011:処刑人X

 マジックショーなどで使用されるドラムのリズムがワープしたてのキンタロウたちの胸に響き渡った。

 そのワクワクさせるリズムと共に聞いたことがある声がキンタロウたちの耳に届いた。


「ジャンケン♣︎ジャンケン♠︎ジャンケン♦︎ターイムゥッ❤︎」


 そこにいたのは、ボドゲ空間にワープした時にステージで仕切っていたあのピエロだった。


「またピエロかよ!?」


 キンタロウはピエロに向かって残念そうにツッコんだ。



 キンタロウたちがワープしてきたのは『第6層8マス』。ここは今までの白い空間とは違い、サーカスの会場のような施設だ。

 ゾウが乗れるほどの大きなボール。ジャグリングに必要な道具。猛獣使いが扱うムチ。その猛獣を閉じ込めるための檻。その他サーカースに使う道具が大量にある。

 どちらかと言うとステージやショーの会場とかではなく倉庫のような雰囲気だ。


「ピエロとサーカス……異質な空気ですね……」


 モリゾウは異質な空気を感じ胸中がざわついている。何か……何か嫌なことが起きるのではないかとモリゾウは予感した。


「ぬふっふっふ~ん❤︎」


 ピエロはジャンケンの手『グー』『チョキ』『パー』のイラストが描かれたトランプほどの大きさのカードを何枚も持っている。カードの厚さからするとトランプと同じ枚数くらいあるだろう。

