第33話 作戦会議をする

 ロウとネイヴァと私の三人でロウの魔道具屋に移動すると、地下室へ案内された。


「……あれ? この店に地下室なんてあったかしら」


 店の配置は知り尽くしているが、地下室の存在は知らなかった。店の奥から行くのだろうか。


「秘密の部屋だからな。教えるわけがないだろう?」


 ロウが得意げに言って、可動式の本棚をどけると階段が出現した。

 隠し階段だ。こんなところにあったのか。常連でも知らないわけだ。


 中を覗き込むと、階段の壁には宝石のように光る魔石が多数埋め込まれていた。

 ざっと見ただけでも防御、防音、攻撃無効、状態異常無効など。旅のお供に一つ分けてほしいくらいだ。


「さあ、行こう。この地下室のセキュリティは完璧だ。王宮の魔法使いにも見つからないだろう」


 階段を降りながら、ロウはそう豪語する。

 あまりにも自信たっぷりに言うので、鼻を明かしてやりたくなった。


「なら、大魔法使いさまには?」

「あいつなら見つかってしまうかもしれない……」

「ふうん。それなら意味ないじゃない」

「それは大丈夫だ。あいつは味方だから」


 セキュリティ万能説の説得力に欠けるが、大魔法使いさまなら仕方がないか。

 ロウが地下室の石のドアを開けると、それなりに立派な部屋だった。革張りのふかふかなソファにガラスのローテーブル。


「お嬢さまがた、どうぞお座りください」


 気取ったようにロウに勧められて、私とネイヴァはソファに座った。

 ロウもソファに深々と座ると、私たちをそれぞれ見てきた。


「では、作戦会議を始める!」

「はい!」


 ロウにならって元気よく返事をしたのはネイヴァ。何があったのかよく分からないが、すっかりロウの信者だ。


「ロザリーも返事は?」

「はい」


 私もイヤイヤながら返事をした。

 ロウはやる気がなさそうな私に納得してなさそうだが、話を進めることにしたようだ。


「まずはネイヴァ。先に話したように、君はセドリックのメイドとして王宮に溶け込んでもらう」

「わかりました!」


 そう言って、ネイヴァは熱の入った目でロウを見つめる。


「次にロザリー。君は重要な役目だ」

「え? 私?」


 急に私に役目が回ってきた。一体何?


「ネイヴァの濡れ衣を晴らすための証拠集めが必要だ。ネイヴァの証言だけでは、アーサーに対抗できない。そこでロザリーの役目というわけだ」

「どうして私なんですか?」


 大魔法使いさまが動かれているのなら、私の出番はないと思う。それなのに、証拠集め?

 ロウは何もないはずの虚空を見上げて叫んだ。


「そこに隠れている妖精! 俺には見えているんだぞ!」

「ご主人さまぁ! 恐いです!」


 私に抱きついてきたのは妖精のリア。

 え? 家でお留守番してたんじゃなくて、ここまで着いてきてたの?

 ってか、ロウはリアのことが見えてたの?

 ネイヴァは妖精の姿が見えず声も聞こえていないようで、いまいち話がわかっていないようだ。


「リアが怯えているじゃない! 急にどうしたのよ?」

「妖精が見えるとは伝える必要がなかったから言わなかっただけだ。妖精はリアと言うんだな。証拠集めでリアの力を貸してもらいたい」

「そう言われても、リアができるとは限らないわよ」


 リアを守るために、あらかじめそう断っておく。可哀想に、リアは私の手の中で震えていた。

 それでもロウは話を続けた。


「石の精霊と取引してもらいたい。魔獣を封印した石の壁なら、誰が封印を解いたのか証言がもらえるはずだ。こればかりは、人間の領域では不可能だ。いくら大魔法使いさまでもな」


 リアは半ば泣き目で、「ひいーん。やります。協力させていただきます」と言って怯えている。


「リアはやると言っているけれど……ロウ、あんたリアに何かした? 尋常じゃなく怯えてるんだけど……」

「別に、特には何も」


 しれっと言ったロウは嘘をついている感じはしない。じゃあ、一方的にリアがロウが苦手なだけ?


「まあ、いいわ。私たちで証言をもらってくるわ」

「もちろん俺も行く」


 魔獣が封印されているのは中級のダンジョンだ。リアと二人でも行けなくもないが、ロウが着いてきてくれたら安心だ。

 ロウの提案にありがたく従うことにした。

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