第94話 異空間の出会い④ 〜魔術大会当日〜
魔術大会当日。
ロウは緊張した面持ちで円形のステージに立っている。
観客席で見下ろしながら、私は弟子のことを考えると緊張した。でも、同時にワクワクもしている。
この魔術大会は、トーナメント制で、一対一で戦い、最後まで勝ち残った人が優勝となる。
私の応援するロウが出場する、Bグループの試合が始まろうとしていた。
「初戦が出来損ない相手で助かったよ。魔法を諦めて、力だけで戦うとは、馬鹿の極みだな!」
ロウの対戦相手の少年がそう言った。しかも、観客席まで聞こえるような大声で。
あの少年は見覚えがある。ロウのことをいじめていた、リーダー格の少年だ。
……そんなことない! ロウは魔法を諦めていないわ!
彼は魔法に全力で向き合ってきたのよ。ロウの努力も知らないで……!
拳をふるふると握り締めると、観客席にいる私の近くで、少年の仲間と思われる二人の少年がクスクスと笑った。
「見ろよ、あいつ剣なんて持っているよ」
「魔法が使えないからって必死だな!」
手に力が入り過ぎたのか、ポキンと関節の音が鳴った。
なんてことを言うの! ロウは魔法が使えないから剣を使っているわけじゃないわ!
「あいつ、本当に剣で戦うつもりらしいぞ」
「馬鹿だな。剣なんかで勝てるわけないだろうに」
黙っていれば言い放題ね。
これは一言申さないと!
私は立ち上がると、少年に向かって叫んだ。
「ロウのこと馬鹿にしないで! 彼は魔法も使えるし、剣だって使えるのよ!」
すると少年たちは驚いたような顔をした後、笑い出した。
「なんだよ、あの女」
「あいつが、魔法を使えるわけないだろ」
少年たちの言葉にムッとする。でも、試合を見れば、分かるはずよ!
私は少年を一睨みすると、気持ちを切り替えて試合に集中することにした。
「それではBグループの試合を開始します!」
審判の合図で、試合は始まった。
ロウが剣の構えをした瞬間、相手の少年の顔色が変わった。
観客の少年たちも、ロウの変化に気付いたようで、ざわついている。
「あの剣、まさか……」
「嘘だろ……? 出来損ないのあいつが……?」
少年らの呟きに、私は笑みを浮かべた。剣に魔力が込められたことに気づいたようね!
ロウが剣を構えて走り出すと、相手の少年は慌てて魔法を放った。
しかし、それはロウには当たらず、彼の横を通り過ぎていくだけだった。
「なっ……!」
驚く少年に、ロウは容赦なく剣を振りかざした。風が巻き起こり、少年を巻き込んで吹き飛ばす。
「ぐあ……!」
地面を転がった少年は、そのまま起き上がらなかった。ロウの勝ちだ!
「勝者! グロウ・アレイスター!」
ロウの勝利を告げる審判の言葉に歓声が上がる。
私は、ロウに向かって手を振った。彼は私に気付いて、小さく手を振ってくれた。
「やったわ。 ロウが勝った!」
「あいつ……。いつの間にあんな技を身につけたんだ?」
「魔法の弱点の近距離も剣技でカバーできるとは……もしかして、あいつ、最強じゃないのか?」
観客の少年たちは、まだ信じられないといった様子でざわついている。
私はそんな彼らにドヤ顔をして見せた。
どうだ! 私の未来の恋人はすごいでしょう!
結果を見ればわかりきっていることだから、そんなことは口には出さないけれど。
少年たちはグッと黙り込み、悔しそうな顔をした。
「ロウ! おめでとう!」
試合を終えたロウに声をかけると、彼は嬉しそうに微笑んだ。
「ありがとうございます」
「まさか、あんな技を身につけていたなんて知らなかったわ」
「実は、最近練習していたんです。最小の力で倒せる魔法を。力を出しすぎて、重い怪我を負ったら可哀想なので。師匠には、まだお披露目していませんでした」
「そうだったのね。でも、よくやったわ!」
ロウは照れ臭そうに頭を掻いた。私は彼の成長に感動すると同時に、少し寂しくなった。
「もう私が教えることは何もないのね……」
私が呟くと、ロウは首を横に振った。
「まだまだですよ。これからはもっと強くなります」
ロウの真剣な眼差しに、私は思わずドキッとした。彼は本当に成長しているんだ。
◇
一回戦を余裕で勝利したロウは、二回戦も軽々と勝利をおさめた。
その後は五回戦まで勝ち上がるという快進撃を続け、Bグループの代表に選出された。
優勝候補も倒し、ダークホースの存在に会場は沸き立つ。
ついに準決勝戦。ロウは少し緊張しているようだけど、大丈夫かな?
「さあ、続いての試合は! Bグループのグロウ・アレイスター対、Aグループのセドリック・マグナルツォ!」
対戦相手の名前を聞いて、私は目を見開いた。
第三王子のセドリック殿下!? 同級生だったと聞いたことがあるけど、まさかロウの対戦相手だったなんて!
セドリック殿下にはシスコンのイメージしかない……。アイリス王女殿下への溺愛ぶりはよく知っている。
それは置いておいて、勇者を多数輩出している王家のセドリック殿下は、剣のみならず魔法の腕も確かだろう。
ロウが勝てるかなあ? 私が心配していると、セドリック殿下が剣をすらりと抜いた。
まさか……ロウと同じタイプの魔法剣士だわ!
「やあ、君がグロウか。まさかお前がここまで残るなんて思わなかったよ」
セドリック殿下は、ロウのこと好敵手だと思っているのか、キリリと睨んでくる。そして、口を開いた。
「魔法が使えないと聞いていたが……克服したようだな」
「特訓しましたから」
「……そうか。でも、この試合は勝たせてもらうよ」
「望むところです」
二人が睨み合う。緊迫した空気が会場を包む中、審判が合図をした。
「準決勝戦……始め!」
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