第26話 国王陛下主催のパーティへ
王城に到着すると、控え室に案内された。
使用人によって控え室のドアが開けられると、ソファに座っていたのは大魔法使いさま。
彼は立ち上がると私の方までやってきた。
「先日は助かったよ。ありがとう」
大魔法使いさま自ら挨拶してくれた。
心の準備をしていたとはいえ、緊張してしまう。
ドキドキしたまま、私はペコリと頭を下げた。
「こちらこそ先日はどうもありがとうございました。私、冒険者のロザリーです」
「ロザリー。君の名前は知っているよ」
うわ! 大魔法使いさまに覚えてもらっていた!
嬉しくて、今にも気持ちが舞い上がりそうだ。
「立ち話もなんだから、座ろうか」
「は……はい」
これが現実?
フワフワした気持ちのまま、大魔法使いさまに勧められて真正面のソファに座る。
もちろん控え室には私たちだけ。大魔法使いさまの視線の先は私。
大魔法使いさまの手が私の頭に向けられる。
「そのカチューシャ……この前も着けていたが良い魔道具だね」
ロウが作ってくれた魔道具だ。魔法使いだから、魔道具に目がないのだろう。
今では装着しないと一日が始まらないくらい、これが無いと落ち着かない。
「腕の良い魔道具屋で作ってもらったんです。今ではお気に入りで……。パーティなのに魔道具を着けているなんて、おかしいでしょうか」
「いや、そんなことはない。似合っているよ」
普段は女性を褒めることがないのか、大魔法使いさまは照れた様子だった。でも、口を開けばお世辞を言う人よりも、ずっと信頼できる。
「ありがとうございます。もしかして、大魔法使いさまの、そのピアスは……」
もしかしなくても、大魔法使いさまの左耳には私の贈った青色のピアスが見えた。
「ロザリーからもらったものを早速着けさせてもらったよ。素晴らしい加護を付けてくれたおかげか、着け心地がいいよ」
「そう言っていただけて嬉しいです!」
褒めてもらって、この上ないくらい幸せです!
そういえば、大魔法使いさまに聞きたいことがあったんだった。直接話せる機会は今を逃すときっとない。せっかくなので聞いてみよう。
「このカチューシャを作ってくれた魔道具屋の店主から聞いたんですけれど、大魔法使いさまと店主はお知り合いなんですよね? どんなお知り合いなんですか?」
やっと聞けた! 王女さまの疑問を解決できる。大魔法使いさまの次の言葉を待った。
「それは――昔からの知り合いでね。ロザリーは魔道具屋の店主のことをどう思っているの?」
「ロウのことかぁ。頼りになる人だなって印象なんだけど……」
彼のマイナス印象は私のイメージが悪くなるから言わないようにしよう。身だしなみがだらしない、とかね。
そういえば、最近会ってないな。店を長期で休む予定があるなら、事前に言ってくれたらいいのに。事情があるのなら、話してくれたらいいのに。
「なんか私に隠し事しているみたいなんだよね。謎っぽいところもあるというか……」
「そ、そうか……」
率直に言ったら、大魔法使いさまが引いてしまった。失敗した!
