第34話 証拠を集める
早速、ロウが転移の魔道具を使ってネイヴァを王宮に送り届けた後、彼が戻ってきてすぐに迷宮ダンジョンへ向かうことになった。
「ほんと、ロウの転移の魔道具は便利ね。一日に何度も使っても魔力は減らないし」
感心して言った。私の転移魔法の場合は、数回連発すると魔力切れで翌日は寝込むことになるからだ。
勇者パーティ時代はアーサーから「ソニアが足が痛いと言っている」と言われて、ちょっとの距離でも転移魔法を使わされてた。私、よく我慢していたなぁ。今ならもちろんお断りだけど。
「こいつはかなり高価な代物だが、今回は特別だ」
少し名残惜しそうにロウは言ってきた。
今回ばかりは売りつけてこないらしい。人一人の命がかかっているものね。
代金を請求するとしても、大魔法使いさまになるのかな?
「じゃあ、行くか」
「はい」
ロウが転移の魔道具を発動させて、ひんやりと冷える洞窟にやってきた。
ランタンの魔道具に照らされて、かろうじて前が見える。
先へ進むほど、道幅が狭くなっていく。
前を行くロウは魔獣が封印されていた場所を知っているのか、枝分かれの道を迷うことなく進んだ。
「嫌な気配がしますね。もう魔獣はいないようですが、強い残り香があります」
私の肩に乗ったリアがコソッとそう教えてくれた。
「ああそうだ。近いな」
ロウの声に、リアがびくりと震えた。
「ちょっと、ロウ! 私の大事な友達を怖がらせないでよ!」
「悪い。そんなつもりはなかった」
軽く謝ると、ロウは歩き始めた。
なぜかリアにはロウに対して苦手意識があるみたい。
あいつの見た目がとっつきにくそうだからね。それは仕方がないかも。
「――ここだな」
ロウは行き止まりの道で足を止めた。ランタンを持ち上げると、石の壁が見える。
そこには、封印の剣が刺さっていたとされる窪みがあった。
「あの勇者パーティの聖女に封印を解かれたと思うと、腹立たしいな……」
独り言のようにロウが言うと、私の肩に座るリアを見た。
「では、妖精のリア。石の精霊に過去の記憶を取り出していいかどうか、交渉を頼む」
「わかりました」
リアは大人しく従い、石の壁へ飛んで行った。
私には実体は見えないが、石の精霊――光の粒が現れた。
一礼したリアは身振り手振りを交えながら、妖精の言語で交渉に入る。
リアが慌てていることもあったことけれど、頑張ってほしいと祈るしかできなかった。
それでも、数分後に晴々とした顔で飛んで戻ってきた。
「眠っているところを起こしてしまったようで少し手間取りましたが、ちゃんと許可をもらいましたよ」
「助かった。ありがとう」
すぐにロウが礼を言った。
私も「リアのおかげね。ありがとう」と言ってリアの髪の毛を撫でると、「どういたしまして」と嬉しそうに頬を擦り寄せてきた。
ロウは水晶玉の形の魔道具を取り出すと、石の壁に近づけた。そして、彼が何やら聞いたことのない呪文を唱えると、水晶玉が光った。
ロウって剣術だけじゃなくて、魔法も使える人なんだわ。
そう感心していると、ロウは「転写が完了した」と言ってきた。
「試しに映し出してみるか」
「そうね」
何が起こったのかはネイヴァの話で大体わかっているけど……。
作動させると水晶玉が光を発して、石の壁に映像が映し出された。
そこには最初、誰もいなかった。しかし、近づいてくる者たちの声が聞こえてきた。
『……ちょっとソニア、どこへ行くんだよ?』
『やらなくてはいけないことができたの』
『お、おい! 急にどうしたんだよ!』
ネイヴァとソニアが揉めている様子だ。
それからすぐにソニアがこの空間に飛び込んできた。どこか遠くを見るような熱にうかされたような目をしている。
石壁に刺さっている剣の前に立つと、躊躇なく剣のグリップを握り締める。
遅れて、ネイヴァとアーサーがこの空間に入ってきた。
『なんだよ、これは……』
ネイヴァの驚きの声を無視して、ソニアが剣を引き抜いた。
そして、辺りに閃光が走ると、魔獣ネアトリアンダーが出現した。
一部始終を映し終えると、水晶玉は光を失った。
つい見入ってしまった。
「やっぱり、アーサーが嘘を吐いていたんじゃない! ここにバッチリ証拠が映っているわよ!」
「そうだな」
アーサーがリーダーシップを発揮しなかったのは、頭に支障があったからだろう。ソニアがそれを治そうとして魔獣と取引した。魔獣と取引したソニアも許されないことだが、後に、罪をネイヴァに擦り付けたアーサーも許されない。
これは決定的な証拠になるだろう。
どうやら石の精霊の許可さえ取れれば、石が存在していた期間なら記憶を取り出すことができるらしい。下手したら何万年も遡って。
「ま、俺たちの前で嘘を吐くのが運の尽きだよな」
ロウが口元に悪い笑みを浮かべる。
俺たちの前? それって……?
私の頭の中に、とある可能性が浮かび上がった。
「もしかしてロウって……大魔法使いさま――」
ロウがハッと息を呑んだ。
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