003:ボードゲーム部

 キンタロウは2時間も並び購入した『神様が作った盤上遊戯ボードゲーム』をプレイするために仲間達と集まった。

 場所はキンタロウが通っている学校『兎島うさぎじま高等学校』のボードゲーム部、通称ボドゲ部の部室だ。


 茨城県立兎島高等学校は田舎ということもあり土地を大きく使っている分、校舎自体は2階建てになっている。

 2階の東側一番奥の視聴覚室の隣がボドゲ部の部室だ。土地が広い分一つ一つの教室も広い。ボドゲ部の部室も教室と変わらないほどの広さがある。まさに田舎の特権。


 集まった仲間達はキンタロウも含めて4人。同じ兎島高等学校のボドゲ部の仲間達だ。

 部員はここに集まった4人の他に幽霊部員が1人いる。部員数は全員で5人。ギリギリ廃部の危機をまぬがれている状況だ。


 そして今日は日曜日で学校は休み。ただ『ボドゲをやるならここだろ』という部員全員一致の意見で部室に集まったのだ。


 部室には世界中のボードゲームやカードゲームなどが綺麗に整理整頓されている。

 ボドゲは一つでも付属品が紛失してしまうと遊べなくなったり、楽しさが半減してしまったりする。なのでボドゲで遊ぶ時は、きちんと最後の片付けまで徹底しなければならない。

 以前『黒兎危機一髪』の『キャプテンブラック』というウサギのキャラクターが紛失して大騒ぎになったことがある。周りの『ニンジンの剣』を無くすならともかくメインのウサギを無くしては遊ぶ事ができなくなってしまう。


 そして部室にはボードゲームやカードゲームがざっと180種類くらいある。

 兎島高等学校ボドゲ部の歴史は短く今年で18年目になる。18年でここまでボードゲームを集められたのはOBに『ボドゲオタク』がいたおかげだ。

 ほとんどのボドゲは『ボドゲオタク』がボドゲ部に贈ったものだ。

 ボドゲ部部員たちは『ボドゲオタク』の顔も名前も知らない。ただこんなにもボドゲを贈ってくれた『ボドゲオタク』を尊敬の意を込めて『ボドゲの神様』と呼んでいた。


 そんなボドゲ部の部室で瞳を輝かせている少女が口を開いた。


「早くやりたいよぉ」


 甘いお菓子を待つ子供のような表情で言ったのは『赤町せきまちイチゴ』だ。

 ふわふわ系の妹キャラで栗色の瞳、柘榴ざくろ色のショートヘアーの美少女。

 キンタロウと同級生。身長は150㎝。体重はイチゴ10個分。白いワンピースにイチゴ柄が入った可愛らしい服装をしている。

 心地の良いロリボイスは男性陣からしたらずっと聞いていたい声だ。そしてずっと見ていたい癒しの存在。ボドゲ部の唯一の女子。


 そんなイチゴの隣で様々な筋肉ポーズをとっている男は『川上ノリ』だ。


「ふんっ! ふんっ!」


 ノリは無口で筋肉バカ。何事も筋肉で表現する。薄浅葱色の瞳で坊主。

 キンタロウと同級生。身長は185㎝。体重は86kg。筋肉マッチョの大柄な男だ。

 筋肉バカだが運動神経は抜群。サッカー部、野球部、バスケ部、その他運動部にスカウトされていたがキンタロウに教えてもらったボドゲの魅力に取り憑かれ、ボドゲ部に入部した。

 秋の肌寒い季節に黒いタンクトップと迷彩柄のズボンを履いている。なんとも男らしい。


「いいかお前ら。俺は2時間も並んだんだ。しかも7564円。めちゃくちゃ高い。これでつまんなかったらクレームだからな。それにこのパッケージのピエロ、全然可愛くない。ウサッギーみたいに可愛いキャラにできなかったんかね? そもそも神様なのになんでピエロがイメージキャラなんだよ!」


 イライラしながら早口で話すキンタロウ。

 そんなキンタロウを落ち着かせようと最後の一人が口を開いた。


「まぁまぁ、キンちゃん落ち着いください。ノリちゃん取扱説明書こっちに投げてください!」


「ほらよっと!」


「うぉおい、ノリ! 大事な説明書投げるなー! 7564円の取説だぞ! それに何で勝手に開封してるんだよー! ふざけんなー!」


 ノリから取扱説明書を受け取ったのは蒼色の瞳で山葵色の髪の『吉沢モリゾウ』だ。

 モリゾウは清潔感のある白いワイシャツを着こなしている。その白いワイシャツの胸ポケットにはキンタロウのパーカーと同じ『勇者ウサッギー』というキャラクターがプリントされている。

 モリゾウもキンタロウと同級生。身長は166㎝。体重53kg。

 モリゾウは大人しい性格で人前には出ないタイプだが勉強では学年トップの優等生。ボドゲ部ないでも頭脳派と称される。

 勉強で負けなしのモリゾウだがキンタロウとのオセロ勝負に負けてボドゲ部に入部した経緯がある。モリゾウはボドゲよりもキンタロウのプレイスタイルに興味があるのだ。


「だってキンちゃんが読んだらルール変わっちゃうじゃないですか!」


「でもでもでも、俺が買ったわけだしさ! 部費だけど……。でもでも2時間並んだの俺だし!」


「なるほどなるほど」


 モリゾウは騒ぐキンタロウを無視して取扱説明書を読み始めた。

 キンタロウをいじめたいわけではない。キンタロウに取扱説明書を読ませてルール通りにボドゲが進んだ事が一度もないからだ。だから一刻も早く遊びたいキンタロウのためにモリゾウが取扱説明書を読んで理解しようとしているのだ。


「あぁ、最初に開封したかったのに……取説も俺が読みたかったのに……」


 落ち込み、その場に体育座りするキンタロウ。そのキンタロウをイチゴが小さな手で頭を撫でる。


「よしよしぃ」


「イ、イチゴ……お前だけは俺の気持ちをわかってくれる……」


「よしよしぃ」


 いつものようにキンタロウの頭を優しく撫でるイチゴ。そんなイチゴの優しさに涙を流すキンタロウ。

 そんな2人を無視して黙々と取扱説明書を読んでいるモリゾウ。その後ろでダンベルを上げながら筋トレを始めるノリ。


 この個性溢れる4人が兎島高等学校ボドゲ部の部員だ。

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