072:ユウジと黒田

「というのが、ワシとユウジの出会いじゃ。ユウジの記憶を借りて参加してからのことも話してしまったがな……」

 ユウジとの出会いの回想を終えたイリス。その後、イリスは内出血が激しいノリの腰に手をかざした。緑色のオーラがノリの腰を包み込む。


癒しの波動ヒールパルス


 そのオーラを浴びるノリは驚いた様子でいる。


「こ、これは?」

「ああ、これは治癒魔法じゃ。キンタロウを生き返らせた反動で魔法が使えない時間があったんでな、ようやく使えるようになったので一番ひどい傷から治癒していこうと思っておるぞ」

 イリスは治癒魔法でノリの腰の内出血を治そうとしている。比較的治癒スピードは遅いが緑色のオーラに包まれている部分は徐々に傷が治っていく。


「俺の親父と母ちゃんも参加させられてたんのか……。ふ、2人は今どこにいるんだ? 俺が現実世界に帰ったってことは親父も母ちゃんも帰ってきてるってことだよな。2人は行方不明でどこにいるかわかんねーんだよ。1回限りの生き返りのスキルがさっき発動したってことは親父も母ちゃんも生きてるんだよな? イリス! 教えてくれ!」

 キンタロウは行方不明の両親の手掛かりをイリス知っていると睨んでいる。現実世界に帰ってこれたキンタロウ。生き返りスキルを使っていないことを考えると生存している可能性が高いはずだ。

 そんな期待を胸にイリスの答えを待っている。


「まだ話は終わっておらん。ユウジとアヤカがどうしてキンタロウの前から姿を消したのか。そして肝心の黒田少年との話はここからじゃよ」と本題に入ろうとするイリス。


 そして少しの間キンタロウと目を合わせ何か懐かしさを感じたかのように話を再開した。


「それは『第4層90マス』に到着した時のことじゃ」と再びイリスの回想が始まる。



『第4層90マス』

 ここは図書館のように本がたくさん並んでいる光景が永遠と続く空間だ。進んでも進んでも本棚が永遠と続く。

 並んでいるのは本だけではなくテレビゲームやボードゲームの箱なども並んでいる。


「ずっと本が続いてて不思議だね……」とアヤカは不思議そうに辺りを見渡している。


「確か第4層ってプレイヤー同士のゲームバトルだったよな? 案内兎とか他のプレイヤーとか誰もいないぞ」

 ユウジは他のプレイヤーがいるかもしれない第4層を警戒している。もしかしたらゲームが既に始まっているかもしれない。なので警戒が必要なのだ。

 そして案内兎もいないことに違和感を感じている。


『第4層』はプレイヤー同士がボードゲームで戦うバトルエリアになる。

『第4層』なら同じマスに止まらなくても必ずプレイヤーとバトルできるような仕組みになっているらしい。極端な話だが『第4層99マス』にいるプレイヤーと『第4層1マス』にいるプレイヤーが戦うことが可能なのだ。

 その代わり敗北したプレイヤーは先に進むことができずそのマスに止まることとなる。双六ゲームなどでよくある『1ターン休み』みたいな状態だ。

 さらに敗北したプレイヤーにはランダムで罰が執行される。その罰は『スキルを失ったり』『サイコロの目がー1になったり』『そのマスに止まらずマスを戻されたり』様々な罰があるのだ。


 戦うゲームの内容は止まったマスによって変わる。適応されるマスはゴールに近いマスだ。なのでスタート地点に近いマスで足止めを食らってしまうと毎回ゲームの内容が変わってしまうことがある。


 この層の重大な欠点は他のプレイヤーが第4層に止まるまで待たなければいけないことだ。

 もちろん参加者が減ってきたり他の層で苦戦していればいるほど第4層での遭遇率はぐんっと下がる。


 しかしユウジたちは待つ側のプレイヤーではなく待たせていた側のプレイヤーだった。


「待ってたぜ」と男の声が本棚の奥からユウジたちに向けて飛んできた。


「俺たちが後から入ったプレイヤーか。待たせたな!」と飛んできた男の声に身構えながらユウジが答えた。


「本がたくさんあってな。退屈はしなかったが早くゲームがやりたくてうずうずしてたところだったわ」とその男は答えた。

 男はゆっくりと歩き姿を見せた。男は黒いスーツをしっかりと着こなしいかにもサラリーマンといった雰囲気だ。そしてそのサラリーマン風の男の後ろには、腰まで届く長い髪をなびかせたスタイル抜群の女性の姿もある。


「俺は黒田ショウゴ。でこっちは俺の彼女のヒナコだ。よろしくな~」

「俺は金宮ユウジ。嫁のアヤカと一人息子のキンタロウだ。よろしく」


 これが金宮ファミリーと黒田カップルの出会いだ。


「よろしくね」

「うん。よろしく」

 アヤカとヒナコはニッコリと笑いながら軽く会釈し挨拶をした。


「ところでここのゲームは? 案内兎はどこにいるんだ?」

 そんなユウジの疑問に答えたかのようにトコトコと足音が奥の本棚の先から聞こえてきた。


「案内兎は俺だ」

 足音の正体は真っ黒のウサギだ。種類はロップイヤーだろうか。耳が長く垂れている。その黒いウサギは腕を組みながらこちらに向かってきている。


「俺の名前はクロ。ここでは『チェス』をやってもらう。チェスのルールはわかるか?」

「チェスか……」


 第4層のプレイヤー同士のバトルで黒田とユウジのチェスバトルが始まろうとしていた。

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