061:6連回転式拳銃の確率

 黒田は6連発の回転式拳銃に1発実弾を入れた。そして親指を使い物凄い速さでシリンダーをガチャガチャと回転させる。

 6連発の回転式拳銃の引き金を引き、弾が発砲される確率は『1発目16.6%』『2発目20%』『3発目25%』『4発目33.3%』『5発目50%』そして『6発目100%』となる。毎回シリンダーを回転させる場合は常に16.6%になるがキンタロウが受けるロシアンルーレットではシリンダーの回転はしない。


 もしも筋肉男のノリがこのロシアンルーレットに参加していた場合『最大値スキル』の効果によっての必ず1発目に実弾を引いてしまっていただろう。

 そう考えるとキンタロウだけの参加でよかったのかもしれない。


「1発目はお前がやれ!」

 黒田は静かに拳銃を床に置いた。そしてキンタロウに向けて蹴り飛ばした。

 黒田が蹴った拳銃はキンタロウのちょうど目の前に止まった。その拳銃を拾うキンタロウ。


「重い……」

 初めて握る拳銃の感覚。そして重さを感じているキンタロウ。『神様が作った盤上遊戯ボードゲーム』に参加するまでは普通の高校生だったのだ。拳銃を初めて握るのは当然のことだろう。

 そして拳銃を握った瞬間、止まっていた震えが再発。再び手が足が全身が震え始めた。目の前から感じる死のニオイに震えてしまっているのだ。

 この引き金を引けば16.6%の確率で死ぬかもしれない。そもそもこれは確率論だ。1発目に銃弾がセットされていたら100%ではないか。


 キンタロウ以外の面々にも緊張感が伝わる。聞こえないはずの振動の鼓動まで聞こえてきそうだ。


「ちょっと待ってくださいよ! なんでキンちゃんが先にやらなきゃいけないんですか! 何か不正でもしてるんじゃないんですか?」

 疑い深いモリゾウが突然叫び出した。疑って当然だ。実弾を入れたのは黒田。そしてシリンダーを回転させたのも黒田。キンタロウを1番目に指定したのも黒田。逆に疑わない方がおかしい。


「た、確かにそうだ、あっぶねー。何の疑いも無しに撃ちそうだったわ!」

 モリゾウが叫んでいなければキンタロウは黒田のことを疑わずに正々堂々とロシアンルーレットをやっていた。もしもモリゾウの想像した通りに拳銃に細工が施されていたらキンタロウの命はなかった。


「不正なんてしてねーよガキィ。そんなことしたらコイツの死体を見る前に俺が死体になっちまうだろうが!」

 黒田はモリゾウに荒々しく答えた。そんな黒田の言葉はただの言葉だ。嘘をついているかもしれない。人を簡単に殺してしまう人間の言葉など信用できはずがない。

 しかしモリゾウは唾を飲みキンタロウと目を合わせてコクリと頷いた。

 それは嘘をついていないというキンタロウに向けてのジェスチャーだ。


 モリゾウは『探偵スキル』という優秀な能力を所持している。黒田に叫ぶのと同時に『探偵スキル』を発動し黒田の嘘や心情の変化を見ていたのだ。

 そしてキンタロウに向けたジェスチャー通り黒田は嘘をついていないことが『探偵スキル』の嘘発見器のような能力から判明した。


 キンタロウは黒田の言葉を疑ってもモリゾウのことは疑わない。疑う要素が全くないのだ。

 だからこそキンタロウは静かに自分のこめかみに拳銃を向けた。そして躊躇うことなく引き金を引いた。


『カシャ』


 そんな音が『第4層77マス』に響き渡った。実弾は発砲されなかった。セーフだ。

 躊躇うことなく引き金を引いたせいでモリゾウたちはキンタロウが撃ったことを『カシャ』という金属と金属が擦り合う音を耳で聞いてから撃ったのだと理解したのだ。


 いつも騒がしいキンタロウがカウントや声なども出さずに引き金を引いたことにモリゾウたちは衝撃を受けている。

 生きている喜びよりも躊躇いなく引き金を引いた衝撃の方が大きかった。しかしその衝撃も一瞬。すぐにキンタロウが生きていることに安堵し忘れていた呼吸を始めた。


「ほーう。やるじゃねえかクソガキ。そういうところもにそっくりで殺し甲斐があるってもんだ」

 躊躇うことなく撃ったキンタロウに感心する黒田。


 そんな黒田の言葉を聞かずにロシアンルーレットの1発目を成功させた喜びと達成感でキンタロウは騒ぎ始めた。


「うぉおおおい! マジで怖ぇぇええええよ! 流石に1発目は無いと思ってさすぐに撃っちゃったけど、やっぱり怖ぇええええ! 運だもんなこれ。やばい。やばすぎるぞこれ!」

 静寂を保っていたキンタロウは産声をあげたかのように騒いでいる。


「もう嫌だ! おっさん、死のゲームとかやめようぜ……おっさんも死ぬかも死んねーんだぞ」

「ああ? 早くソイツをよこせ」

「やる気満々かよ。くそ……」

 狂気的に笑みをこぼしている黒田を見てキンタロウは仕方なく拳銃を白い床に置いた。そしてその拳銃を黒田の方へ蹴り飛ばす。

 キンタロウに蹴られた拳銃は回転しながら黒田の方へ向かっていく。しかし少し方向がズレてしまい血の池の上を通って黒田を通り過ぎて行った。


 黒田は拳銃を拾うためゆっくりと歩いた。そして血の池を通った血だらけの拳銃を躊躇うこともなく拾った。


 拳銃を拾った黒田は、その拾う動作からすぐに自分のこめかみにまで拳銃を持っていく。拾ってからこめかみに持っていくまでの速さは先ほどまでゆっくりと歩いていた姿からは想像もできなかった。


 手慣れている。何度もロシアンルーレットをやってきたのだろうか。もし何度もやってきたのなら全てに勝利してきたはずだ。そうでなければ目の前にいる黒田という人物は亡霊や機械のような存在になってしまう。


 そして黒田は銃口をこめかみに向けてすぐに引き金を引いた。躊躇うことがなかったキンタロウよりも速く。まるでテレビ番組を変更するためにリモコンで別のチャンネルを押したかのように。


『カシャ』


 黒田の拳銃も不発で終わった。2発目があっさりと終わったのだ。そしてゆっくりと血に濡れた拳銃を白い床に置きキンタロウの方へ蹴り飛ばす。


 蹴られた拳銃は回転しながらキンタロウの元へ吸い込まれるように向かっている。そして真っ赤な血の跡を残している。血の跡は前半は色が濃く付いていたがキンタロの目の前に到達する時には点々と小さな跡になる。


「てめーの番だ」

「はえぇええええよ! 助かった余韻が全くねぇぇじゃねーか!」

 自分の番が早くも回ってきたことにキンタロウは蹴り飛ばされてきた拳銃を見ながら文句を言った。


「これで3発目だよな。さっきよりもぐーんと確率増えてんじゃんかよ。あぁ、マジで怖い。さっきの勢いが嘘みたいだよ。もう無理だ引き金引けねぇよ。怖い怖い怖い……」


 死の確率が上がりキンタロウの心は恐怖に蝕まれていく。拳銃を握った瞬間、さらに恐怖は増幅する。

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