「そろそろお時間になりました。パーティ会場へ移動お願いします」
沈黙を破るように使用人からの呼び出しが入る。
変な空気になっちゃったからちょうど良かった。
「さあ、行こうか」
「はいっ」
大魔法使いさまがスッと肘を差し出してくれて、私はその肘にそっと手をかけた。距離が近づいてさらに緊張が増したけれど、黒い布地からは大魔法使いさまの体温が伝わってきて、その温もりにホッとした。
ザワザワザワ……。
大広間のパーティ会場は大勢の人々で賑わい、上流階級の貴族や騎士団の正装を着た人たちが社交に勤しんでいた。
巨大なシャンデリアが天井から下がっている。
私たちが会場に入ると、シンと静まった。
全ての人々の視線が私たちに集中する。
どちらかと言うと、無名の私の方かな。大魔法使いさまにエスコートされているんだもん。一体何者だって話になるよね。
「大魔法使いグロウ・アレイスター、並びにロザリー・ニッケランは前へ」
名前を呼ばれると、背筋がピンと伸びた。
私たちは国王陛下と皇后陛下のいる高座の前に案内される。
大魔法使いさまは首を下げてお辞儀をして、私は片膝を曲げて淑女の礼をする。
「顔をあげよ」
「はっ」
「はい」
国王陛下は大魔法使いさまから私に視線を移して止まる。目が細められた。
「そなたは……」
国王陛下とは聖女時代に謁見したことがある。さすがは国王陛下で私の顔を記憶していたのだろう。
「私はただの冒険者のロザリーですわ」
そう言うと、了承したとばかりに国王陛下は一つ頷いた。
「そうか。冒険者のロザリーの、勇気ある行動に感謝する」
「ありがたき幸せに存じます」
「そして、大魔法使いのグロウ。これまでの貢献は言うまでもないが、ロザリーと共に魔獣の危機を救ってくれたことに感謝する」
「お褒めいただき光栄です」
再度礼をして、その場を去ろうとしたら、国王陛下から呼び止められた。
「オフィーリアからも一言あるようだがいいだろうか」
その名前は、伝説の勇者パーティの聖女で、第二王子レオンさまの奥さまのオフィーリアさまだ。
「もちろんです」
大魔法使いさまはすぐに快諾する。私も「もちろんでございます」と続いて言った。
両陛下のお側からオフィーリアさまが現れると、私たちは礼を取る。
「私からも感謝の言葉を。冒険者のロザリー。貴方がいてくれて助かったわ。グロウと協力してくれてありがとう。グロウもお疲れさまでした」
伝説の勇者パーティのメンバーであるオフィーリアさまから感謝の言葉をもらうなんて、嬉しさの極み。
「ありがたき幸せに存じます」
「オフィーリア、君の言う通りだ。ロザリーの活躍に俺からも感謝する」
大魔法使いさまが大きく手を叩くと、オフィーリアさまと両陛下も手を叩き、拍手の渦が会場中に広がった。
拍手が収まると、オフィーリアさまは大魔法使いさまに向けて言った。
「グロウ。どうして封印されていたはずの魔獣が現れたのか、明らかにしてほしいわ。こんなことが二度と起こらないために」
「調べたところ、魔獣の封印を破られた形跡があった。人為的なものだ」
にわかに会場がざわめいた。
「人為的……? 誰かが封印を破ったということか?」
「イタズラにしてはタチが悪い。国家反逆罪になるぞ」
ヒソヒソと話をしているつもりだろうが、耳に入ってくる。
話の行き着く先は、犯人は誰かということだ。
「そのことで話がございます!」
声を張り上げたのは、アホ勇者のアーサーだった。
なんだ、会場にいたのね。見たくもない顔だったけれど、彼は少しやつれたように見える。
「国王さま。私が見たことについて話をしてよろしいでしょうか」
「いいだろう」
「つい先日……」
アーサーが切り出した話は、迷宮ダンジョンで起こった出来事だった。
「――では、ネイヴァという女剣士が勇者パーティ内での対立の腹いせに魔獣の封印を解いたということか?」
「そうです。彼女は我々が止めるのを聞かずに、封印を解いてしまいました。すぐに王都に帰り、魔獣の被害がないか目を光らせていました」
「なぜ、彼女が封印を解いた時点ですぐに王宮に手紙を飛ばさなかった?」
「……それは、国内を無闇に混乱させたくなかったからです」
最小限で済んだはずの混乱が、記念式典に魔獣が現れたことで、結局のところ大きな混乱になってしまったとは思わないのか、アーサーよ。
国王陛下も同じようなことを考えているらしく、手で顔を覆った。
「細かいことは今はいい。そのネイヴァはどうしている?」
「勇者パーティから抜けて逃亡しております」
「騎士団に通達する! ネイヴァを捕えろ!」
「はっ!」
国王陛下の指示で騎士団の人たちが各所に散らばっていく。
彼は息子の言うことを信じることにしたようだ。
本当にネイヴァが魔獣の封印を解いたとしたら、極刑に処されるだろう。
ネイヴァは石橋を叩いて渡るくらい慎重な性格だった。強い人には逆らわない従順な人なのに、そんな身勝手なことをするかしら?
私はネイヴァのことを思い出して、違和感を覚えた。
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