第7話 妖精がロザリーにロウは大魔法使いだと伝えようとするが……

「あの……ご主人さま」


 魔道具屋を出たところで、遠慮がちに聞いてきたのは妖精リア。


「どうしたの?」

「話しておきたいことがあるんですが……」

「急に改まってどうしたの? 言ってくれて大丈夫だわ」

「あの、さっきの魔道具屋の店主さんですが……」


 私をまっすぐに見て、何かを訴えるような目をしている。

 彼女は小さな口をあわわと動かしたまま、なかなか話し始める気配がなかった。少し疑問を持ちつつも、私が知っていることを話すことにした。


「あの人――ロウは、大魔法使いさまとお知り合いらしいわよね」

「ええと、そうなんですけれど……」


 煮え切らない返事に、「リアは何を言いたいの?」とわからなくなってしまう。

 リア自身も言葉にできずもどかしい気持ちがあるようで、うーうーと唸っている。なんだか可哀想になってきた。


「リア。私の顔色を伺わなくていいのよ。何を言われても困ることはないから、何でも言って?」

「ご主人さま……」


 リアは若草色の瞳を潤ませた。


「あの、ご主人さまが大魔法使いさまと会ったのは、かなり前なんですよね? 今、もし偶然会えたらとしたら、大魔法使いさまだってわかりますでしょうか?」


 大魔法使いさまに会ったのは、魔獣にさらわれたのを助けられたときの5年前だ。

 そのときのことはよく覚えている。

 金髪に緑色の瞳。背も高く、程よく筋肉もあって、剣士のようにも見える。魔獣を薙ぎ払いながら助けられたときは、どこかの国の王子さまが現れたのかと思った。

 そもそも、偶然に大魔法使いさまと出会えるのか、という疑問は置いておいて。


「わかる……と思うわ。こう見えても、私は人の顔を覚えるのは得意なんだもの」

「そうですか……」

「それで、話しておきたいことって?」


 大魔法使いさまと魔道具屋の店主の関係は、客とお店の間柄しかない。リアの話は脈絡のない事のように思えて、核心をつくべく話を促した。


「魔道具屋の店主の冒険者ランク、Aランクでした。お店の隅に冒険者バッチが置かれているのを見たんです」

「そんなことだったの?」


 リアが言いにくそうにしていたので、拍子抜けした。なんだ、冒険者バッチを盗み見たことくらい、大したことないのに。リアってば、真面目な子なんだわ。

 リアの一連の行動を、そう結論づけた。

 ロウが冒険者バッチを身につけていないのは、冒険者の安定しない生活よりも魔道具屋の店主を選んだということだ。


「教えてくれてありがとう。勢いでロウを誘っちゃったけど、冒険者ランクAは私よりも上だし、頼りになるわ」

「いいえ。ご主人さまのお役に立てたら嬉しいです」

「そういえば――リアは大魔法使いさまに偶然会ったらわかるの?」

「え? 私、ですか?」


 リアは肩をぶるりと震わせた。


「妖精なら、人間の目に見えないこともわかっていそうな気がして」

「私は――わかります。大魔法使いさまは、妖精王の娘を救ったことがありまして、妖精王より礼を欠かさないよう言いつかっています。私でなくても、妖精でしたら大魔法使いさまの『気』でわかります」

「妖精王の娘を救ったんだ! さすが、大魔法使いさまだね!」


 人間に知られていないところでも、功を積み重ねていたらしい。

 すごい、すごい! 憧れの気持ちが膨らんでいく。

 大魔法使いさまに会えたら、妖精王の娘を救った逸話を聞かせてもらいたいな。

 うふふ。想像しただけで、嬉しくなってきた。


「教えてくれてありがとう、リア」

「いいえ。お役に立てて嬉しいです」


 リアはそう言って微笑んだ。

 彼女の言葉が、今度は気持ちのこもったもののような気がした。

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