第52話 コンペティション前日
そんなこんな修行の時は過ぎ去り、わたしたちは日本代表としてそれなりに見せられるくらいには成長したはずである。
「終わったら覚えておいてくださいね」
ニッコリと兼業リーマンに言われてしまって、わたしは非常に大変なものを呼び覚ましてしまったのかと冷や汗が止まらなくなってしまったほどだ。
「皆さまのおかげで、わたくしスナイパーライフルで弾が当たるようになりましたわ!」
「至近距離で撃てば当たるよねって」
「るみるみ様、オバラシはおやめになって!?」
割ときつい修行をしたはずなのだが、この田中、通常運転である。
ただ耐性系の上昇率が半端ではなかった。おかげで耐久力はそこらの人外ランクと比較できるレベル。
流石にロイ・シャフツベリーのような本当にヤバイ連中と比べては可哀想であるが、他の人類規格外ならば耐久はできるだろう。
これでどうして魔力圧の耐性が低かったのか。そこが不思議なくらいであるが、人間という生き物はそういうものだとわたしは知っている。
そういうところがまた愛おしいのだとドッペルゲンガー時代は思ったものだ。
あとそういうところがある方が、単純に真似するときの難易度が上がってやる気が出たということもある。
「さて、前日はゆっくりしてーと思ったんですけど、協会がパーティー開いてくれるらしいんで行きましょう。息抜き!」
「えー、めんどいんじゃ。魔術の研究で今忙しくてのう」
「メイドは給仕として呼ばれていますので、もちろん参加です。ついでに敵情視察をするのも完璧なメイドの仕事でしょう」
なんでメイドは選手なのにメイドとして呼ばれているのだろう。
本職といえば本職なのかもしれないし、敵情視察する立場としてはこの上ないけれども。
ちなみに、わたしは修行の対価としてえっちなメイド服を着せられている。ほとんど布がない。
局部見えてね? いや、見えない。そんな不思議なメイドパワーがありますとはメイドの談である。
そのくせ防御力は折り紙付きという意味不明具合は、静香の服を思い出してほっこりしたくらいだ。
「田中は?」
「わたくし行きますわ! パーティーだなんて、お嬢様っぽいですし」
「あ、僕は留守番で」
「では、当機も残ろうねぇ」
「レインはアメリカの協会員と話すのが面倒なだけでしょうに」
「当機は黙秘します。決して話し合いが長すぎて面倒だというわけではないことだけは、はっきりと告げておきます」
「標準語」
「なんのことやろねぇ。あんま言うなら死ねどすするよ」
「はいはい。殺せるといいねー」
レインドールの性格を加味しないのであれば、索敵担当が二人一緒に固まるのは合理的ではないという判断故ということになる。
索敵範囲を分散させることで敵が来た時に察知しやすくする作戦だ。本当に何かあるならということになるが。
「じゃあ、行こうか田中! エスコートしてあげる」
「マリアンヌですわ、るみるみ様!」
修行を終えてもこの反応。かわいいねぇー。
「流石にこのメイド服だと色々言われそうだから着替えるね」
「メイド服は正装です、とはいえパーティーの客として招待されている以上、お嬢様となるのは必然。メイドは話がわかるので今日だけは特別にメイド服を脱ぐことを赦しましょう。存分にシンデレラになると良いです。シンデレラはメイドの正統進化先。つまりドレスもメイド服です」
「何を言っているのかわからないけれど、とりあえず普通にドレス着ていいってさ」
「ヒャッホーですわああああああ!」
そんなにドレスが着たかったのか、田中。
ともあれ、わたしも普通のドレスは久々だったのでちょっと嬉しい。
化粧もしっかりとさせられてわたしと田中は会場まで送迎された。
「普通の会場ですわ!」
「何を想像してたの?」
「もっとこう、なんかこう、ですわ!」
「まるでわかんないけど、とりあえずもっとすごそうって想像してたってこと?」
「そうですわ!」
目の前にあるホテルも相当すごそうであるけれども。
それに魔力がヤバイ。中にいる面子は国のトップ連中。持ってる魔力量も相応で、集まれば集まるだけ密度が増す。
うん、田中鍛えておいてよかったね。何も鍛えずに来たらパーティー会場で吹っ飛んでいたかもしれない。
「日本の瑠美です」
「マリアンヌですわ!」
「お待ちしておりました。ご案内いたします」
場所はもちろんホテル最上階であった。
「夜景がきれいだねぇ」
「すげーですわー! 映画で見たアメリカって感じですわー!」
会場は相当に広い。何か遺物を使っている気配がある。
