071:檸檬色
「何が出るかな、何が出るかな? っと」
ユウジはゴロウから貰ったオレンジ色の6面ダイスを投げた。広々とした大草原に力の限り投げ飛ばされたオレンジ色のサイコロは転がり続ける。
緑色に天に向かって生える雑草の上を転がり続ける。勢いが弱まる前にサイコロは急に止まった。サイコロは分厚く大きな雑草の壁をクッションにし止まったのだった。
「出た目はなんだ?」
オレンジ色のサイコロが止まった場所に向かうユウジ。目の確認に向かったのはユウジのみだ。
アヤカはキンタロウを抱っこしているので無駄な体力を使わずに温存しているのだろう。ゴロウは老兎だ。ユウジの申告をその場に立ち止まり待っている。
「おーい6だ! 6の目が出てるぞ!」
ユウジの申告通りオレンジ色のサイコロの目は6が出ている。
プレイヤーに目が確認された途端、オレンジ色のサイコロは暖かな色を放ちながら輝き出した。
「光った、光ったぞ!」
手のひらで光を遮りながら目を凝らし光るサイコロを見続けるユウジ。
徐々に光は弱まり、サイコロがあった場所には幼い少女が現れた。
その少女は手のひらサイズの小さな女の子。小さな体には小さな羽を生やしている。そしてアヤカとキンタロウと同じ檸檬色の髪だ。
ユウジは一瞬、アヤカの分身が現れたのかと思ったくらいアヤカと髪型、髪色、雰囲気が同じだった。
しかし幼すぎる顔と獣の毛皮を丁寧に編んだ服を着ている姿からアヤカとは全くの別人だとわかる。そしてその種族もユウジには見覚えがある。
「ようせい?」
ユウジが言ったようにオレンジ色のサイコロから現れたのは空想上の生物、妖精だった。
「ワシの名はイリス。お主が言った通り妖精じゃ」
「おいおい、ここのマスは爺さん婆さんキャラ縛りなのか」
イリスと名乗った妖精の口調を聞いたユウジは真っ先にゴロウを見た。見た目は違えど喋り方は老人のそれだ。
「婆さんキャラとは失礼な」
「悪い悪い怒らないでくれー」
頬を膨らませながらユウジの周りを飛び回るイリス。その後、ユウジのボサボサな髪の上に羽を休めた。
「まあいいじゃろう。それでお主がワシの新たな主人なんじゃな」
「主人っていうか、まあ、そんな感じなのかな。よろしくな。えーっと……」
「イリスじゃ」
「よろしくな。イリス!」
頭の上に乗っているイリスを指の感覚だけで撫でるユウジ。撫でている部分は腹で毛皮で編んだ服がもふもふの感触だろう。
「わー。妖精さんだ」
アヤカも妖精が気になりユウジの元へ歩いてきた。
「イリス。紹介するよ。このめちゃくちゃ可愛い人は俺のお嫁さんで名前はアヤカ! んで、もっと可愛い天使のような子は俺たちの一人息子のキンタロウだ!」
ユウジは頭の上に乗っているイリスに自分の家族を紹介した。
「イリスって言うのね。よろしくね! イリスちゃん」
「アヤカとキンタロウだな。よろしくじゃ」
アヤカとイリスは笑顔を交わした。そして寝ているキンタロウの顔を見るためにイリスは、ユウジの頭から飛びアヤカの肩の上に止まった。
「これは将来アヤカに似るじゃろうな。いや、アヤカに似てほしいのぉ」
「やっぱりそうよね~」
イリスはユウジとアヤカの顔を見比べて失礼なことを言ったがアヤカは嬉しそうにしていた。
目つきが悪くボサボサ頭のユウジよりも笑顔が素敵で整った顔つきのアヤカに似てほしいと比べたら誰でも思ってしまうだろう。ユウジ自身もアヤカに似てほしいと思っているのだから。
キンタロウのことを褒められて嬉しくなったアヤカはそのままの勢いで話を振った。
「イリスちゃんはどんな能力があるの?」と、ユウジも気になっていたイリスの能力について聞いたのだ。
「ワシは魔法を扱う妖精じゃが、ワシの真の能力はちょっと複雑というか特別なものでな」
「真の能力?」
「死ななきゃ発動できん能力じゃ」
イリスの口から衝撃の事実が明かされた。死ななければ発動できない能力。それはある意味、特別な能力である。
「死ななきゃって死んでから発動したら意味ないじゃんか!」
「意味ないとはなんじゃ。ユウジよ。話は最後まで聞くんじゃよ」
死んでから発動する能力なんて良いことがないではないかとユウジは思っていた。倒した相手を道連れにしたり巨大な爆発を起こし街を吹き飛ばしたり、死んでから発動する能力で良いイメージがユウジには浮かばなかった。
しかしそれは早とちりだったらしい。そんなユウジに対してイリスは話を続けた。
「死んで発動するスキルは蘇生じゃ。蘇生後は死因になった傷は時間が遡ったかのように全て治るのじゃよ。このボドゲ空間の世界限定で1回限り能力じゃがな」
「チ、チ、チート能力じゃねーか! ヤベー、意味ないとか言って悪かった。生き返るとかヤバすぎ!」
イリスは鼻を鳴らしながらくるくるとユウジの周りを飛び始めた。ユウジはそんなイリスを目で追いかける。そして生き返りのチート能力に喜んでいた。
「でも死ぬ気もないし死なす気もないけどな!」と頭に止まったイリスを人差し指で撫でながらユウジは呟いた。
その呟きを聞いたイリスはニッコリ安心したかのように微笑んだのだった。
「ではでは特別な力を授かったということで次に進むと良いぞ。ダイスも出るじゃろう」
案内兎のゴロウがユウジたちの会話がひと段落したと判断し話し出した。ゴロウが言った通りここのマスでの戦いは終わった。次のマスに進むためのダイスを出現させることが可能だ。
「そうだよな。早くゴールして家に帰りたいからな。ウサ爺さんジェンガ楽しかったぜ。ありがとうな」
「フォッフォッフォッ。ワシも楽しかったぞ。無事にゴールし家に帰れることを願っておるぞ」
ユウジとゴロウは別れの言葉を交わした。
「バイバイ。ウサギちゃん」
アヤカはキンタロウの小さな手で手を振った。
「それじゃ次のマスに行き
ダジャレを交えながらユウジはダイスを唱えた。
すると赤いサイコロと青いサイコロがユウジの目の前に出現。宙に浮かびながら振られるのを待っている。
ユウジはサッカーボールほどの大きさのサイコロを両手で抱き抱えるように掴みそのまま投げた。
次へ進むマスが決定しユウジとアヤカ、キンタロウ、そしてイリスは体が赤色と青色に輝きだしワープしたのだった。
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