066:イリスが明かす真実

「ようせい、いりす……。お、おれのようせい……」

 全く予想外の展開についていけなくなったキンタロウ。妖精との契約などキンタロウはした覚えがない。

 そしてここの世界はボドゲの世界だ。入手イベントがないのに入手することなどあるのだろうか。

 そもそもキンタロウ自信が生き返ったのはこの妖精のおかげなのだろうか。思考を巡らせるキンタロウだが不可解なことをいくら考えても答えは出てこない。


「もしかしてキンちゃんのスキルって妖精使いとかなんじゃ?」

 キンタロウと同じく、頭脳派のモリゾウも思考を巡らせていた。モリゾウがたどり着いた答えはスキルだ。

 キンタロウだけ不明のままだったスキル。それが妖精使いというスキルならキンタロウの妖精だと名乗るイリスの説明がつく。

 しかしそれならなぜ今までイリスは出現しなかったのだろうか。出現するために条件などがあったのだろうか。その条件がたった今、達成したからこそ出現できたのだろうか。と、そこまでモリゾウは考えたがどうもしっくりきていない。


「キンタロウの妖精と言ったが元々はキンタロウのスキルではないぞ。これはキンタロウの両親が託したものじゃからな」

「お、俺の両親……参加者だったのか……」


 キンタロウは祖母と2人暮らしだ。両親はキンタロウが赤子の頃に行方不明になってしまい一度も帰ってきていない。両親は自分を捨てて何処かへ行ったと幼い頃のキンタロウは思っていた。

 なので両親の顔を知らない。否、知っている。祖母家にあったアルバムに父と母らしき人の写真を見たことがある。それが両親なのかは祖母には聞かなかった。聞けなかったのだ。

 だからキンタロウは自分を捨てたと思い込むようにして両親のことを忘れようとしていた。だから両親のことを知る目の前の檸檬色の髪の妖精に今まで以上の衝撃を受けたのだ。

 心の中に隠してあった中身のない宝物が掘り起こされた感覚だ。中身がなにもないことを知っているがもしかしたら何か入っているかもしれないと、もう一度確認しようと宝箱の中身を開けようと手をかけている。


「お主には記憶がないと思うが一度このゲームをゴールしておるんじゃよ」

「は? え? 普通逆じゃね? なんで俺がゴールしたことイリスが知ってんだよ。ドラゴンからのあとのことは確かに記憶はねーけど、そん時に親父と母さんとイリスが俺のことを助けたんなら、それ以前の過去に戻ってるからそのことはなかったことになってるはずだぞ。そうじゃなきゃ過去に戻って死んだ人間に会うってこともできなくなっちまうよ」


 キンタロウは前回、仲間を失って一人でこのゲームをゴールしたことを思い出す。

 ドラゴンに仲間を殺されてからゴールするまでの記憶はキンタロウにはない。その空白の時間に行方不明だった両親が現れて助けてくれた可能性はある。その時に妖精のイリスを授けたのならキンタロウの妖精になっていることに説明がつく。

 しかしキンタロウが戻った過去はドラゴンに殺される前の過去だ。つまり両親にもイリスにも出会っていないはずの過去。それなのにイリスがここにいることは全く辻褄が合わない。

 もしかしたらスキルという未知は過去や未来など超越するものかもしれない。しかしそれでも両親に会ったという事実はなくなるわけで、やはりイリスがキンタロウの妖精になるのはおかしなことだ。


 頭を悩ましているキンタロウにイリスは「ユウジの息子よ」と優しく声をかける。その顔は親が子に向ける笑顔のようにも見える優しいものだった。


「ワシが言っておるのは20年前のことじゃよ。お主は20年前にも一度このゲームをゴールしておるのじゃよ」

「20年前って俺産まれてきてねーぞ。何かの間違いじゃねーのか?」

「いいや、間違いではない。キンタロウ、お主は20年前に両親とともにこのゲームに参加しておるのじゃ。その頃は確か1歳じゃったかの」


 前回のドラゴンとの死闘とは別にゴールしていたという事実を聞かされ困惑するキンタロウとボドゲ部。

 そして何よりその事実が20年前のものだということ。キンタロウは現在高校2年生の17歳だ。20年前は産まれていないし母親のお腹の中にだっていない。


「ちょっと、ちょっと待ってくれよ。なに言ってるかよくわかんねーんだけど、俺は今20歳なのか?」

「いいえ、キンちゃんは17歳で間違いありませんよ」

 混乱するキンタロウに対して冷静なモリゾウはキンタロウに年齢について仮説を説明する。


「20年前のキンちゃんは1歳。その時にこのゲームに参加してゴールした。ゴールの報酬として未来か過去に行く力を手に入れる。その際に3年後の未来にタイムスリップしたってことですよね。だからキンちゃんは17歳で間違いありません。そうですよね。イリスさん」

「そんな感じじゃな」


 年齢については納得したとまではいかないが納得するしかない。けれどキンタロウには引っかかる点がもう一つある。


「ちょっと待ってくれよ。この『神様が作った盤上遊戯ボードゲーム』は今日発売されたばかりだよな。先行プレイヤーってのもいたらしいけどそれも1年以内の話だろ? なんで20年も前にこのボドゲがあんだよ」


 キンタロウは『20年前』と言う言葉に違和感を持ったのだ。


「この世界……『神様が作った盤上遊戯ボードゲーム』は20年以上前から存在しておる。その時は試作品じゃったがな。外の世界には秘密裏にされていたのじゃよ。というよりもこの世界のことを知っている人は元の世界には帰れていないということじゃな」

「マジかよ、そんな前から」


 イリスはキンタロウの違和感を解消するために答えた。そのままイリスは透き通るほど綺麗な羽を羽ばたかせてキンタロウの頭の上に戻っていった。


「ここが落ち着くのぉ」

 檸檬色のボサボサの髪の中にすっぽりと収まり羽を休ませるイリス。リクライニングシートに座っているかのように座り始めた。

 そしてヨダレを垂らし目を充血させ唸り続けている黒田に声をかけた。


「少年よ。お主はユウジに負けたプレイヤーじゃな?」

「うぅぅ、うぅ、ぅう……ううぅ」

 黒田からの返事はない。右手で頭や失っている左腕を掻きながら唸り続けてる。


「俺の親父に負けた?」

「時間はあるじゃろ。少し昔話をしてやろう」


 イリスはキンタロウの頭の上で白い天井を眺めながら昔話を始めた。

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