第32話 女剣士を保護する
ロウの魔道具の転移魔法で私の家へ向かい、二人で居間に着地する。
私が大魔法使いさまを引き連れて来るものだと思われていたのだろう。現れた人物を見ると、ネイヴァは目を瞬いた。
「この人は……?」
ネイヴァがロウのことを訝しげに見ている。ボサボサ頭に、くたびれた服のお兄さん。大魔法使いさまのはずが、急遽他人になってしまったのだからこの反応は当然よね。
「大魔法使いさまの代理の人でロウよ。普段は魔道具屋の店主なんだけど、なんと、大魔法使いさまの御用達のお店よ」
こんな適当な説明で納得してくれたとは思わないけど、ネイヴァは「どうも……」と頭を下げる。
ロウは横目でネイヴァを見た。
「そもそも……パーティを追放された恨みがあるのに助けるのか?」
それを今聞いてくる? 私だって、その他大勢みたく静観していたかったよ! だって、目の前に現れてしまったんだもん! 私が何とかするしかないでしょう?
「苦しんでいる人は放っておけないよ!」
「まったく、ロザリーはお人よしだなぁ……」
そう呟きながら、ロウはビシッと人差し指をネイヴァに向けた。
「よしわかった! 君はメイド兼護衛になれ!」
「はあ!? 誰の!?」
唐突すぎる提案に、ネイヴァは顔をしかめた。
と同時に、私はハッとした。
「まさかロウのメイドに? 身の回りの世話をさせるなんて、変態じゃないの!?」
「そんなわけあるか!」
私のボケに、ロウがツッコミを入れた。
「俺じゃなくて、王子のセドリック。あいつは『メイドが足りない。誰か知らないか』と言っていた。ピッタリじゃないか! それに……」
ロウはもったいふるように言葉をためた。
「敵の中に混ざった方が案外見つかりづらい」
ロウの白い歯がキラーンと光った。
それ、キメ顔をして言うこと?
でも……ロウの言うことは一理ある。女剣士としての凛々しい顔は知られているけれど、カツラでも被ってメイド服を着てたら案外気づかないのかも。
「メイドは構わないが、大丈夫だろうか。私は器用な方ではないが……」
ネイヴァはメイドのふりをできるか心配しているようだ。
「セドリックにはこっちで話をつけるから大丈夫だ。難しい仕事は頼まれないはずだから安心しろ」
そう言って、ロウは親指を立てる。
勝手に話が進められているけれど、セドリックさまって、第三王子のセドリックさまのことよね?
もしかして――。
ロウとの関係は、魔法に学識のあるセドリックさまの懇意にしている魔道具屋さんだったんだわ!
本当にロウの周りって豪華の人ばっかりよね。本人は冴えない感じなのに。
ネイヴァはロウのことをジッと見つめた。
「こう見えても、私は記憶力がある方なんだよな。……あっ! もしかして、あなたさまは――」
急に何やら言い出したネイヴァは、「わかった」とばかりに、手のひらにグーをポンとのせる。
あなたさま?
「だいま……」
「こうしている間にも、王国からの追っ手がやってくるかもしれない。場所を変えよう」
ネイヴァの声が、急にやる気を出したロウの声と被った。
だいま? 大魔王? そんな、いまだかつてない強敵が現れたら困るけど。ネイヴァの言いたいことがよくわからない。
「ちょっと、今からどこに行くのよ?」
「一度、魔道具屋に行って作戦会議としようか。機密性はバッチリだ」
移転の魔道具を準備し始めたロウを突いて聞くと、頼もしい返事がかえって来た。
うーんと、そもそも大魔法使いさまを放っておいて、こっちで勝手に話を進めてしまっていいものかな? 後で大魔法使いさまと魔道具屋で合流するの?
私の心配をよそに、ネイヴァは顔をキリッとさせて「あなたさまに着いて行きます!」と張り切っている。
あなたさまって変な呼び方じゃない? ロウが突っ込まないならそれでいいけど。
さあ、一緒に行くとしますか。
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