第93話 異空間の出会い③

「特訓の集大成ができあがったので見てください」とロウに言われ、私たちは平原までやって来た。

 ロウが剣を構えると、剣の周りに風が巻き起こる。

 

「ウインドソード!」

 

 ロウが呪文を唱えると、剣から風の刃が放たれた。

 剣から放たれた風は、一直線に飛んでいき、数本の木を切り倒した。

 彼の魔力量が多いからか、通常のウインドソードよりも威力が倍増している。


「ロウ! やったじゃない!」

 

 思わずロウに抱き着くと、ロウは顔を真っ赤にさせて硬直した。

 しまった! 成人ロウにするように気安く触ってしまったわ!

 だって嬉しかったから、つい……。


「ごめんなさい。ロウが成功したのが嬉しくて」

 

 慌てて体を離して謝ると、ロウは首を横に振った。

 

「俺も嬉しいです。師匠のおかげですよ。この剣でウィンドソードが使えたのは」

 

「私はただ魔法を教えただけよ」

 

 本当にロウには驚かされる。まだ魔法を習って少ししか経っていないのに、もうこんなに強いウインドソードが使えるなんて……天才すぎよ!


「でも、どうして剣で魔法を使おうと思ったの?」

 

 純粋な疑問だった。武器も魔法も、どちらとも使えるからすごいとは思うけれど、両方使うとなると難易度は格段に上がる。

 そんな私の考えを見透かしたかのように、ロウは口を開いた。

 

「俺は剣の修行をしていたから、体の方が先に動くんです。だから魔法はあくまでも補助として使いたくて」

 

「補助?」

 

「剣で攻撃を受け止めたり、受け流したり、魔法を使いながら戦うんです。そうすると、今までより戦いに幅が出てきますし、魔法を使いながら剣も攻撃できるから、相手にとってはかなりやりにくいはずです」

 

 私は「おお!」と感嘆の声を上げた。

 剣も魔法も使える魔法使いってカッコいい! 私の知っているロウの戦闘スタイルだけど、彼が自ら編み出したことに感心する。

 

「すごいわ! ロウ!」

 

「師匠の教えのおかげですよ」

 

 そう言って、ロウは穏やかに笑った。その笑顔に、少しドキッとしたのは内緒である。

 ロウは剣を鞘に収めると、こちらに向かって歩いてくる。そして私の手を取ると、真剣な眼差しで私を見つめてきた。

 そう言うと、ロウは私の手を取って言った。

 

「本当に、師匠のおかげです……」

 

 彼は本当に純粋な心を持っている。だから、そんな少年時代の彼も好きで、未来のロウのためにも心のカケラのありかを探したいと思っているのだ。

 

「師匠……ちょっといいですか?」

 

 ロウは私の手を引いまま、木陰へ連れて行った。

 

「どうしたの?」

 

 私が首を傾げると、彼はおずおずと口を開いた。

 

「俺……師匠に伝えたいことがあります!」

「伝えたいこと……?」

 

 一体なんだろう? ロウが私に言いたいことって……。

 私はドキドキしながら言葉の続きを待った。するとロウは意を決したように言った。


「俺……師匠の……」

 

 そこまで言うと、彼は口をつぐんでしまった。

 

「私の……何?」

 

 続きを促すと、ロウは顔を真っ赤にさせた。

 そして意を決したように口を開いた。

 

「俺は、師匠の……!」

 

 その時だった。私の心臓が大きく跳ねた。

 

 あれ? なんでこんなにドキドキしているの……? なんでこんなに胸が苦しいの……? 目の前にいるのは、少年時代のロウなのに……。いや、ロウ自身だからこそ、若かりし彼にドキドキしてしまうの……?

 

 私は戸惑いを覚えながらロウを見つめた。すると彼は覚悟を決めたような強い眼差しで私を見つめ返してきた。

 その目は真剣そのもので、思わずドキッとしてしまうほどだった。そして彼はゆっくりと口を開くと言った。

 

「やっぱり……言えません!」

「え……?」

 

 思わず拍子抜けしてしまう。まさかの言葉に、私は固まってしまった。すると彼は慌てたように言った。

 

「すみません! 心の準備が必要なので、魔術大会が終わるまで待ってもらえませんか?」

 

 ロウの言葉に私は首を傾げた。

 

「心の準備?」

 

「はい。師匠に伝えたいことがあるんです。でも、今は言う勇気がなくて……だから、魔術大会が終わるまで待ってくれませんか?」

 

 そこまで言うと、彼は深々と頭を下げた。

 

「お願いします!」

 

 そんな彼に私は戸惑いながらも言った。

 

「わ、わかったわ……」

 

 そう答えると、ロウはホッとしたように顔を上げた。


「ありがとうございます」

 

 ロウは晴れやかな笑みで答えると、「それじゃあ!」と言って走って行ってしまった。

 その後ろ姿を見送りながら、私は呆然と立ち尽くした。

 

 ロウの伝えたいことって……一体何だろう? そんなことを思いながら、私は自分の胸に手を当てた。

 鼓動はやはり早かった。

 

 そして、ついに魔術大会の日がやってきた。

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