第8話 妖精リア視点
私、ツツジの花の妖精リア。
どこにでもいる妖精だったけど、ご主人さまに命を助けられて、恩返ししたいと強く願って実体化できた。
主従契約をするときに、「お友達になってほしい」とご主人さまに言われた。
常に一緒に行動すれば自然に「お友達」になれると思っていた。
ご主人さまの作るお菓子は美味しくて、つい食べ過ぎてしまう。
でも、このままではご主人さまからもらってばかり。彼女の役に立たなくては、ただの居候だ。いや、ペットだ。それではダメだ。ちゃんと恩返しをしたい。
ご主人さまの願いは大魔法使いさまに会うこと。その願いを叶えるために、恋のキューピットになりましょう!
幸運なことに、妖精王から大魔法使いさまの「気」の色を教えてもらっていて、大魔法使いさまを見ればわかる。私のような下級妖精でも周知していた。
当たると定評のある花占いの結果も、「再会できる」となっていた。
いつ頃再会できるか、こっそりと占っても「近日中」と出てきた。十分に期待できる結果だ。
よし、大魔法使いさまと遠くですれ違ったとしても、すぐにご主人さまにお伝えしよう!
……と、やる気満々だったのに、思わぬところで決意が削がれてしまうとは。
「ロウ、お邪魔するわ」
ご主人さまは、当たり前のようにその店に入った。
ありえないことに、ご主人さまは大魔法使いさまの経営する魔道具屋の常連客だったのだ。
私は魔道具屋に入る前に躊躇した。店の外からでも、大魔法使いさまの虹色の気に圧倒されていたのである。妖精にしか感じ取れない気だ。
ご主人さま、その方がずっと探していらした大魔法使いさまです……!
お伝えしなくては。意を決して、入り口の扉をすり抜けて店の中へ。
さらに、ご主人さまの声が聞こえていた。
「ロウ。明日は店を一日休業にして、私と魔物討伐に行かない?」
ああ……大魔法使いさまを中級の魔物討伐に誘ってしまうとは。物陰から盗み見ると、大魔法使いさまは、やれやれとため息を吐いている。
私は恐れ多過ぎて、背中がブルッと震えた。
「一人で行かれても心配だからな。着いていくよ」
お優しい。ご主人さまのために、大魔法使いさま自ら手を貸してくださるとは。
このままご主人の前に出て行って、「この方が大魔法使いさまです!」と伝えるのは、当の大魔法使いさまが望んでいるようには思えなかった。大魔法使いさまなら、私の姿と声が聞こえるはずだ。大魔法使いさまに正体を秘密にしておきたい何らかの考えがあるとしたら、それも邪魔したくない。
よし、お店から出たら、ご主人さまにこっそりと伝えよう。
しかし、その決意も削がれてしまうとは。
「今、もし偶然会えたらとしたら、大魔法使いさまだってわかりますでしょうか?」
「わかる……と思うわ。こう見えても、私は人の顔を覚えるのは得意なんだもの」
私はふと思った。ご主人さまがわからないのは、正装姿の大魔法使いさまと、魔道具屋の店主の姿では大きなギャップがあるのでは、と。
本当のことを言ったところで、人の顔を覚えるのが得意だと言うご主人の顔に泥を塗ることになってしまう。それは良くない。慎重に言葉を選ぶ必要がある。
「それで、話しておきたいことって?」
頭の中で話がまとまらず、先延ばしのどうでもいい話をねじ込んだ。
「魔道具屋の店主の冒険者ランク、Aランクでした。お店の隅に冒険者バッチが置かれているのを見たんです」
「そんなことだったの?」
ああ……私の言いたいことは、違う。そんなことじゃない。
心の中が罪悪感でいっぱいになっていると、ご主人さまは微笑んだ。
「教えてくれてありがとう。勢いでロウを誘っちゃったけど、冒険者ランクAは私よりも上だし、頼りになるわ」
冒険者ランクAは低く見積もったランクだろう。本来の実力ならば、SSSランクに違いない。
そこまでして隠すのは、引退後の魔道具屋の人生を楽しみたいからだろうか。
「いいえ。ご主人さまのお役に立てたら嬉しいです」
私が大魔法使いさまの正体を話せなかったのは、彼の意思を優先したい気持ちと……。
「妖精王の娘を救ったんだ! さすが、大魔法使いさま! ああもう、カッコいいなぁ……」
瞳をトロンと潤ませている。恋する乙女そのものだ。頭の中で美化されているに違いない。
ああ、本当のことを知ったら、ショックを受けて寝込んでしまうかもしれない。私の口からは到底言えない。
「教えてくれてありがとう、リア」
「いいえ。お役に立てたら嬉しいです」
ごめんなさい。でもご主人さまのためなんです。
ご主人さまを思って、黙っていようと決めた。
大魔法使いさまと一緒にいれば、彼の類稀なる実力を知ることになると期待して……。
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