058:運命のあみだくじ

 振られたサイコロは徐々に止まる。最初に止まったのはダイチが振った2つのサイコロ。

 層を決める赤いサイコロは1の目が出た。そして報酬で獲得した青く輝くサイコロは40の目が出ている。

 現在のマスは『第5層17マス』だ。つまりダイチたち三兄妹が次に進むマスは『第1層57マス』に決定したのだ。

 第1層ということはスキルまたは武器などが獲得できるプレイヤーに有利になるマスだ。三兄妹は安全なマスに止まることができた。

 そしてダイチ、ウミそしてキンタロウを抱きしめて火ノ神から逃げるソラは赤いと青の光に包まれた。次のマスに進ためのワープが始まったのだ。


「キーくぅん、だいすき。愛してる」

 そんな言葉と女神のような笑顔を最後に見せたソラは赤と青の光と共に消えた。

 ソラが消えたことによってキンタロウは翼を失った鳥のように上空から落下する。


「ぇええええええええ、なんちゅうタイミングでワープしてんじゃァアアアアアア」

 頭から落下するキンタロウは叫びながら手足をバタつかせている。それを火ノ神が追いかける。その姿は、ひっくり返って手足をバタつかせている虫を食らわんとばかりに鳥が狙っているようだ。


「クァアアアアアアアアア」

 落下するキンタロウよりも急降下しキンタロウを追う火ノ神の方が圧倒的に速い。このままではキンタロウは虫のように鳥に食べられてしまう。


 三兄妹はワープしたのになぜボドゲ部はワープしないのか。それはノリが青く輝くサイコロを天高く投げたせいだ。

 イチゴが振った赤いサイコロはすでに目を出しているがノリが振った青く輝くサイコロは目をまだ出していない。

 ノリの最大値スキルで60の目が確定しているがしっかりとサイコロが止まらない限りボドゲ部の全員はワープすることができないのだ。


 キンタロウは今、運命のあみだくじの上に立たされている。正確にはもうあみだくじは始まってしまい1つの答えに向かって下に移動しているのだ。それはまさに落下するキンタロウと同じ。

 キンタロウの運命のあみだくじのたどり着く先は3本ある。


 1本目は火ノ神に食われることだ。このままワープしなければ火ノ神に追いつかれキンタロウはエサになってしまうだろう。この場合は地上で待機するディオスダードでもどうすることもできない。


 2本目は頭から落下し転落死することだ。これは火ノ神には追いつかれないがワープが間に合わないパターンだ。しかし転落死する前にディオスダードに助けられるだろう。その後はボドゲ部の全員が火ノ神の餌食になる可能性がある。


 そして最後の運命の3本目はワープが間に合うことだ。ノリの投げた青く輝くサイコロが1本目2本目のパターンよりも早く60の目が出ればワープが始まりキンタロウの命が助かる。



「うぅぉおおおおおおぉおお! 来るな焼き鳥クソ野郎がァアアアア!」

「クァアアアアアアアアア!」

「いやァアアアア、食われるゥウウウ、クソォオオオオオオ!」


 キンタロウは口を大きく開ける火ノ神に向けて空中で蹴りを入れて抵抗を見せる。


「ぁ……」

 キンタロウは小さな声がこぼれた。それは絶望する時に出る声だ。キンタロウの足は火ノ神の大きく開けた口の中にすっぽりと入り込んだのだ。

 あとは火ノ神が咀嚼するのみ。咀嚼後キンタロウの命は失われる。運命のあみだくじは1番目の答えにたどり着いたのだった。


「クソォオオオオオオオオ」

 叫ぶキンタロウ。空中ではどうすることもできない。そしてキンタロウの全力の抵抗でも火ノ神には通用しない。

 そして火ノ神が咀嚼を始めようとクチバシを閉じようとした。


「く、そ、ぅぅ……」

 キンタロウはなす術なしで目を閉じた。だがキンタロウは諦めたわけではない。青く輝くサイコロの目が出るのを願って目を閉じたのだ。


 するとキンタロウの願いが叶ったかのようにキンタロウの体が赤と青の光に包まれた。そして火ノ神がクチバシを閉じたのとほぼ同時のタイミングでキンタロウはワープした。

 間一髪でキンタロウは命が失われずに済んだ。


 運命のあみだくじは最後の横線1本が答えを変えたのだった。



 火ノ神は標的を失いそのまま年寄りの白い兎のゴロウへと向かっていく。ゴロウは動じず火ノ神を見上げる。そしてキンタロウを食い損ねた火ノ神はゴロウを噛みついた。噛み付いた瞬間に口から炎が溢れ出た。

 しかし火ノ神はゴロウを貫通する。そしてゴロウは熱さも痛みを全く受けていないのだ。


「そういうシステムじゃよ。火ノ神よ。フォッフォッフォ」

 ゴロウは笑いながら髭を触り見下すように火ノ神を見ている。


「本当に運が悪いのお。少年……キンタロウよ……そういう運命なのじゃな」

 今度はイチゴが振った赤いサイコロの目を見ながら言った。


 ノリが振った報酬の青く輝くサイコロは、最大値スキルの効果が発揮し60の目が出ている。60マス進むことができるのだ。

 そしてイチゴが振った赤いサイコロは4の目が出ている。第4層に移動することになる。

 ボドゲ部たちが止まるマスは『第4層77マス』になった。


『第4層』はボドゲ部たちは初めての層になる。

 死のゲームが待ち受ける第6層。ジャングルなどの場所でフィールド戦が行われる第5層。そのワンランク下の第4層には何が待ち構えているのだろうか?

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