる。

 それをふわっと説明する前に投げ渡されてしまった。


 では、とりあえず1回入って内部を整えるために起動する。球体だった小世界は形を変えて電話ボックスのようになる。

 日本にある電話ボックスではなく、海外にある古風な電話ボックスだ。扉を開けて中に入る。1度わたしに向けて魔力が放たれる。


「OKです、はいってはいって」


 2人を中に招き入れる。


「ワクワク」

「どうなるのか楽しみですね〜」

「むぎゅぅ……」


 3人で入ったのは失敗だったかもしれない。狭い。

 なぜわたしが真ん中になっているのか。そこのところを小1時間ほど問い詰めたい気持ちになったが、よくよく考えたらシスター・アデーレの豊満すぎる信仰心に合法的に包まれることができると考えれば幸せな気分になれるかもしれない。

 二宮金三郎は、ぺたりと外を見ようと張り付いているから気にならないのも良い。そうなるとこの場所の居心地指数が急上昇した気がした。


 :るみるみサンド

 :代われるみるみ!

 :ジジイがまるで女に興味ねぇ!

 :何で外見てんだ!

 :もっとラキスケとかさぁ!

 :諦メロン、魔術Gは魔術にしか欲情しないんだ

 :変態ダァー!

 :良いだろ? 魔術Gだぜ?

 :うらやましいでござるぅ!

 :シスターのお胸に突っ込みたい

 :はい、通報

 

「それじゃ行きましょう」


 遺物を操作するとがこんと動き出したような衝撃がすると、同時に止まって扉が開く。


「はい、出て出て」

「いやっはわー!」

「あらあら〜はしゃいでますね〜」


 二宮金三郎がはしゃいで飛び出して行った。


 わたしたちも続く。

 そこに広がっていたのは、さらに数十以上の円環が浮かぶ幻想的な世界だった。

 わたしはそれを見て己の試みが成功したことを悟った。


「おお、魔力が濃い! 良い、良いぞぉぉ! ワハハハハハハ! あの空に浮かんであるのはなんじゃ? おお! まさかあれがそうか! すごい、すーごーいーぞー!」

「うわぁ〜」


 :ジジイがめちゃくちゃはしゃぎまくっている件について

 :いや、これは魔術Gじゃなくてもはしゃぐだろ

 :すごいな、どんだけ広いんだろ

 :空のはなんでござろうな

 :魔術Gがあれ見てはしゃいでるっすから魔術関連の何かっすかね

 :見ろよ、シスターぽかーんとしてるぞ!

 :お口開いててかわいいね

 :うっ……

 :ふつくしい……

 :美人は驚き顔もクオリティ高いのなぁ

 :クオリティいうなし


「どうです? すごいでしょ」

「おおっ、こうか!!」


 二宮金三郎が闇の魔術を発動させていた。わたしがまだ説明していないのに、勝手に理解して勝手にやるのはやめて欲しい。


「あらまあ〜。見たことない魔術が〜」

「フハハハ! 見えるわしにも魔力が見える!」


 :魔術Gがなんかやり出した!?

 :何あの黒いの!?

 :闇属性?

 :てか、魔力が見えるとか言ってなかった?


「わたしがこの世界の管理人になったので、わたしの常識を反映してるんですねー」

「ワハハハハハハ! 動く! 魔力が自由自在に動かせるぞぉぉぉ! あの空のは術式じゃな! あれをこうしてこうすれば魔術が発動するのか! 天国か! ここは!」


 :うわすげぇ!

 :るみるみ! 俺たちも入れてくれええええ!!

 :入りてぇ

 :探索者はみんな入りたいだろ

 :うおおおお!

