第11話 その頃の勇者パーティは①
俺は第四王子のアーサー。勇者パーティの勇者でリーダーをしている。
実力のないくせに口ごたえをする偽聖女を追放して、パーティのお荷物がいなくなった。やることなすこと文句を言ってきて、パーティ運営に支障をきたしていたから辞めてもらった。
あの口だけ偽聖女を追い出すことができて、心からせいせいしている。
「次は迷宮のダンジョンを攻略しよう」
「いいですわね!」
俺の提案に、聖女ソニアはすぐに賛成してくれた。他の二人のメンバーからも賛成をもらった。
ほら、あの女がいなければ、こんなにすんなりいく。
偽聖女は否定から入る女だった。しっかり調査してから行き先を決めなければ、とストップをかけられていただろう。勇者パーティには、勢いが大事なんだ。グズグスしてられない。やると決めたときが、やるタイミングだ。
「敵のねぐらまで一気に行こう。フィアル、転移魔法を頼む」
今までロザリーが担当していた転移魔法をするように、フィアルに指示した。魔法使いなら誰でも簡単にできるだろう。しかし……。
「できかねます。俺の転移魔法だと、人の重みで音が発生して敵に気づかれるでしょう」
「は? ロザリーができていたことが、お前にできないのか?」
挑発するように言うと、フィアルは涼しげな表情を変えずに口を開いた。
「音を吸収させるには、魔法でクッションを発生させる必要があります。長距離をピンポイントで魔法をかけるのはどんなに難しいことか、ご存知ではないですか?」
そう言われると、音の発生させない転移魔法が難しいような気がしてきた。魔法は専門分野外だ。知らなかったことを恥ずかしく思うことはない。
たまたま、ロザリーが転移魔法に長けていただけだ。興を削がれたがまあいい。
「フィアル。魔法使いの常識を振りかざすのは良くないな」
「常識を振りかざしているのではなく、アーサーさまはこのパーティのリーダーですから、魔法使いのことを知ってもらってもいいのかなと思っただけです」
フィアルは少し変わったところがある。パーティの最年少なのに物怖じせず正論を言って、人を寄せ付けない雰囲気がある。
ここは年上の俺が一歩引くのが正解だろう。
「迷宮のダンジョンの前まで移動できれば問題ない。行くぞ」
「……わかりました」
仕方がないが、少し妥協するしかない。フィアルができる範囲の転移魔法を指示した。寛容だな、俺は。
迷宮ダンジョンの中腹までは問題なかった。
俺と女剣士のネイヴァが魔物を切り払い、魔法使いフィアルが後方支援、聖女が戦闘後のかすり傷の治療をしてくれる。
中腹まで行くと、スライムなどの雑魚の魔物ばかりではなく、少々手こずる魔物に遭遇した。
「グァーッ!」
羽を背中に生やした複数のゴブリンが、チェーンに繋がれた鎌を振り回して牽制している。
中級の魔物でAランクが一人いれば討伐可能。SSSランクの俺には正直敵にはならないが、空中移動ができるとは厄介だ。
俺は先陣を切る。
壁を走り上がって、剣を振るった。
剣戟がヒットし、ゴブリンが絶命する。
まずは一体。と、リーダー自ら見本を見せた。
「ネイヴァ、お前にもできるはずだ!」
「はい!」
声がけをしてパーティの士気を上げる。一体ずつ確実に仕留めるのが大事だ。
ゴブリンの二体が俺を挟み撃ちしてきた。連携して攻撃してくるとは、頭を使ってきたな。ネイヴァが一体を追っているが、彼女の足では間に合わない。
俺は多少の痛みを覚悟した。
ゴブリンのチェーンを素手で掴み、手繰り寄せる。ゴブリンの動きを封じて、もう一体のゴブリンに投げつけた。
「グアアアアアッ!」
見事、命中。二体とも地面に叩きつけられて、目を回している。
掴んだ摩擦で手が痛むが、聖女の回復魔法ですぐに治るだろう。
「……まあ、こんなもんか」
「さすが、アーサーさまですわ!」
ソニアが手の傷に気がついたのか、心配そうな顔で駆け寄ってきた。
俺は舌打ちしそうになった。
まだ、敵が数体いるのに油断している。無事を確認する前に、回復魔法をかけるのが先だろう。
左右に飛んでゴブリンの攻撃を避け、目が合ったソニアに向かって叫んだ。
「ソニア、回復魔法だ!」
「え、あ……はい!」
そうこうしているうちに、ゴブリンが集団で襲いかかってきた。
ソニアの回復魔法を待たずに応戦する。手がジンジン痛んだが仕方ない。
今まではロザリーと二人で回復を担っていたが、一人となって、調子が出ないだけだろう。
そう軽く考えていたが、ソニアの不調は戦闘が終わるまで続いた。
ソニアから「回復中は動かないでくださいませ」と言われたが、敵が襲いかかってくるのに動かないわけにはいかない。俺が一歩でも動くと回復魔法が届かないらしい。次のゴブリンがやってきて、回復魔法が中断されることの繰り返しだ。
ロザリーがいた頃は戦闘しながらでも、回復してくれたのに。
多少の痛みは気力で凌いだが……全てのゴブリンを倒す頃には、今までにはなかった疲労感でいっぱいになっていた。
「治りました」
「ああ……ありがとう」
ロザリーが回復魔法で治癒をしてくれるが、心の疲労までは治らなかった。これからの戦闘のことを考えると頭が痛い。
行先に追放したはずのロザリーが見えたのは幻覚だろうか。
いや違う。道をふさぐように立っていたロザリーが、俺に駆け寄ってきた。風に乗って、ふわりと花のようないい匂いが鼻腔をくすぐる。
なんだ? また雇ってくれとでも言いにきたのか?
「アーサーさま。私、やっぱりパーティを辞めたくありません」
やはりな。内心ニヤリとした。
他のパーティにも貰い手がいないと思ったんだ。
「そう言われてもな……」
言葉を濁しつつ、難しい顔を作った。
一度は断っておくのが、交渉を有利に進めるテクニックだ。「無理を言って申し訳ない」と、相手が下手に出てくるのを待って会話の主導権を握る。
転移魔法や回復魔法が上手なロザリーがいればマイナスには働かないだろう。理由をつけてパーティを追い出したのは、見目麗しいソニアを婚約者にしたかったからだ。
俺の思惑通りに、ロザリーはペコペコと頭を下げてきた。
「回復魔法では冒険者にはなれないと痛感しました。私の居場所はこのパーティしかありません。荷物持ちでも、なんでもやります!」
俺を頼ってくるとは可愛いところもあるじゃないか。
雇ってやらないことはない。
「ロザリーは一度辞めたから、今までのような待遇は保証できない。他のメンバーも君を辞める前と同じに扱っては許さないだろう。それでもいいか?」
「いいんですか!? もちろんです!」
ロザリーのやる気に満ちた返事を聞いて、思わずニヤリとした。これで戦闘中の回復魔法に困らずに済む。
全ては俺の思い通りに進んでいた。
ソニアの「アーサーさま!」と叫ぶ声が遠くに聞こえた。
こんなはずではなかった。と気づいたのは、食人花の口が開いて、頭を喰われたときだった。旅人を誘惑魔法で足止めして、油断した隙に喰う魔物がそこにいた。
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