第28話 共有・匿名掲示板3

 シスター・アデーレと共にダンジョンを脱出したわたしは、協会の人に事情を説明した後ホテルに保護されている。

 諸々のカバーストーリーを含めた告知も出してもらったおかげで、リスナーたちからは労りのコメントやらリプが届いている。通知が煩すぎるので、スマホの電源は切っておいた。


 今回の一件はダンジョン犯罪者が侵入していたということになる。市民に混乱を与えないように魔人の存在は秘匿されているためだ。

 基本的にヤバイダンジョン犯罪者という認識になるだろう。一部界隈では、魔人という存在を知っている探索者もいるがほとんどがSランク以上の探索者だ。

 基本的に魔人と出会って生き残れるのは、そこが最下限というだけの話なのだが。それ以外は全て魔人に殺されているため情報が広まらないのが実情だ。


 日本だと隊長とばあちゃんの2人が、日本に存在する魔人の大組織の大半を狩りつくしているのも大きい。おかげで日本では表立って動くことができないのが魔人たちの現状である。

 そこにわたしが入ってさらに隠れ潜む魔人たちを見つけに見つけて狩ったのだから、日本では魔人は本当に闇に潜んでいる者以外ほとんど存在しない。


「だから、こういう対応の時大変なんだけどね」


 ダンジョン配信が一般にも浸透してきたことから、魔人の存在に関しての対応に変化が求められる。

 ダンジョン内が未知の領域だった頃はそれほど気にすることではなかったらしいが、時代の変化というものらしいとは日本ダンジョン探索協会の黒服さんたちの嘆きであった。

 ただ最近ようやくピカッとする記憶消去装置などというものが実用化されつつあるということで、それほどの嘆きでもないそうであるが。


「まあ、わたしが考えることじゃないし隊長たちがうまくやるでしょ」


 それよりも一花はうまくやっているだろうか。

 

