第67話 ロウの魔道具を湖へ
湖は朝日を浴びて、静かに揺れていた。
「ここが、竜神さまの棲まう湖ね……」
私はずっと見ていられる、のどかな風景を眺めた。
空の色をそのまま映したような青色の湖に、湖のほとりを泳ぐ鴨。
私たちの使う魔法とは違う種類の魔法の気配を感じる。これが、竜の魔法、か。
「早速だが、魔道具を設置してもいいか?」
「もちろん。これが、ロウさまが造られた魔道具ですね」
村長の許可をもらい、ロウは四角い鉄板を取り出した。
その鉄板には、オペラグラスのような形の魔道具と透明な容器に緑色の魔石の屑の入った魔道具が、銅線でくくり付けられていた。
水中探索と怪我の感知できる性能が組み合わさった魔道具だ。
即席で作った感じがあるけれど、しっかりと機能すれば問題ない。
どのように設置するのかと、私たちの視線が集中する。
ロウは魔道具を湖に浮かばせただけだった。
鉄板の左右には、魚のヒレのような小さな鉄板がいくつも付けられていて、水をかき分けるように動き、水面を潜って言った。
「この魔道具が水中を泳いで行って、怪我をした生物を見つけたら後ろに乗せて水辺まで運んでくる。それを俺の指輪の魔道具から、音を出して知らせてくれる」
ロウの左手の人差し指には、魔石の埋め込まれた指輪がされていた。
「音がしたら駆けつければ良いとは! 素晴らしい。さすが、大魔法使いさまの魔道具ですね!」
村長からは拍手と称賛の声が上がる。
本当にそうよね。ずっと湖に張り付いていなくて済むのは、体力的にとても助かる。
「ちゃんと機能するかは、使ってみないと分からないが……数日観察して、反応がなければ、作り直しが必要だな」
「これはまた
ロウと村長がそのまま会話を続けているが、私にはロウの指輪がキラッと光ったのが見えた。
『ヴィー! ヴィー!』
「…………あれ? この音って……」
私はロウの指先を見つめて呟く。
ロウの仕掛けた魔道具が、もう怪我をした生き物を見つけたってこと⁉︎
いくらなんでも、早すぎじゃない?
当のロウが一番驚いたようで、「まさか……」と目を見開いた。
そして、ロウは自分の指輪をまじまじと見つめて、こくりと頷く。
「確かに、魔道具に反応して音が出ている。これほどすぐに見つかると思わなかったが……間違いない。魔道具が泳いでくるのを待とう」
そう言って、鳴り響く指輪の音を消した。
すると、静寂と期待がその場に広がり、皆で湖を見つめる。
「お、来たな」
いち早くロウが気づいた。
湖の奥から、ヒレを動かして泳いでくる鉄板の魔道具。
後ろに乗っていた生物は――。
足を怪我した鴨だった。
怪我をした片足を庇っているのか、身体が斜めに傾いている。
「こ、これは……! 湖の生き物に間違いないですが、水の中を泳いでいる生き物ではなかったですね……」
村長は期待しすぎたのか、頭を抱えた。
水中探索と怪我の感知できる機能で、水面を泳いでいる鴨を連れてきてしまうとは。
「どうしますか、この子? 保護して足が治ってから湖に戻しますか?」
村長の息子は私たちに尋ねてきた。
落胆したものの、放ってはおけない。保護して回復を待って湖に戻したところで、人に慣れた鴨が野生にすんなり戻れるかは分からない。
それよりは、私が動いた方が早い。
「――私が治すわ」
「えっ? 英雄さまが?」
村長の息子は驚いた顔をした。
むしろ、回復魔法を使う方が慣れている。元、本業だしね?
「ロザリー、頼んだ」
ロウはそう言って、魔道具の上に乗った鴨をそっと抱えてきた。彼の手は、防水の手袋をしっかりと着けている。いつの間にか魔道具の収納から取り出したのだろう。
「任せておいて」
ロウの素早い行動に感心した私は、鴨の足に向けて両手をかざす。
すると、ほわほわとした光に包まれて、鴨の足から傷が消えた。
「おお! 戦いの力だけでなく、傷を癒す力があるとは、さすが英雄さまだ!」
村長は手を叩いて、私を称賛した。
「回復魔法は私の得意な魔法なので、役に立てて良かったわ」
「大魔法使いさまだけでなく、英雄さまも謙遜を。二人揃って慎ましいことですな」
鴨も足が治ったのを分かったようで、数歩ペタペタと歩いて、羽を動かして飛んで行った。
旋回して、一度顔を見せてくれたのは、お礼を言われたようで嬉しい。
「仕切り直しで、もう一度、魔道具を湖に沈めようか」
「そうね」
私が頷くと、ロウは魔道具を湖に持って行く。
すると、大きな水飛沫が飛んできた。
『ご主人さま、危険が迫っています!』
「え⁉︎」
リアの叫び声に驚いて顔を上げると、湖の水が竜巻のように盛り上がった。
「マズい! 一旦離れよう!」
ロウも一瞬驚いたが、私たちの安全を確保しようと声を張った。
その声を受けて、私たちは一歩後退する。
その間も、みるみるうちに三階建てほどの高さになった水柱が、飛沫を上げながらこちらに迫ってくる――。
私は驚きのあまり、立ち止まってしまう。
ねじれて勢いを増す水柱の中から、ヌッと人の手が伸びてきたように見えた。
「ロザリー!!」
ロウの私を呼ぶ声を最後に、意識を失ってしまった。
そういえば、村長の娘――ティエリから、「湖に近づき過ぎないで」と言われてたなぁと思い出しながら。
……。
…………。
………………。
「……さま、お嬢さま」
沈んだ意識の底で、心配そうに誰かから声をかけられた。
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