何せ、会場の中はどう見ても外と大きさが合わない。小世界と同系統の遺物だろう。流石アメリカ、色々あるようだ。
こういうのを見せつけるのも目的に含んでいるのかもしれない。
「あらあら~。るみるみさん、お久しぶりですぅ~」
「このゆるーい声は」
糸目のシスターがいつぞやと同じ姿でそこにいる。相変わらずのスタイルで羨ましい限りである。
「シスター・アデーレですよ~」
「イタリアはシスターが?」
「はい~。るみるみ様のおかげで私の仕事に余裕ができまして~」
「悪魔退治うまく言ってるようで何よりです」
「はい~」
悪魔退治の様子はあの後何度か天岩戸経由で聞いていたのだが、聖属性が使えるようになってから本気を出し始めたらしい。
聖属性以外効かないからどんなに威力を上げても意味がないということですっかりと爆弾の威力を下げていたが、それを止めた。
外からダンジョン内に放れば、それだけであの1フロアすべてを破壊するだけの聖属性爆弾で事足りるようになったということらしい。
相変わらず人類規格外枠は頭のおかしいことをする。わたしとしてはその加工技術を少しでも教えてもらえたから助かっているところがある。
いずれ見せる時が来るだろう。
「ほ、ほんもののシスター・アデーレですわあああ!?」
「あらあら~、るみるみ様?」
「こちら田中です」
「マリアンヌですわ!」
「ふふふぅ面白い方ですね~。でも、うーん。ちょっとマズイかも」
「何がです?」
「ええと~」
シスター・アデーレが何かを言いかけたのを遮るように田中の前に男が現れた。
これも人類規格外だと気配でわかる。
「ああ麗しのお嬢さん。オレ様のものにならないか?」
「ああ~」
シスター・アデーレが頭を抱えている。
どうやらお仲間のようである。
「は、はひ!?」
田中は混乱した。
どうやら間に入った方がよさそうだ。
「おっとエスコート中なので、後にしていただけます?」
「なんだ、相手がいるのか。なら君もオレ様とあっつい夜を過ごさないか?」
「うーん、この」
「こらこら~。サヴェリオダメですよ~」
「チッ、シスターの知り合いか」
「サヴェリオ~」
「はいはい。わかったわかった。あっち行ってるよ。ああ、お嬢さん。どうかな、オレ様と一杯?」
両手を上げて去っていってすぐにまた別の女に声をかけていた。女とあれば見境なしに声をかけまくっている。
美形だとは思うが、それ以上にキザったらしい。
「ごめんなさいね~」
「あれは?」
「ほら、この前に言った厄介な」
「ああ、サヴェリオですか、彼が」
「サヴェリオですって~!? あの魔力喰らいの!?」
「なるほど、アレが」
そういう厄介な手合いには見えないが、そういう風に見せない相手ほど厄介なのは前世からの常識だ。
内在魔力はきちんと人類規格外。イタリアの人類規格外枠は二人も来ている。
今回はしかも普段は表に出てこないシスター・アデーレが出てきている。
「ははは。実に楽しみじゃあないか!」
「出たな、ハンバーガーお化け」
「いいね、最高の誉め言葉だ!」
いつの間にそこにいたのか筋肉だるまロイ・シャフツベリー。
筋肉こそが正装と言わんばかりのラフな格好で、わたしたちの背後に立っている。
やめてほしい、咄嗟に攻撃しかけてしまったではないか。もっともわたしの咄嗟の攻撃など、彼にとっては蚊に刺されたようなものだろうけれど。
「あら~。お久しぶりですねぇ」
「久しいな、シスター! 好きなハンバーガーはなんだね?」
「生憎と食べませんので~」
「うーむ。いかん。いかんぞ、食わねば強くなれんぞ!」
「知り合いで?」
「うむ。悪魔と素手で戦えるか試しに行った」
なにやってんだこの男。
「非公式でしたけども~、来ていただいたんですよ~」
「うむ。倒せないことはなかったが、あまり強く無くてなぁ。飽きて帰ったわ! はっはっは!」
なにやってんだこの男。
聖属性もなしに悪魔を倒すんじゃない。
でも、思えば織野華もきっと倒せるに違いない。海外NGだからやらないだけで。
流石華ちゃん、最強。
「よーし、私が特製五百階建てハンバーガーを奢ろうじゃないか!」
「嫌です」
「遠慮せず」
「嫌です~」
「まあそういわずにははは!」
「お断りしたいですわ!?」
「ははは、奥ゆかしいなー!」
ダメだ逃げられない。なんだこいつ魔王様か?
「こーら、ロイ・シャフツベリー!」
会場を貫く声が響く。
そちらを見れば、筋骨隆々の人たちにひかれた御輿に乗った女性がやってきているところだった。
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