第39話 新機能付きの魔道具を手に入れる

 魔道具屋の店主の通称ロウ、本名はグロウ・アレイスター。

 見た目はヨレヨレのシャツ、目にかかる前髪に黒縁眼鏡。


 一見、冴えないお兄さんだけど、実は伝説の勇者パーティの一人で、最高峰の魔法使いにしか与えられない大魔法使いさまの称号を持っている。

 

 五年前から密かに憧れていたけど、こうして魔道具屋で気軽に会えるとはね。

 

 彼の正体を知ったのは魔道具屋へ通うようになってからだいぶ経ってのことだった。しかも、人から教えてもらうって……鈍感にも程がある。

 

 教えてくれた当人のネイヴァからは「気づかないのが哀れ過ぎて教えてしまった」と言われた。

 ほんとそう。側から見たら哀れでした! うん! もはや開き直るしかない。

 

 ずっと気づけなかったのは、きっと黒縁眼鏡のせいだ。その言い訳は、誰も首を縦に振ってくれないけれど。

 

 ロウは魔獣討伐のときに戦闘の邪魔になるからと言って眼鏡を外すらしい。

 視力はそれほど良くないらしく、一時的な視力回復の魔法をかけるのだ。その魔法は目に負担がかかり、素顔が拝めるのは魔獣討伐のみとなっている。顔はそれなりに整っているとは思うけど、眼鏡のせいで魅力半減だ。

  じゃあ、普段から眼鏡を外してほしいのかって?

 それはやめてほしい! 大魔法使いさまが近くにいると思うと、変な動悸が走るんだもの! いや、彼が大魔法使いさま本人なんだけどね? わかってはいるけど!


 ロウがおもむろに新聞から顔を上げると、大魔法使いさまに渡した深い青色の石のピアスが両耳に揺れる。普段から使ってくれているらしい。あっ……嬉しい。


 さらに、眼鏡の隙間から緑色の瞳が覗いてどきりとしてしまった。目の前にいるのは大魔法使いさまだと現実を突きつけられて。


「ん? どうした?」

「いえ」

 

 パッと視線を反らす。

 顔を凝視していたのがバレた。恥ずかしい!

 

「私が贈ったピアス、着けてくれてるんだと思ったんです」


 嘘は言っていない。つい緊張した心の内を隠したかっただけ。

 平静を装っていたら、話のすり替えに気付かれなかったようだ。

 

「ああ。これな。着け心地が良くていつも使っている。ロザリーからのプレゼントだしな」


 と、言葉を切って「そう言えば……」と呟きながら棚を漁り始めた。

 私からのプレゼントだから着けてくれてるの? そうだったら舞い上がるくらい嬉しいけど、聖女の加護が効いてるってことだろうな。

 

 ロウは目当てのものを見つけたらしく、なにやら後ろ手で隠しながら戻ってくる。さては私にサプライズかな?

 

「俺が一緒に行けるときは着いて行こうと思っているが、ソロ冒険者の旅には危険がつきものだ。……そこでだ。ロザリーにパワーアップした攻撃の魔道具をやる。もちろん無料だ」


 そう言って出してきたのは、長く尖ったエルフ耳のカチューシャだった。

  ……どうしてエルフなの!

 全力でツッコミたくなった。

 私の疑わしげな視線を感じ取ったのか、説明を追加してくる。

 

「エルフは耳で危険を察知する能力があるらしいから、それにあやかった。それだけじゃなくて、見た目も良いだろう?」

 

 見た目が良い!? むしろ恥ずかしいわ!

 そうは言っても、大魔法使いさまからのプレゼントをむげに断るわけにはいかない。

 

「見た目はともかく、ありがとうございます。頂戴します」

  受け取ってからサッと確認したところ、カチューシャにはボタンが付いていて取り外し可能だった。やはり前回もらったウサ耳と設計は同じ。

 

「どうせ外すんだから、余計な装飾はいらないのに……!」

 

 そうクレームを入れても、「いや、エルフ耳は男の夢だ」とか言って聞く耳を持ってくれない。

 

「パワーアップって、どんな改良をしたの?」

「そうだった。肝心の説明をしてなかったな」

 

 話を促すと、ロウは得意げに話し始める。

 

「攻撃の魔道具の威力は同じだが、ロザリーの危険を察知したら、俺に連絡が行くシステムだ。これでお前が野垂れ死ぬことはない」

「魔道具の威力は同じなんだ……」

「反応するところはそこか? 魔道具の威力はこのままで十分だろう。ソロ冒険者の活動を応援してやろうと思って、大魔法使いさまが一肌脱いだんだぞ」

 

 自分で胸を張って大魔法使いさまって! 事実だけどさ!

 

「大魔法使いさまの貴重なお時間をエルフ耳に割いてくださってありがとうございます」

「エルフ耳の生成は丸一日しかかかってないぞ」

 

 嫌味とも取れる発言をした私に、ロウはケロッと言った。

 

「丸一日が貴重なんです! ……もう。ロウって、大魔法使いさまと同一人物とは思えないわね」

「まあ、隠居生活のようなものだからな。だからこそ、ロザリーが危ない目にあったら一番に駆け付けられる」

「見守り機能が付いたってことね。一人旅の場面も出るかもしれないし、これで安心できるわ。ありがとうございます」

 

 私を心配してくれたんだよね? それはありがたい。

 時々バカなことを言ってくるけれど、ロウの優しさに心を打たれた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る