 そんな心配をしたところでちょうどホテルのドアが開く。この部屋に入ってくるのはわたしのほかにもう1人、一花だけだ。


「おかえりー」

「ん」

「腕を広げてどうしたの」

「甘えさせてやるって言ったでしょ」

「ああー……」


 律儀な女である。そこが彼女の良い所だ。これでいじるとかわいらしい反応をするところもわたしは気に入っている。

 そういうことなら乗ることもやぶさかではない。


「わーい、ママ~」


 ガバリと抱き着いてみたりして、そのままベッドに押し倒したりして甘えてみることにした。ついでに身体の状態も調べさせてもらう。

 特に傷らしい傷はない。一花が傷を負うことはほとんどまれだ。強靭すぎる脚力から発揮されるスピードに追い付ける魔人はそうはいない。


 逆に言えば、傷をつけられるということはかなりヤバイ魔人だったということになる。

 何せEXランク探索者でありトップダンジョン配信者の織野華を除いて、星宮一花は最速の探索者なのだ。

 その速度に追いつける魔人の脅威度は計り知れない。 


「で、どうだった?」

「二つ名持ち」

「あー、目撃者残してるタイプね。余裕だったでしょ」

「当然」

「異能は?」

「分裂、3人に増えてたわ」

「ならスライムの血を飲んだんだろうね」

「スライムって血あるんだ……」

「体液って言った方が良いかも。それで分裂ね」


 一花の大きな胸に顔をうずめながら、魔人の情報共有を行う。

 二つ名持ちの魔人は、目撃者を残しているためそこまでの強さではないというのが天岩戸や対魔人組織での共通認識である。

 他人に呼ばれる名があるということは認識されているということ。つまり魔人に襲われて、生き残った者がいるということだ。


 だから、二つ名持ち相手に苦戦することは少ない。もっとも場合によりけりであるため、二つ名があるからと言って油断していいというわけではない。

 そもそも魔人は普通の探索者と同じランクであっても、強くなる。だから基本的に自分たちより強いだろうと思ってことに臨むことが鉄則だ。


 異能に関しては、3体への分裂。再発生していないことや初めに視た魔力量からも3体上限で間違いはないはずである。

 他に分裂の異能持ちがいても3人が上限なら対応できるだろう。それ以上になれるかは、別の魔人が出た時次第だ。


「ふぅん……アンタ、本当に物知りよね」

「辞書が愛読書なもんで」


 もっともそれは施設にあった本が辞書だけだったという話であって、辞書が好きというわけではない。

 それにその知識は異世界のものも含まれているから、それだけが原因とも言いがたい。

 説明できないからこう言っているだけなのである。


「そっ」


 そっけないがわたしを抱きしめる力が少しだけ強くなったから、気にしていることがもろ分かりである。

 わたしの頭をなでる手も必要以上に優しい。壊れ物を扱うような手つきだ。

 どうにもこのエピソードは他の人には、哀れであると感じさせるらしい。わたしはよくわからないし、異世界での一時期の生活よりかはマシなので特に思うことはないのだが。


「ん~」

「ふふん、どうよ」

「さいこう~」

「そうだ。この後だけど、フルットプロイビートと合同でフィレンツェダンジョンの調査に行くわ。だから、その前に」

「フルットプロイビートの連中に聖属性変換の仕方を教えろって?」

「そう。この後すぐ。拠点って言ってたからね、移動される前に攻めるつもりよ」


 フルットプロイビートはイタリアの対魔人組織だ。天岩戸のイタリア版。

 わたしもその詳細は知らない。天岩戸は少数精鋭主義で、人数は少ないがフルットプロイビートはそこそこ大きな組織で人数も豊富というくらいか。


「悪いわね。疲れてるとこ」

「疲れてるのは、一花ママでしょ」

「あの程度でアタシは疲れないわよ、アンタとは違うの」

「ならわたしは疲れたからじゅうでーん」


 むぎゅぅと抱きしめてそのまま諸々を堪能させてもらう。


「本当、面白い魔導管だなぁ」

「面白いですまないわよ、こっちは。てか、何見てるのよ、ヘンタイ」

「いいでしょ、これのおかげでラビットウォークできるんだから」

「おかげで武器を持つのも一苦労だけどね」


 うだうだとしながら、時間いっぱい甘えさせてもらったわたしであった。

 それはもう甘えさせてもらった。

 不覚にも、ちょっとこれなしは考えられないのではと思いかけてしまったほどだ。恐ろしきやわらかめろんである。


 ともあれ、時間になったからわたしはフルットプロイビートに聖属性への魔力変換を修得させに行った。

 流石は対魔人の精鋭たちである。そこそこ時間はかかったがみんなコツさえ掴めば全員できるようになった。


 本当に見つかっているかだけなのだから当然なんだけどね。

 きっと配信を見ていた人の中にも何人かはできる人がいるのかもしれない。


「というか、わたしは行かなくていいの?」

「アンタは変幻自在持ってきてないでしょうが」


 変幻自在は、天岩戸で作られたわたしの専用武器だ。


「臼杵が必要な一花と違って、わたしはなくてもどうにかなるから」

「ぐぬぬ。でもだめ。アンタは今有名配信者として来てるからね。一応、夜の間は護衛もつくことになってる。イタリア協会からのお達しよ」

「なるほど、わたしはいないといけないと」

「それにもしものバックアップはいるでしょ。まあ、必要ないけど」

「はいはい。一応、拠点って言ってたんだから気を付けてよね」


 フィレンツェダンジョンへと魔人の調査に向かう一花とフルットプロイビートの連中を見送ってわたしはホテルで何かあった時への待機と称して織野華の配信を見に行くのであった。

 そういえば何かを忘れているような気がしたが、織野華の配信が始まったのですぐに忘れてしまった。


 ●


【ダンジョン】フィレンツェダンジョンに現れたダンジョン犯罪者の正体とは【犯罪者】


452:名無しの調査班

るみるみの配信にダンジョン犯罪者がでるなんてな

ダンジョン犯罪者が配信に映るのいつぶりだ?


453:名無しの調査班

いつぶりだろうな、だいぶ久々だったけど


454:名無しの調査班

とりあえずるみるみが無事でよかったよ


455:名無しの調査班

しかし、なんであんなところにいたんだろうな


456:名無しの調査班

そもそもあんな危険なダンジョンに潜む理由なんてないだろうに、物好きもいるもんだ


457:名無しの調査班

逆じゃね? むしろ誰も来ないからこそ拠点にいいとか


458:名無しの調査班

あー、ありそう

つまり相当に大物だったのかな


459:名無しの調査班

海外勢もわからないっぽいのが妙だよな


460:名無しの調査班

とりあえず協会から告知出て、無事解決みたいのは良かったよなー

一花ママ、結構強かったのかな

魔術Gは間に合わなかったけど


461:名無しの調査班

そりゃ、そうよ


462:名無しの調査班

魔術で飛行する謎の飛翔体として世界的ニュースになってんぞ


463:名無しの調査班

うわぁ……


464:名無しの調査班

良いだろ? 魔術Gだぜ?


465:名無しの調査班

まあ、るみるみの安全は完全に保証されたわけで、考察に戻ろうぜ

拠点とか言ってたし、大規模な組織があるんじゃないか?

フリーメーソンみたいな感じの


466:名無しの調査班

アニメ見すぎだって、そんな巨大組織が政府組織に見つからずに存在できるわけないって


467:名無しの調査班

でも、ダンジョンの中までは政府だって把握してないじゃないか

見つからない下層とか深層にいたんじゃないか?


468:名無しの調査班

それじゃあ、ダンジョン犯罪者はみんな深層とかにいることになっちまうぞ

それはどうなのよ

いや、でも今回の奴は深界にいたことになるのか……もしかして、ありえる?


469:名無しの調査班

犯罪者でもそんな場所にいるのに、オレたちと来たら……

はー、力が欲しいー


470:●●●●

力が欲しいなら

ここにアクセスしろ

URL


471:名無しの調査班

ん? なんだ?


472:名無しの調査班

何なに……うわ、なんだこのサイト


473:名無しの調査班

やめとけよ、なんか危ないぞ

モンスターの血一覧とか、あるし


474:名無しの調査班

おまえも見てんじゃねえかwwwww


475:名無しの調査班

力が欲しいかとか

怪しい勧誘すぐるwww


476:名無しの調査班

こわっ……


477:名無しの調査班

やべえし、触らんどこ……


478:名無しの調査班

試しみっか!


479:名無しの調査班

報告よろ~


480:名無しの調査班

よろ~


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