第98話 後日談
妖精の国に少しの間滞在することになり、ロウが目覚めてから数日が経った。
ロウはリハビリを続け、次第に以前の強さを取り戻していった。でも、リハビリが必要ないくらい魔力が安定しているけどね。
ある日の夕暮れ、ディディがふとしたことでロウに話しかけた。
彼女の声はよく通るのでしっかりと聞こえたけれど、彼らの視界に入っていないことをいいことに、私はこっそりと聞き耳を立てる。
「ロウさま、体の調子はどうですか?」
「すっかり元どおりだ」
ディディは「それはよかったわ」と言って、ロウをただ見つめた。
「……あのとき、ロウさまの頭の中はロザリーでいっぱいだったわ。分かっていたけれど、どうしても受け入れられなかったの。でも、ずっと勝手に片思いでいるのはいいでしょう?」
彼女の瞳には少しの寂しさが宿っていた。ロウはディディの肩に手を置き、優しく微笑んだ。
「それはいけない。ディディは見合った相手を見つけて、愛し合って幸せになるべきだ。……その相手はこの世界にきっといる」
ディディは少し黙って考え込んでいたが、やがて決心したように顔を上げた。
「じゃあ、ロウが見つけてくれる? それなら納得できるかもしれないわ」
彼女の無邪気な提案に、ロウは苦笑しながら首を振った。
「俺はどちらかというと父親の気分なんだ。中途半端な男はディディにやれない。俺では理想が高くなって見つけられないだろう」
ディディはそれを聞いて眉を寄せた。
「……そっか、父親か。最初からロウの恋愛対象になれなかったってことね」
「すまない」
ロウは自分が悪者になることを決めたようだった。未練を断ち切るにはハッキリ言うしかなかったのだろう。ディディはしばらく黙っていたが、やがて悲しい表情を消して顔を上げた。
「私を傷つけないように考えてくれるなんて、格好良すぎるわ。ロザリーが羨ましい」
そう言葉を切って、ディディは微笑んだ。
「私はさっさといい男を見つけて、二人の父親を悲しませてやるんだから!」
ディディの悪戯っぽい言葉に、ロウはハハハッと笑った。
「それは困るな」
二人は楽しそうに笑っていたので、私はそっとその場を離れた。そろそろ帰らなくてはいけない日が近づいている。そんな予感がした。
◇
その日の夜、ロウと私は泉のほとりで静かに話していた。月明かりが水面に反射し、美しい光景が広がっていた。
「もしかして、あの時の魔法学校の記憶は最初からあったの?」
私は問いかけた。ロウは頷きながら、遠くを見つめた。
「そうだが」
彼の返答に、私は心が少しざわついた。
「それじゃあ、初めて魔道具屋に行ったときも、私が誰だか知っていて……」
「やっと気づいたか。俺の初恋はタイムスリップしてやってきた師匠のロザリーで、それは隠していないといけなかった。変に俺が口を出して、ロザリーの行動を変えるわけにはいかなかったからだ」
ロウは淡々と話した。私はその答えに少し驚いた。
「もしかして……私がタイムスリップしたことも、全部分かっていたの?」
「それを知ったのは、魔族に襲われた村でロザリーを見かけたときだったな。師匠の魔力を間違えるわけがない」
ロウは私を見て微笑んだ。
その言葉に、私の心は暖かくなった。長い間、ロウが抱えてきた想いを知り、その深さに感動した。
「ありがとう、ロウ。私もずっとあなたのことが好きだった。今、こうして一緒にいられることが本当に幸せだわ」
私がロウの手を握ると、彼は強く握り返した。
「俺もだ。絶対にロザリーを離したくない」
私たちの想いは同じだった。ロウが私の肩を引き寄せた。私はその胸に顔を押し付け、彼の少し早い鼓動を聞いていた。
【完結】勇者パーティを追放された聖女ですが、やっと解放されてむしろ感謝します。なのにパーティの人たちが続々と私に助けを求めてくる件。 八木愛里 @eriyagi
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