第23話 大魔法使いさまと共闘する

「恐れながら……聖女さまが必要でしたら、現・勇者パーティのソニアさまがいらっしゃいますが……」


 王国騎士団の一人が大魔法使いさまに提言した。


「ああ……」


 と言って、大魔法使いは思い出したように聖女に視線を送る。彼女はステージから降りてこの場から去ろうとしていた。

 ギクリと小さく肩を縮めさせたのが見える。さてはしれっと逃げるつもりだったかな?


 大魔法使いさまは何も見なかったように、ただ視線を戻した。


「背中を預けたいと思えるのは俺が認めた人だけだ」


 暗にソニアは認めていないと言っている。

 火の粉が飛んで来ないとわかったソニアは、隣にいるアーサー王子へ「魔獣が恐ろしい」とでも言ったのか、彼の腕を握りしめた。ま、聖女の戦闘放棄は最初から話にならないけど。戦闘に加わったとしても、私が彼女のフォローすることになるだろうから実質頭数にも入らない。となると逃げてくれて良かったわ。


「敵が攻撃してきた時は、俺に回復魔法をかけてくれ」


 大魔法使いさまは正面に立つ私へ声をかけてきて、私は「わかりました」と返事した。

 共に戦う時は背中合わせになるものだけど、今回は向かい合っていた。魔獣は大魔法使いさまの死角である背後から出現する可能性が高いからだ。


 大魔法使いさまはどこからか取り出した長剣を構える。

 あれ? 剣を使う人だったかな?

 少なくとも私のファン調べにはなかった。


「これは近距離攻撃に対応するための魔道具だ」


 私の剣を見つめる視線を受けて、大魔法使いさまが教えてくれた。

 魔法使いの欠点とも言える近距離攻撃をカバーする便利な魔道具があるんだと感心していると、急に黒い丸が出現した。


「来ました!」


 声を上げると、黒い丸から頭を出した大蛇と目が合い、スッとそこから消えた。

 逃げ足が早すぎる。


「いなくなりました!」

「いや、むやみに叫ばない方がいい。場所を悟られると、出現場所を変えるからだ。厄介な敵だ」


 それならば……と次に現れた時に指を差したら、やはり逃げられた。


 何か秘密の合図でも決めていた方がいいの? でも、ジェスチャーする間にも襲われる!


 打開策はないまま、かれこれ一時間はそんなイタチごっこ続けていただろうか。ずっと気持ちを張り詰めていたら、少し疲れてきた。大魔法使いさまは油断なく立っていて、そんな素振りを見せないのがすごいと思う。


「敵が攻撃を諦めて、今日は足を引く……ってことはありますか?」

「それはないだろう。大蛇は地の果てでも粘り強く追いかけてくる特性があるからな」


 うわぁ嫌だ。一番敵に回したくない敵だ。粘り強いというか、ねちっこいというか。


「あ、来ました!」


 私は反射的に叫んだ。

 それでも我々(特に私)に隙があると思われたのか、黒い穴から大蛇が大きな口を開いて飛び出してきた。


 私は最初の打ち合わせ通りに回復魔法を発動させる。


 大魔法使いさまはすぐに反応して、シュッと長剣を振った。魔法使いだと思えないくらい素早い。まるで洗練された剣士のような動きだ。

 しかし、大蛇は首を傾けて攻撃を避けた。素早さは大蛇の方が一枚上手だった。


 間を空けずに、クワッと大きな口を開けて襲いかかってきた。

 大魔法使いさまは剣で振るおうとするが、大蛇の尻尾が剣の柄から大魔法使いさまの手首に巻きついてくる。

 手の自由を奪われたならば、と大魔法使いさまはイヤリングの魔道具から魔法を発動した。


 シュシュシュッ!

 先端の鋭利なナイフが数本、大蛇の頭を目がけて飛んでいく。が、これも外した!

 ナイフはむなしく地面に突き刺さる。

 反撃されて、大蛇が大魔法使いさまの腕を噛んだ。


「うっ……」


 回復魔法をかけ続けているため、大蛇の猛毒は体に入り込まないはずだが、大魔法使いさまは噛まれて一瞬眉をひそめた。

 鋭利な歯で噛まれたのだ。毒を和らげているとはいえ、痛いに決まっている。


 大魔法使いさまを傷つけるなんて許せない。

 ふつふつと怒りが込み上げてきた。

 けれど、頭の中はひどく冷静だった。大魔法使いさまに危害がないような攻撃魔法を選ぶくらいには。


「アイスブレス!」


 大蛇は首を回して私の方を見た。来るだろう反撃に身を固くする。が、来なかった。

 大蛇の尻尾から凍り始めて、首を回した状態で頭まで凍ったからだ。

 とりあえず、これで大丈夫だ。

 私の肩に力が抜けた。


「回復魔法と同時に攻撃魔法が打てるのか!?」


 大魔法使いさまは驚いた。


「できますよ。回復魔法は無詠唱で発動できるので、攻撃魔法の詠唱をしつつ同時に発動させる感じですね」


 少しコツがいるけれど、私なら可能だ。

 他にも何かを言いたそうだったが、私をチラリと見て言うのを諦めたようだった。


「……ただのヒーラーにしておくのは惜しいな」

「そんな、買い被りですよ!」


 同じことを魔道具屋の店主に言われたけれど、大魔法使いさまに言われるとただ誇らしい気持ちになった。

 大魔法使いさまが剣を振り上げて、大蛇にトドメを刺した。

 大蛇が絶命すると、皮膚がポロポロと崩れて地に還っていった。


「終わったな」


 そう言って、大魔法使いさまは剣をしまう。


「はい。……そういえば、大魔法使いさまに渡したいものがあったんです」

「俺に……?」


 私はゴソゴソとウエストポーチの中からピアスの箱を取り出した。パカッと開いて見せる。


「ピアスです。どうか受け取ってください!」

「これは加護付きだね」


 すごい。一瞬で見抜いた。


「これはどんな加護?」

「大魔法使いさまの希望したことが叶いますように……という加護です」

「特別な加護を付けてくれてありがとう。嬉しいよ。早速着けさせてもらうね」


 大魔法使いさまは今着けていたピアスを外すと、私から受け取ったピアスを着けてくれた。

 嬉しい。似合ってる。頑張って作ったかいがあったな。


「どうかな?」


 そう聞かれて、あまりに嬉しすぎて「最高です!」と答えていた。

 あれ? 答えになってなかったかな?

 大魔法使いさまにクスリと笑われて、つい出てしまった失言が恥ずかしくなった。

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