 そしてそのジャンケンカードをマジシャンのように自由自在にシャッフルしている。

 シャッフルする時には『ブルルルルル』と激しい音を鳴らしている。トランプのこの音が好きな人にはたまらないだろう。


「ここ『第6層8マス』のゲームはジャンケンだよ~ん❤︎もちろんルールは知ってるよね~ん?」


 ピエロはそこまで言ってからキンタロウの方を見た。


「そこの金髪くんは知らなそうね」


「ジャンケンぐらい知ってるわ!」


「あら、そう? ジャンケンのルールを頭に流してあげようと思ったのに~ん❤︎」


「ジャンケンくらいわかっから、マジでそれだけはやめてくれ……頭がバグる。というかまた倒れちまう……」


 ピエロに遊ばれているキンタロウ。頭の中に光の速さで情報が入ってくることをキンタロウは顔色を悪くしながら嫌がっている。

 なぜならキンタロウは嘔吐し気絶した経験があるからだ。もうすでにキンタロウにとってトラウマレベルの経験なのだ。


「それでこのマスは何なんだ? ジャンケンに勝てばいいのか?」


「君たちには処刑人Xくんとジャンケンをしてもらうよ~ん❤︎カモ~ン!!」


「処刑人X?」


 ピエロの合図の直後に空の檻が揺れ始めた。否、揺れたのは空の檻ではない。その先にある檻だ。そこからの振動でキンタロウたちの一番近くにある檻が揺れたのだ。


「うふふふ~ん❤︎元気そうね❤︎」


 ピエロが狂気的な笑みを浮かべて見ているのは、檻の鉄格子の隙間から手と足を出した人間だ。

 体格が良い筋肉男のノリよりも大柄な男。石の壁を握力だけで握り潰しそうな筋肉をしている。それぐらいでなければ鉄格子の隙間から手足を出すことはできないだろう。


「ぁ……ぅ……ぁ……」


 処刑人Xは何か言っているが何を言っているのか聞き取れないほど声が小さい。

 そして何より白目を向いていて自分の意思で動いているようには見えない。

 まさにマリオネット。誰かに操られているとしか思えないほどだ。


「こ、こわぃ……」


 か弱いイチゴが怯え震えている。無理もない。処刑人Xの姿を見て震えない人などいない。

 ノリもモリゾウも恐怖に支配され震えている。ただ1人キンタロウだけは違かった。


「処刑人エックス……」


 震えていないが驚愕の表情だ。しかしその驚きは恐怖が具現したかのような見た目に対してではない。


「名前……ダサくねぇか……」


 ダサい名前に対してだった。

 その瞬間、処刑人Xは叫んだ。


「ウォォオオオオオ!!」


「ひぃィイ、てっきり言葉通じないものかと思ったよ! こ、こわ……てか、怒りすぎだろ!」


 処刑人Xは体に付いている檻をガシャガシャと乱暴に揺らしてキンタロウたちの恐怖を煽っている。

 そんな様子を見てピエロは再び凶悪な笑みを浮かべ説明の続きを始めた。


「処刑人Xくんとジャンケンをしてもらうわ~ん。『グー』『チョキ』『パー』のどれかのカードを1枚だけ出して勝敗を決めるのよ~ん。4人同時にカードを出して処刑人Xに1人♦︎1人♣︎1人♠︎でも負けなければこのマスはクリアよ~ん❤︎やり直しなし。1回限りの真剣勝負よ~ん❤︎」


「ま、負けたらどうなっちゃうのぉ?」と誰もが思う疑問をイチゴが口にした。

 1人でも負けなければ勝利。ただし1人でも負ければ敗北のジャンケンバトル。

 勝利すると次のマスに進める。敗北するとどうなるのか?


 するとピエロは狂気的な笑みを浮かべ「ふふっつ」と笑いながら「全員死ぬわよ~ん❤︎」と口にした。

 一番聞きたくない答えが返ってきたことに愕然とするイチゴ。そのまま膝をつき座り込んだ。


「おい。ピエロ」


 キンタロウはピエロを睨みつけた。鋭い眼光がピエロに刺さるがピエロはびくともしない。むしろゾクゾクと感じている。


「訳もわからないこんな空間に連れてきといて負けたら死だと。クソが……。俺たちが勝ったらお前が死ね! クソピエロ!」


 キンタロウは殺気立ち怒りをぶつけた。握りしめた拳に力が入りすぎて揺れている。


「そんなこと言われても『神様』が決めたルールだからね~ん❤︎私に言われても困るわよ~ん❤︎でも金髪くんの熱い♦︎熱い♣︎熱い♠︎気持ちは伝わったわ~ん❤︎」


 ピエロの言葉にモリゾウが反応した。


「やはりピエロは神様ではないんですね」と小声で呟いた。モリゾウの中でパズルのピースが一つ見つかった感覚だ。


「君たちはゲーム♦︎ゲーム♠︎ゲーム♣︎をクリアしなきゃ死ぬしか道は残されてないんのよ~ん❤︎さぁ! 処刑人Xくんと死のジャンケン一発勝負を始めましょ~ん❤︎」


 くるくると回りながら楽しそうにしているピエロ。とぼけた話し方は憤怒するキンタロウを煽る。


「て、テメェ!!」

「キンちゃん。落ち着いてください」


 モリゾウは何かに気付きキンタロウの肩を優しく叩いた。キンタロウは素直に怒りを抑えて肩を叩いたモリゾウと目を合わせた。


「キンちゃん。ここは一旦落ち着きましょう。このジャンケンには必勝法があります」とキンタロウに耳打ちをした。そんなモリゾウの顔は自信満々な表情に満ち溢れていた。


「1人も負けなければいいんですよね?」

「その通りだよ~ん❤︎」


 モリゾウはピエロに再確認した。


「それじゃカードを配っちゃうわね~ん❤︎」


 ピエロは『グー』『チョキ』『パー』がそれぞれ描かれたカードを処刑人Xとキンタロウたちに向かって投げた。

 投げられたカードは、自分の意思で動いているかのように浮きながらそれぞれの手元に向かっていった。

 もうそれくらいのことではキンタロウたちは驚かない。死のゲームの前では不可思議なことが少し起きたくらいでは動揺しないのだ。


「5分だけ、いや、10分だけいいですか?」


 モリゾウはピエロに10分待ってもらうように提案する。

 しかしピエロは「10分じゃなくて何分でもいいわよ~ん❤︎」と提案を受け入れた。

 そんなピエロは余裕の表情をして近くにある赤いソファーに腰かけた。

 その様子を見てモリゾウは振り返りキンタロウたちを集合させた。


「作戦会議しましょう。このジャンケンの必勝法があります」


 ボドゲ部4人は、ジャンケンの必勝法について作戦会議を始めた。

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