第3話 冒険者登録をする

 攻撃の魔道具を手に入れて、ついにギルドで冒険者登録をすることになった。

 水晶玉に手をかざして能力を測り、冒険者としてランク付けされる。


 ギルドで通された登録窓口で、水晶を前にしてゴクリと唾を飲み込んだ。

 これから私の冒険者の人生が始まる。

 よし! と決意を込めて手をかざすと、水晶に能力値が浮かび上がった。


「Bランクですね」


 そう言われて、登録窓口の担当者は事務的に登録カードに書き込んでいく。


 まずまずだ。一番下がFから最上級のSSSまでの幅がある。ミッションをたくさんこなせばランクも上がっていくが、Bランクからスタートできるのは、ある程度の力を認められたのだろう。魔道具の力も加味されたに違いない。


 登録が終わると、冒険者の証であるBランクのバッチを受け取った。金色の不死鳥のエンブレムがカッコいいデザイン。

 憧れだったんだよね、冒険者バッチ。勇者パーティの時は、そんなものなかったから。

 バッチの針を胸元に通すと、冒険者になったんだと実感が湧いた。


「ロザリー、冒険者登録おめでとう」

「アルマさま!」


 アルマさまは、私の胸元のバッチを見た。


「Bランクね。やるじゃない」

「そんな。恐れ入ります」

「ところで、あいつの店では変な魔道具を渡されなかった? 貴方みたいな人は余計に心配だわ」


 あいつの店って、あの変態店主の魔道具屋のことですね!

 アルマさまのその心配は見事的中しました。


「メイド服にウサ耳で作られました! 断固拒否しましたけど!」

「やっぱり……」


 アルマさまはあちゃーと手で顔を覆った。

 悪いことばかりではなかったので、フォローを入れよう。攻撃の魔法も使えるようになったから、目的は達成したわけだし。


「でも、このカチューシャが魔道具としての役割があって、その他はただの飾りなんですけれど。カチューシャだけだったら付けてても違和感はないから良かったかなと」


 黒いカチューシャは、まるで体の一部のように髪に収まっている。


「そう……あなたに似合ってるわね」


 アルマさまは笑みを浮かべられて、女である私でも見惚れるくらいだった。


「ありがとうございます」


 嬉しくて頬に熱が集まってくるのを感じる。

 憧れの女性から褒められて眼福です!




 魔道具屋の扉を開けると、カウンターで悠々とコーヒータイムをしている店主が目に入った。

 香ばしいにおいが漂い、カップから温かい湯気が出ている。扉の音に反応して、店主が顔を上げる。


「いらっしゃい……またお前か」


 私はズンズンと店の奥まで進んで、店主の鼻の先にウサ耳の魔道具を突きつけた。


「ウサ耳の魔道具、わざわざウサ耳までくっつける必要はなかったんじゃないの?」

「ああ、そうだよ。お前ならわかると思ったんだ。勇者パーティを追放されたヒーラーのロザリーは、お前のことだろう?」


 けろりと言われて、私は顔をひきつらせた。


「もう! ……でも、見た目はともかく、あなたが作った魔道具のおかげで助かったわ。ウサ耳は取り外して使えたし」

「え? 外しちゃったんだね」


 店主のしょぼんと残念そうな顔。


「当たり前でしょ!」


 可愛そう? いやいや、ウサ耳を付けるように強要された私の方が可愛そうだよ!


「ま、同じ大魔法使いさまのファンのよしみで多めに見るわ。そういえば、あなたの名前は?」

「ええと……」

「名前を呼ぶとき不便じゃない。教えてほしいわ」


 店主は少し言い淀んで、口を開いた。何か、不都合でもあるのだろうか。


「ロウ、だ」

「ロウね。私は知っての通りロザリー。よろしくね」


 ロウはあだ名かな。ま、呼びやすいし特に問題もないか。


「その冒険者バッチ……」


 ロウは私の胸元に視線をやった。もう気づくとはお目が高い。


「そうなの! さっき冒険者登録したところよ」

「Bランクだったんだな」

「ええ。結構凄いでしょ」


 私がどや顔で胸を張ると、ロウは首をかしげた。


「Bランクって微妙な位置だよな……」

「微妙!?」


 最下位でもないし上位でもない。簡単に言えば、中の上がBランクだ。上級者になる一歩手前という感じだろうか。


「でも、これから依頼をこなせば上がっていくわ!」

「そうか? ……まあ頑張れよ」


 Bランクに満足せず、これからもっともっと強くならなければ!

 ただ、ギルドの水晶玉を疑っているわけではないけど、私の力が未知数だというのは否めない。Bランクは妥当だけど、トップクラスのSランク冒険者がどんなものなのか想像がつかないのだ。


「ねえ、SSSランクって知ってる?」


 私はロウに尋ねた。


「ああ……伝説だな」


 SSSランクとは、魔王を倒したとされる勇者のみに与えられる称号。


「もしいたらどうする?」

「案外、近くにいたりして……」

「え?」


 ロウがボソボソと呟いて全然聞き取れなかったので、私は聞き返した。


「いや、何でもない……」

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