第79話 妖精リアとの再会
無事に戻ったことを報告するために、村長の家を目指して私たちは歩き始めた。これまでの流れというか雰囲気で、ロウと手を繋いだまま。
湖を泳いできたばかりなので、ロウには私の体力がもつか心配された。
転移の魔道具を使ってしまえば早く移動できたけれど、「ロウの隣で歩きたい気分なのよ」と言って断った。ロウの言うように多少の疲れはあったけれど、本当に話をしたかった。
一緒に歩きながら、私が攫われていた間の村の出来事をロウに聞いた。
竜神さまが花嫁を攫うという噂が本当だったこと、村長の娘のティエリが花嫁候補だったこと、村長とティエリから謝罪を受けたこと。
なかなかハードな内容ね。ロウは私が竜神さまの花嫁にされてしまうと心配して助けに来てくれたんだわ。
「村の繁栄の代わりに生贄としての花嫁が必要なのかと聞かれれば、ちょっと違う感じがするわね。花嫁は必ずしも必要としていないように見えたのよね。私を攫ったのは、懐かしさで力が暴走させてしまったんでしょう? ……竜神さまから花嫁にならないかと言われたけれど」
「なにっ⁉︎」
ロウは初耳だったようで驚愕の表情を浮かべて、体をガバッと横に向けた。
竜神さまの話はこれで終わりにしたかったけれど、誤解があってほしくないのでしっかりと説明を入れた。
「言うタイミングもなくて、今になってごめんね。ロウ、安心して。もちろん丁重に断ったわ」
「あいつ……! ぞんざいに振ってやっても良いくらいなのに、ロザリーは優しすぎる! 弱体化してトカゲの姿になるのなら、弱らせてヘビに喰わせてやる……!」
「私も巻き込まれて迷惑だったから、その気持ちはよくわかるわ……」
「ふっふ……俺だけ竜の宮に戻って、竜神さまを討伐してしまおうか……?」
ロウならやりかねない。怒りで拳を震わせる姿は、鬼気迫ったものを感じる。
「……ロウがわざわざ手を汚さなくても、守り神とはいえ人に危害を与えたのだから、上位格の神さまから相当な罰が下りるはずだと思うわ」
上位格の神さまがいるかどうかは、私の想像。でも、各地の守り神を束ねている神がいてもおかしくはない。
「今は許してやるが、次にまたロザリーを誘惑してきたら許さないからな」
ロウが空に向かって言った。その声は、竜神さまにきっと伝わっているだろう。
のどかな村の景色は、私がいなくなってから大きく変わっていないようだけど……一番気になっていることをロウに質問する。
「――そういえば、竜の宮と地上での時間の流れは同じなのかな? 私にしてみれば、攫われた次の日にロウが迎えに来てくれたから、二日間だけ竜の宮にいたはずなんだけど」
竜神さまの寿命が長いことから、時間の進み具合が違うことはありえる。
だけど、一日後に迎えに来てくれたロウがそれほど年を取っていないことから、極端に時間が進んでいることはなさそうだ。
ロウは難しい顔をして口を開いた。
「ロザリーが攫われてから、一週間後に助けに行った。ということは、竜の宮の一日が地上での一週間になる。二日では二週間か」
衝撃事実を知って、冷静ではいられない。
嘘でしょう⁉︎ 二週間攫われていたことになるの⁉︎
時間の進み方が怖い! ロウの言うように、早く戻ってきてよかった……!
「恐ろしい……! けれど確認して良かった! 竜の宮に長居しちゃいけないことがよくわかったわ……!」
「そうだな。わかってもらえて良かった」
ロウがそれほど驚いていない様子を見れば、竜の宮と時間の流れが違うのは予想済みだったのだろうか。
あービックリした!
しばらく歩いて、村長の家の門に到着すると、使用人の一人がやってきた。
「大魔法使いさまと、英雄さまですね……! 無事で何よりです……! どうぞお入りください」
使用人は瞳を潤ませると、サッと頭を下げて一礼した。
使用人は先に村長へ報告するからと、慌ただしく歩いて行った。
私とロウが繋いでいた手は自然と離れ、それでも私たちは寄り添って歩く。
村長自慢のピンクのペチュニアの花壇が見えてきた。
その花壇の中心には、祈りを捧げた妖精リアの姿が……!
まるで妖精の像が置かれているように、その場から動かない。
「リア……!」
私の声に反応して、リアは瞼を開ける。
そして、目を見開く。
「ご主人さま……! 無事に戻ってきて良かった、です……ウッ」
私とロウの姿を見て、くしゃりと泣きそうに笑った。
「リア、ただいま。遅くなってごめんね」
飛んできたリアを受け止めて、リアを包み込むように優しく抱き締めると、小さい手で抱き返してくれた。
「ずっとこの花たちの力を借りて、お祈りしてました。祈りが通じて良かったです……!」
「リアが祈ってくれたから、私たちは怪我もなく帰れたんだわ! 本当にありがとう」
「本当に、本当に良かった……うわわわわん!」
リアは
私はリアの涙が止まるまで、彼女の小さい背中を指先で撫でる。
ロウは私たちが落ち着くまで静かに待ってくれた。
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