第44話 ロウの宣言

「大魔法使いさまがお見えですが、リビングルームにお通ししてもよろしいでしょうか」

 

 メイドのサラにそう聞かれて、もちろん大歓迎だったのですぐに「お願いします!」と返事する。


 鏡を見て、毛先に寝癖がないか確認する。うん大丈夫。

 

 この客間はベッドルームと扉続きのリビングルームがあって、そこでの面会は許されていた。

 扉を開けると、既に部屋に通されていたロウがソファに座っていた。

 

「ロウ!」

「ロザリー。」


 顔を上げたロウの顔を見てびっくり。

 眼鏡を外して、髪の毛もちゃんとセットされていて前髪は横に流している。そして、マントを着て旅装束。憧れの大魔法使いさまの見た目だったのだ。


 待って、心の準備が全然できてなかった……!

 

「あ……!」

「何だ?」

「いや、何でもない……」


 このバージョンのロウが現れるとは思っていなかったから、心臓はバクバクだ。

 そんな内心がバレたくなくて、必死に平常心を取り繕う。

 だけど、正式な調査で大魔法使いさまとして行くんだから、それに相応しい見なりのはずよね。

 

「この生活に不自由ないか?」

「家にいるよりむしろ居心地が良すぎるくらいよ。私が困らないように交渉してくれたんでしょう? ありがとう」

「……それは安心した」


 照れているのか、ロウはそっぽを向いた。

 

「ロウはこれから北の修道院へ出かけるの?」


 旅装束はそのためだろうなと思いながら、話を促す。

 

「ああ、そうだ。必ず証拠を見つけるから、大人しく待っていてほしい」

「わかったわ……ええと……」

   私が何かを言い淀んだ様子を見たロウが「どうした?」と聞いてくる。

 それじゃあ、遠慮なく聞かせていただきます!

 

「どうして、大魔法使いさまが私にここまで力を貸してくれるんですか?」


 国を代表する大魔法使いさまが、私のために尽力してくれるのは嬉しいが、申し訳ないと思う。

 この親切な気持ちに、何か私に返せるものがあれば喜んで差し上げたいけれど。

 私にできることって、美味しいお菓子を作ることか、話し相手になることぐらいなんだけどな。

 

「それは……それには理由がある」

「理由って?」

「それは、それはだなぁ……今、言わないといけないか?」

「うん」

 

 ロウがやたらにもったいぶるので、気になって頷いた。

 

「じゃあ言わせてもらう。…………だからだ」

 

 肝心のところが、モゴモゴと話されて聞こえなかった。

 真剣な目をしたロウと視線がぶつかる。

 私にしっかり伝わったと思っているのだろう。いいえ、一番重要なところが聞こえていません!

 

「えーと、聞こえなかったわ。もう一度言ってくれる?」

「……」

 

 ロウが言葉を長く溜めるので、思わず唾を呑み込んだ。

 なぜかロウは顔を赤くした。


「……やっぱり言えない」


 私は心の中でステテーンと転んだ。

 期待させておいて、言ってくれないの? それって、すごく気になるやつ!

 けれど、ロウの言いたいタイミングもあるだろうから、今はそっとしておこうかな。しつこいって思われたら嫌だし。

 

「それなら仕方ないわ。わかった」

 

 あまりに物分かりの良い態度を見せた私に、ロウは一瞬黙り込んだ。

 

「聞きたいんじゃなかったのか?」

「ロウが言いたくないのなら、無理してまで聞かないわ」

「……俺がこの調査でロザリーの無実が証明されたら言わせてもらう。だから、大人しく待っているように」

 

 さっきも大人しくって言ってきたのに、また強調された。

 許可なく部屋から出ていくとでも思っているのかしらね? そんなことないのに。ロウの顔を立てるためにも、約束を破ることはしませんよ!


「ロウの言う通り、大人しく待っているわ。よろしくお願いします」

「ロザリーが自分で大人しくって言うと、違和感があるんだが」

「そんなことないわ! だいぶ私に失礼よ!」

 

 その後は、早々に出発するロウを見送る。……っていっても、すぐそこの部屋の扉の前までだけど。

 

 でも、ロウの私を助けてくれる理由って何だろう。

 

 弟子を助ける師匠の気持ち? そうじゃなければ、捨て猫を助ける人の気持ち? おそらく前者の方なんだろうな。

 

 なら、どうしてあんなに言い渋ったんだろう。

 ……とても気になるけど、時期が来たら教えてくれるわよね。


 つい物分かりの良い大人な態度を取ってしまったわ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る