007:ボドゲ部部長

「残念ながら死ぬ可能性はあります」と冷静にモリゾウが答えた。


 ただ、と言葉が続き


「ゲームにクリアすると現実世界に帰れます。それも頭のルールに載っていることが自分が決めた時間に戻れるそうです」


「ルールなのに嘘を書くか普通……何か引っかかるのか?」


 モリゾウの言葉に違和感を感じたノリが腕を組みながら言った。


「いいえ。でも嘘ではない根拠はありませんからね」


 モリゾウの意見は正しい。意味のわからないボドゲ空間に連れてこられ、頭の中に大量の情報を流し込まれたのだ。その情報をそのまま鵜呑みにするのは危険すぎる行為だ。

 なにを信じなにを疑えばいいのかモリゾウなりに考えての発言だろう。


「そしてこのゲーム内で勝ち取った能力も一緒に現実世界にご褒美として持って帰れる。ちょっと都合が良すぎではありませんか」


「確かにな……それほど難易度が高いってことか……死ぬかもしれないんだよな……」


「その通りです」


 モリゾウが伝えたかったことを震えながらも理解したキンタロウ。


「誰も死なないように行動するのは当たり前です。ですがもし、万が一、誰かが死んでしまったら……クリアした人が死んでしまった人の死ぬ前の時間に戻って死を回避しましょう。全員でこのボドゲをクリアしましょう。全員が生きて帰るにはそれしか方法はありません」


 短い時間で適切な答えを導き出した頭脳派のモリゾウ。

 そんなモリゾウを見て先ほどまで震えていたキンタロウは「モリゾウ。お前大丈夫か?」と心配そうに声をかけた。キンタロウのと同じくモリゾウを心配そうに見つめるイチゴとノリ。


 一番怯え震えていたキンタロウに心配されるほどモリゾウは震えていたのだ。

 濡れた子ウサギのように震えている。寒くて震えていたのではない。身震いでもない。恐怖で震えていたのだ。死ぬかもしれないゲームに参加しなくてはならなくなってしまった人間の当然の反応だ。

 そんなモリゾウの肩をノリの大きな手が優しく触れた。


「モリゾウ。大丈夫だ」


 ただその一言。何の根拠のないその一言だけがモリゾウの心を救う。


「そうだぜモリゾウ。俺たちがついてる。誰も死なずにクリアしよう。絶対に無事で現実世界に帰ろう!」


 キンタロウは立ち上がり静かな声で言った。その表情は先ほどまで震えていた人物とは思えないほど落ち着いていた。


 そんなキンタロウを見てモリゾウは吹き出した。


「ぷっふふっ」


「な、なんだよ……」


「だってさっきまであんなに震えてた人がよくそんなこと言えるなと思って」


「そ、それを言うなよ。は、恥ずかしいだろ」


 キンタロウも笑顔を取り戻した。モリゾウの震えもいつの間にか止まっていた。

 これが友情の不思議な力なのだろうか。ただ声をかけるだけ。ただそばにいるだけでこんなにも心強く感じてしまう。


 全員の意識がゴールに向いた時、キンタロウはそわそわし始めた。そして辺りをキョロキョロと挙動不審な行動をとる。

 その様子をイチゴは見逃さなかった。


「キンタロウくん。大丈夫だよぉ。ちゃんとよぉ」


「あ、よかった。ビビってのがバレるかと思った。この白い床すごいな……あっ!」


 モリゾウとノリにはバレていなかったが、自らバラしてしまった。安心して口が滑ってしまったのだ。


「い、いや、も、漏らしてないからな」


 漏らした人間が言うセリフである。

 ノリとモリゾウは信じていない様子でキンタロウを見ていた。むしろ漏らしたことに対してと言ったほうが正しいだろう。

 この状況で吐こうが漏らそうがそれを笑ったりする人間はどこにもいない。


「さ、さてと、みんなが通常運転に戻ったみたところだし、他の人たちよりも、ちょいっと遅れちまったがいっちょ行きますか! 『神様が作った盤上遊戯ボードゲーム』全員でゴールして完全攻略しましょうぜっ!」


 キンタロウは誤魔化すように声を上げたが誤魔化し切れていない。しかしキンタロウの言葉で彼らの士気は不思議と高まった。キンタロウ含め皆、やる気に満ちた表情に変わったのだ。

 それほどキンタロウの言葉に信頼を置いていると言うことになる。

 なぜならキンタロウは……


「さすがキンタロウ。いや、ボドゲ部部長!」


 兎島高等学校ボードゲーム部部長なのだから。


「無理やり決まった部長だけどな……」

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