第6話 ロザリーは魔道具屋の店主を中級の魔物討伐に誘う
ギルドの掲示板で「中級の魔物討伐」の欄が目に入った。初級の魔物討伐は、畑を荒らすスライム退治等の冒険者でなく一般人でも可能なレベルで、報酬が安い。
問題は、中級の魔物討伐がBランク二人以上を推奨されていることだった。この魔物討伐に協力してくれそうな仲間がいればいいが。
「子どもが出入りする場所じゃねえ。とっとと家に帰ってままごとでもしてな!」
そこにはスキンヘッドの冒険者がいた。
私のことを子ども扱いして……! 十六歳の立派な成人女性よ!
でも、声を掛けてくれるとは、ちょうどいい。胸元の冒険者バッチを見せつけた。
「これを見て、私も冒険者よ。あなた、冒険者ランクがB以上だったら、私と一緒に中級の魔物討伐に行かない?」
「はあああ!? なんで俺が、見ず知らずのお前と!?」
私の突然の勧誘に、冒険者は驚きの声を上げた。
「見ず知らずの人が先に声を掛けてきたのはそちらでしょ? ま、何かの縁だと思って」
「お断りだ!」
あっさりと断られてしまったのが悔しい。
こうなったら。よーし、とっておきの秘策を披露しよう。
「……私の持っている魔道具、大魔法使いさまの御用達の魔道具屋さんで作ってもらったの。それを聞いても同じ態度でいられるかしら?」
もったいぶって言うと、冒険者の顔色が変わった。
「伝説の大魔法使いさま御用達の魔道具屋だって!? そんなこと聞いたことがないぞ!?」
驚いた顔に満足して、私はニコリと笑った。
「聞いたことがないのも当然。特別に仕立ててもらったものなの。ま、私の人脈のおかげですけどね」
話を盛っておくのも忘れずにね。後は私の張った網に引っかかってくれるのを待つだけ。
「……その魔道具、見せてもらえないだろうか?」
よし、引っかかった。冒険者たるもの、魔道具の性能が気になるはずだ。
頭に付けているカチューシャが魔道具だけど、これを餌に釣り上げようかな。
「魔法討伐に参加してもらえるなら、特別に見せてあげなくもないわ」
「わかった参加する!」
「……やっぱり、やめたわ」
「は? なんで?」
その気になっていた冒険者から問いただされる。
簡単に手の平を返せる人って信用ができない。どうせなら心から信用できる人と冒険したい。
一緒にいる人を選ぶ権利くらい私にあるわ。
「こちらから勧誘しておいてなんだけど、人となりをしっかりと見てから組みたいと思ったのよ。でも、あなたはないわ。さようなら」
「はあああ? 黙って聞いていれば、勝手を言いやがって!」
殴りかかってきそうな勢いだったので、やっぱりこちらから断っておいて良かった。乱暴な男は願い下げよ。
* * *
「そんなこんなで、中級の魔物討伐のバディを見つけられなかったのよ……」
私がお悩みを吐き出したのは、例の「大魔法使いさま御用達の魔道具屋」だった。一人で悶々と悩むよりはずっと良い。
ようは、実績がない以上はパーティを組んでもらえる仲間が見つからなかったのだ。私も人を選びたかったし。魔道具で釣るのも、なんだか気が引けたしね。
妖精のリアはフラッと姿を消して、この場にはいない。魔道具屋には珍しいものが多いから、隠れて見物でもしているのかもしれない。
ロウは私の話を適当に聞いているのか、目を瞑ってウンウンと言っているだけだ。
ウンウンと言うくらいなら、解決方法を導いてくれればいいのに。頼りにならないんだから。……でもまあ、他人任せじゃダメだよね。
そうだ! いいことを思いついた。
「ロウ。明日は店を一日休業にして、私と魔物討伐に行かない?」
うん、協力を仰ぐってことは他人任せは他人任せか! でも自ら誘っているんだから大目に見て!
魔道具屋の店主をしているくらいだもの、ちょっとは役に立つはず!
それに、私に足りなかった実績を作れるじゃない!
そんな思惑をよそに、ロウは露骨に嫌な顔をした。
「…………俺?」
と、返事に長い間があった。その後も戸惑いの表情を浮かべている。
「何よ、問題ある?」
睨むと、ロウは納得していないというような顔をした。
「問題も何も……大アリだ。店は空けられない」
「そこをなんとか! 個人経営なんだから融通利かせてよ!」
私が手を合わせて頼み込むと、ロウはやれやれと諦めの吐息を出した。
「まったく……一人で行かれても心配だからな。着いていくよ」
「やった! ありがとう」
私のゴリ押しで、初討伐が決まったのである。
一人で行かれても心配って……ロウは保護者で私は幼児か!
でも、魔道具に詳しいロウが同行してくれるのは、少し安心感があった。
実戦で役立ちそうな、攻撃の魔道具を持っていってくれそうだしね。
まさかこのときは、ロウ持参の便利な魔道具を次々に売りつけられるとは思っていなかったのである。
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