第30話 フィアル視点

 おかしいな。どうして僕の計画がくるった?

 僕、フィアルは絶望していた。

 

 パーティを追放をされたロザリーは、僕からのパーティを組む誘いを断るはずがなかっただろう?

 回復魔法のロザリーと、攻撃魔法の僕はお互いを補える最高のパーティになれるはずだった。

 

 それなのに! なぜ、ロザリーが攻撃魔法の魔道具を手に入れているんだ! 魔道具屋から買った? 魔道具にはクセがあり、魔道具を使ったことのないロザリーが初見でそんな簡単に使いこなせるはずがない。

 

 「腕の確かな魔道具屋」とロザリーは言っていたが、よほど高機能な魔道具なのか? それとも、ロザリーが魔道具に適合する規格外な能力を持っていたのか?

 誰か教えてくれよ! クソッ!


 

 酒場で会った魔道具屋の店主という男は、第一印象からして最悪だった。

 ロザリーとは親しげで、まだ付き合っていないようだがいい雰囲気で……。

 

 ――いまさらロザリーの側にやってきて王子面か?

 

 ロウから言われた嫌味だ。思い出しただけでもイラつく。図星だった。ロザリーを助けるふりをして近づいて、彼女の気を引こうとしていた。それが奴によって阻止された。

 

 ロウ……またの名を、グロウ・アレイスター。大魔法使いさまの愛称だ。

 どこかで見たことがある……とは思っていたが、まさか大魔法使いさまとは! 伝説の勇者パーティに所属していた、影の司令塔と名高い大魔法使いさま。勇者パーティを引退してもなお、魔法使いの頂点に君臨し続けている。

 

 正体に気づいたきっかけは、ロウの発言だった。僕たち勇者パーティのメンバーは親しみを込めてアーサーと敬称を付けずに呼ぶ。だが、一般人ならば「アーサー王子」と呼ぶはずだ。

 ところがロウも「アーサー」と呼んだ。だから、最初はロウが王族の関係者ではないかと疑ったのだ。

 

 魔獣の封印を解いたという濡れ衣を着せられたネイヴァの話を、至極冷静に聞いていたロウ。頭の回転も早く、話の飲み込みも早い。アーサーが犯人だと、あっという間に導いたのだ。

 

 昔、遠目で見たことのある大魔法使いさまの面影と重なった。

 ボサボサ頭をセットし直して黒いマントでも羽織れば、大魔法使いさまの出来上がりだ。

 

 そうだとわかると、滲み出る彼の圧倒的なオーラに体の底から震えが走ってきた。

 

 あああ! なんてことを! 僕は、大魔法使いさまに数々の無礼を働いてしまった!

 恋敵とみなして、憎らしい発言をした自分が恥ずかしい!

 大魔法使いさまに、ただの魔法使いが対抗できるはずがないじゃないか!

 ロザリーが首っ丈な大魔法使いさまなんだからな!

 

 彼女の気を引くのはやめたやめた。敵が強すぎる。僕が努力するだけ無駄だ。

 

「これまでの無礼、すみませんでした!」

 

 深く頭を下げると、あっけらかんとした声で「ま、許してやるか」と返ってきた。

 彼の怒りに触れなかったようで心の底からホッとした。


 

 僕のことはまだいい。傷はまだ浅い。問題はロザリーだ。

 勇者パーティ時代にも、ロザリーは大魔法使いさまのファンを公言していただろう?

 それがどうして、目の前にいる彼が大魔法使いさまだと気づかない!?

 大魔法使いさまに会って、共闘もしたんだろう!? 声も間近で聞いているはずなのに、同一人物だとどうして気づかない!?

 

 恋は盲目とは言うけれど、ひどい。ひどすぎる。

 恐れを通り越して呆れそうだ。

 このまま彼女を野放しにはできない。勇者パーティの仲間だったよしみとして、彼女の暴走を止めなければ。

 苦しみ、考え抜いた結果、せめて忠告することにした。自分で気づくようにと願いを込めて。

 

「悪いことは言わないから、ロウさんには失礼がないように」

 

 そう言っても、ポカンとしたままでロザリーはまだ気づいていないようだ。

 

 僕は言った。後はもう知らない。

 

 残った麦酒を一気に飲み干すと、二人から逃げるように酒場から去った。


 ……ってか、大魔法使いさまも自分から正体を明かせよ。

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