第37話 ロウご本人とご対面!?
ネイヴァが帰ったあと、リアが駆け寄ってきた。
「ご主人さま……」
心配そうな顔をした彼女を責めるつもりはない。何かを言いたそうにしていたけど、どうしても言えなかったのは伝わってきたから。
「私もずっと前から気づいていたんですけど、言えばよかったです。ご主人さまの顔に泥を塗って、すみませんでした」
「謝らなくていいのよ。ファンを公言しているくらいだったら、自分で気づかないといけなかったんだわ。ほんとファン失格よね。これまでの無礼を平謝りしないと、きっと大魔法使いさまからは許してもらえないわ!」
そう言い切ると、リアは否定するように目を瞬いた。
「魔道具屋の店主でしたら、怒ってはいらっしゃらないのではないでしょうか。……だってご主人さまの実力を認めていましたもの」
私の実力を認めてくださった!? あの大魔法使いさまが!?
単純に嬉しい。涙が出るくらい嬉しい。
でも、謝らないとどうも気持ちの収まりが悪い。だって生意気すぎるにも程があるでしょう? 本当は一般人が話しかけてはいけない人だったんだから。どうやって謝ろうか……と考えたところで。良い案がひらめいた。
「ロウが、いいえ、大魔法使いさまが激推ししていたウサ耳を着けて謝るしか……」
カチューシャから取り外したウサ耳は奇跡的に残してあった。使う機会はないだろうけど、捨てるのも何だか可哀想で一応取ってあったのだ。
「ウサ耳を着けて謝る!? そんなことなさらないでください! 魔道具屋の店主の変な趣味に無理に合わせる必要はありません!」
と、リアからは強く止められた。
変な趣味。確かに変な趣味だけど、大魔法使いさまの趣味だったら天才の考えることだから次元が違うと感じてしまう。
残念。私にできるのはこれくらいしかないと思ったのになぁ。
でも、誠意を持って謝っている場面でウサ耳を着用しているのはおかしな話で。真面目に謝っているのか疑問を持たれるに違いない。
「じゃあ、どうしたらいいのかな。そもそも、最近忙しそうで会ってもらえるかもわからないのに……」
「ご主人さまが謝りたいと思うのでしたら、その気持ちを言葉で伝えたらいいのではないでしょうか。魔道具屋の店主でしたら、しっかりと気持ちを受け取ってくれるのではないかと思います」
正論なんだけど、心の中にじんわりときて勇気が出てきた。
そうだよね。目を見てしっかり話せば、気持ちは伝わるはず。
「そうだよね。よーし、やってみるわ! ……って、大魔法使いさまは忙しくて、魔道具屋では会えないじゃないの……」
やる気が出たところで弊害があった。そんなことでめげたりはしたくないんだけどさ。
「ご主人さまファイトです! 店を空けたくないと以前おっしゃっていたので、いつかは営業しているはずですよ!」
と、リアは精一杯励ましてくれた。
全然期待はしていなかったのに、行ってみたらなんと魔道具屋は通常営業していました。
窓に「OPEN」の看板がかかっていて、中に入ると薄暗い店内だけど人の気配があって。
「ロザリーか、久しぶりだな」
私服ヨレヨレのダサい店主がそこにいた。
「あ――はい」
つい、いつもの調子で軽く返事をしてしまった。
じっくりと見れば実感する。メガネを外して、身なりを整えれば大魔法使いさまなんだって。
「大魔法使いさまは、伝説の勇者パーティの再招集で忙しくされていたのではなかったのですか?」
「それは、今は店の優秀な魔道具があるからな。いくつか買い取ってもらって、同行を免除してもらった。――って、ついに俺の正体がわかったんだな?」
ああ、やっぱり意図的に正体を隠してたんだわ。
イタズラな顔をしているロウを見て、そう実感した。
緊張するけど、今言わなくては。
私は大きく息を吸い込んで、一気に言葉を紡ぐ。
「ロウさん、いいえ、大魔法使いさま。今まで生意気なことをたくさん言って、申し訳ありませんでした」
彼の目をしっかりと見てから、ペコリと頭を下げた。私のできる精一杯の謝罪だった。
「は? ロザリーらしくない。というか、全然気にしてねえよ。大魔法使いさまを中級の魔物討伐に誘ってきたときは肝の据わった娘だと思ったが、物怖じしないところがロザリーの良いところだし。むしろ、急に態度を改められても困る。今さら改まって言うな」
肝の据わった娘! そう思われていたとは、やっぱり恥ずかしい!
それに、今さら態度を変えるなですって!? それは無理な注文です!
困惑していると、ロウは軽く笑った。
「俺はロザリーから、気軽に話しかけてくれるのが嬉しかった。でも、正体を言ったら、距離を取られるんじゃないかと怖くなって、ずっと言えなかったんだ。俺こそすまん」
私はフルフルと頭を振る。
「いいえ。自分で気づくべきところでした。ロウさんは悪くないです」
「俺からのお願いだ。どうか、今までのように気軽にロウと呼んでほしい」
真剣にそう言われた。
ロウからの要望ならば、断ることはできない。
「わかったわ。今さらかしこまるのも変だしね。ロウ、これからもよろしくお願いします」
「んーそうだな。ロザリーらしくない丁寧な話し方も元に戻してほしい」
「……それは、どうにも無理です! だって、尊敬している大魔法使いさまに失礼なことは言えません!」
「今まで失礼な発言をたくさんしていたくせに。丁寧に話されても違和感だらけだ」
笑って却下された。
私の中で作り上げられていた大魔法使いさまの像がボロボロと崩れ落ちていくけれど、それが不思議と嫌ではない。何だ、この気持ちは。
「まだ、私の中で整理がつかないんです! 今さら同一人物でしたって言われても困ります。私ってば恥ずかしすぎるじゃないですか!」
「俺は別に構わないが……」
「大魔法使いさまが良くても、私は良くありません」
キッと睨むと、ロウの緑色の瞳が心配そうに細められる。国王陛下主催のパーティでエスコートしてくれた時に、間近で見た彼の瞳と同じ。
ああ、本当に大魔法使いさまなんだ……。
そう悟ると、完全に開き直った。やっちまったものはしょうがない!
「私も、今さら話し方や態度を変えるのも無理そう。ロウが良いと言ってくれるなら、甘えさせてもらうわ!」
「ああ。そうしてくれ」
我儘を言っても、ロウの目は優しかった。
私がよそよそしくて寂しくなったから、大目に見てくれた感じかな?
今さら借りてきた猫になるのは私らしくもない。いつも通りを心がけよう! ……それが上手くできるかわからないけど。
《第一部 完結》
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