 :これは協会に預けて探索者の共有財産にすべき

 :おっと、それはダメダゾ

 :ダンジョンで見つけたもんは見つけたやつのもんだからな

 :るみるみがよければ協会と契約とかで、月数千万とかで貸したりとかなら可

 :えーめんどいな

 :1番面倒なのはこんなの見つけられたイタリアなんだけどね


 イタリアでも一部例外を除いてダンジョンで見つけたものは探索者のものになる。この遺物はその例外の中にない為わたしのものだ。

 しかし、見せている通りこの遺物の価値は計り知れない。今頃、イタリアの協会の人は頭抱えているに違いない。


 わたしとしてもこの遺物は渡す気はない。天岩戸での訓練や魔人討伐に有用なのだ。

 もし協会が没収しようとしても二宮金三郎が黙っていないだろう。それ込みでわたしの世界に連れ込んだ。わたしの手から遺物が失われるとなればきっと暴れてくれるはずだ。


「さて、どうですか皆さん。ここがわたしの見えている、見ている世界と言っても過言ではありません。ここではわたしのように魔力が見えますし、わたしの使う全ての魔術が使えます。面白いでしょう?」


 :すごすぎるでござるー!

 :やっぱ魔力見えてるのか、信じてなかったわ

 :魔術Gが見えてるみたいだからな、しんじるしかねぇよ

 :魔力が見えればどうなるかが本格的に証明されるな

 :魔力見えるようになりたいっす

 :なんかスキルにならないかなぁ


 魔力を見る眼というものは異世界ではありふれたものだ。わたしの目はドッペルゲンガーとして、覚えている技能やスキルを忘れない特性と、生まれてすぐに深界に捨てられたことが合わさった結果だ。


 魔力濃度の高さがわたしの魂からこの目を発現させたと推測している。だから、この世界でもおそらく発現できるはずだ。

 そうでなければわたしの目は普通のはずである。ダンジョン外の魔力濃度が異世界の水準に達すれば自然と発現していくと思う。


「ここで数十年くらい過ごしたら開眼するかもしれませんね」


 ここの魔力濃度は異世界の水準だ。ここで数年から数十年過ごせば見えるようになるかもしれない。


「わしここに住む!」


 池田:ダメです


「池田さんがダメだって」

「しゅん……」


 :落ち込んじゃった

 :かわいそ……うじゃないな!!

 :当然である

 :でも数十年、中で過ごせば魔力見えるようになるのは魅了的だからな

 :数十年は長すぎるっすね……

 :少し入って感覚掴むだけでも違うだろ


「あっでも、ここ今は深界の魔力圧あるから耐えれないとぼんっ! だね」


 :草

 :一気に入れるやつがいなくなっちゃった……

 :はー、つっかえ

 :いや、最近は深界の魔力圧に耐えれるやつ意外と増えてるぞ

 :そうなのかー

 :じゃあなんでEX増えないの

 :実力が基準以下なだけ

 :そりゃそうだわ

 :基準って

 :単騎で国家制圧レベル

 :こわっ

 :正確には深界でのモンスター討伐数と滞在期間と帰還数だ

 :どんなに強くても基準満たさないとEXにはなれないからな

 :協会のホームページ見てきたけど、初めて知ったなんだこの無茶苦茶な基準は

 :核抑止に代わる抑止力だからな

 :世界共通基準だゾ

 :日本のそれが、このジジイと頭薩摩と深層の令嬢(男)でいいのか……?

 :よくない

 :そもそも深界なんて人間の行くところじゃない定期

 :そんなだからEX増えないんだよ


「日本だと3人だけど、アメリカとか中国には20人くらいいるらしいですからね。増えてほしいねEX」


 :るみるみがなれ

 :今1番近いのがお前だ

 :応援してるでござる〜

 :人任せすぎだろ、まあなれる気しないんだが

 :魔力圧耐性が足りないんだ

 :伸ばせ

 :耐性つけるの大変なんだよなぁ

 :ボンするギリギリに長期滞在とかきついからな


「イタリアには9人いますよねEX」

「はい〜、いますね〜。私がトップですが〜1番厄介なのは、サヴェリオですね〜」


 この破壊力満天のシスター・アデーレをして厄介と言われる探索者となると気になってくる。


「気になりますね。あとで調べておきます。さて、休憩もこのくらいにして探索再開しますか」


 :休憩だったのか

 :絶対遺物が使いたかっただけだぞ

 :休憩大事でござるからなー

 :行けるところまで行ってくれー


 そんなこんなダンジョン探索へと戻ったわたしたちは、魔術書を盗み出し恐ろしいモンスターと相対することになったのだった。

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