第46話 再び妖精占いをしてもらう

「アイリスの姿を見なかったか?」

 

 リビングルームに現れたのは、第三王子のセドリックさまだった。


「王女さまは先程までいましたけど、もう帰られましたよ」

「やはり、こっちに来ていたのか……」


 セドリックさまは落胆の顔を見せる。どうやら行き違いになったようだ。


「帰ってからそんなに経っていないので、近くにいると思いますけど……どうされましたか?」

「アイリスはダンスの稽古をすっぽかして、使用人たちと探し回っていたところだったんだ」

 

 そのことは私専属のサラの耳までは届いていなかったようだ。

 私の無事を確認したいあまりに、ダンスの稽古をすっぽかしたのだろう。それに、彼女の悩み……輿入れの話も誰かに吐き出したかったに違いない。

 

「今までアイリスが稽古を休むことはなかった。ロザリーのことが余程心配だったのか、それとも……」

 

 セドリックさまは口を濁した。王女さまの婚約の話は公になっていない。私に話していいものか迷ったのだろう。

 

「セドリックさまが思うより、王女さまはずっと大人だと思いますよ」

「なっ……」

「現実を受け止めるとおっしゃっていましたもの」

「そ、そうか……」

 

 セドリックさまこと、シスコン兄の横顔は少し寂しげだった。

 そうよね。王女さまのことを大事に可愛がっていたものね……。


 

* * *


  

 あれから数日経ったが、ロウからはまだ何も連絡がない。

 まだ調査中なのか、調査が難航中なのか、何か問題でも起こったのか。大魔法使いさまに任せておけば間違いないとは思うが、設定された期限まではあと三日しかない。

 

「私が様子を見てきましょうか? 姿をくらますことができるので、こっそり見てくることができますよ」

 

  思い切った提案してくれたのは妖精リアだった。

 しかし、私は賛成できなかった。かなりのリスクがあるからだ。

 

「気持ちはありがたいけど……それはやめようかな」

 

 すぐに私はリアの提案を却下した。

 「ですよね……」としょんぼりしたリアに、理由を説明する。

 

「ロウだって、リアが見えるのよ。他の人も見える可能性はゼロじゃない。まあ、ロウは大魔法使いさまだから特別なんだけど。とにかく、リアを危険に晒すわけにはいかないわ」

「そうですよね……」

 

 何か他に良い方法はないかな。

 水晶玉に指定場所を映し出すのは最上級の探索魔法で、そんな芸当ができるのは大魔法使いのロウぐらいだ。私にはそれはできない。他に修道院の様子を覗き見できるような、何か。

 

 ふと、毎朝サラが水を取り替えてくれる窓際の花瓶が目に入った。そうだ。いいことを思いついた!

 

「そうよ、リア、妖精占いよ! それで大魔法使いさまの今の状況を占えばいいんだわ」

「そんなこと思いつくなんて、さすがご主人さまです! 早速やってみましょう!」


 意見が一致した私たちは妖精占いをすることに。

 花瓶からオレンジ色のガーベラを一本拝借して、花びらを一枚ずつ根本から剥がして机の上に並べる。

 全部並べ終わると、私たちは頷き合った。

 

「準備はできました。どんな内容で占いましょうか」

「そうね……。ロウの調査が進んでいるのかを占ってほしいわ」

「わかりました」

 

 リアがコクッと頷いて、目を瞑り、花びらに息を吹きかけた。花びらは舞い上がり、机の上に落ちる。

 それを神妙な様子で読み取ったリア。

 

「……どうやら、大魔法使いさまが思い描いたようには進んでいないようですね」


 調査が進んでいない! それって、かなりマズイ状況じゃあ……。

 

「この前のように精霊の力を借りて、クリームの木のケースから記憶を転写すれば、決定的な証拠が出てくるんじゃないかな。ロウなら、それを既にやっていると思うけど……」

 

 ダンジョンの洞窟で石の精霊に力を借りた時のことを思い出した。その時は妖精リアが石の精霊との交渉したけれど、ロウにもその力があると思う。なんせ、妖精王の娘を救った大魔法使いさまだから!

 

「では、精霊の力を借りて調査を行なったのか、占ってみましょう」

「お願いね」

 

 リアは花びらに息を吹きかけて、机に散らばった花びらの形を読み取った。

 

「大魔法使いさまは、まさにそれをやろうとしたんですが、何者かの力で阻まれてしまったようです!」

 

 邪魔が入ったのだ。おそらく、元凶であるソニアが関係しているに違いない。

 

 ああ……このまま、この部屋で手をこまねいて待っているしかないの?


 最悪な状態の想像を打ち消すように、頭を横に振った。

 ううん。そんなことないわ、きっと解決策があるはず。

 

 考えて、考えて、考える。

 しかし、具体的な解決策は見つからないまま、その日は眠りについた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る