032:モグラ人間

 場面は変わりモリゾウとイチゴの前にモグラが現れたところに戻る。


「危ないですっ!」

 イチゴを守ろうと飛び込んだモリゾウ。モリゾウが飛び込んだおかげでモグラとの衝突を免れた。しかし飛び込んだ反動で2人は転がった。

 そしてすぐさま立ち上がりモグラに警戒を強める。モグラはただのモグラではない。服を着ているのだ。Tシャツは土で汚れていてぐちゃぐちゃに伸びている。おそらく柄物のTシャツだっただろう。もう何の柄のシャツなのか判別ができないほど汚れているのだ。

その姿からと言ってもおかしくはないだろう。


「悪い悪い驚かしちまったな。この姿にまだ慣れてないもんでな」

 服を着ているモグラは話すこともできるようだ。両手を上げ敵意のない話し方をしているモグラ人間にモリゾウとイチゴの警戒は薄れる。


「モ、モグラが喋ったぁ」

 喋るモグラに驚くイチゴ。喋るウサギで慣れているはずだが新鮮な驚きだ。


「女性の足音がしたんで妹たちが入っちまったんだと思って来たってわけよ。妹じゃなくてよかったわ。それじゃ待たなっ!」

「ちょ、ちょっと待ってください!」

 モグラ人間は飛び出してきた穴に戻ろうとしたがモリゾウの声がそれを止めた。


「妹たちってまさかダイチさんですか? ウミちゃんとソラさんのお兄さんの!

「ああ、そうだ。ということはスタート地点で妹たちに会ったんだな? ちゃんと待っててくれてるんだな?」

 このモグラだと思われた男性はウミとソラが探している兄だった。

 モグラ人間の姿だが全身の毛皮の色はウミの髪色と同じ栗色をしている。身長はキンタロウよりも少し低いくらいだろうか。モグラ人間の姿をしているのでハッキリとした身長や年齢などはわからない。


「ちょうど良かったです。ダイチさんを探していたんですよ」

「お、俺を? 俺は宝箱じゃねえぞ? そっちのミッションは俺を探すことなのか?」

「いいえ。宝探しは同じなんですがウミちゃんたちにダイチさんを無事に連れてくると約束したんです。もちろんミッションをクリアしてからですけど」


 そのままモリゾウはモグラ人間のダイチに向かって右手を差し出す。

 その時の表情はあまりにも希望に満ちた表情だった。その表情をみたダイチは次になにを言われるのかをモリゾウの言葉が出る前に頭の中で理解した。


「僕たちと協力して一緒にクリアしませんか?」


 やっぱりな、とダイチは想像していた言葉が飛んできて思わずニヤけてしまった。


「ふっ。協力か……」

「だ、ダメですか?」

「いいや。願ったり叶ったりだ。協力者が現れるとは思ってなかったんでな」


 ダイチはモリゾウが差し出している右手をモグラになった大きな手で触った。握手できるような関節は持ち合わせていなかったのでこれがモグラ人間なりの握手ということだろう。

 そして手と手が触れて協力関係を結んだ瞬間にダイチがモリゾウとイチゴの顔をゆっくりと見てから口を開いた。


「協力関係を結んだ後で悪いんだが、実は俺だけじゃクリアできない壁にブチ当たってたところだったんだ。んでどっちか2人、頭はいいか?」

「私たちの中だとモリゾウくんが一番頭良いよぉ」

「私・た・ち・ってことは他にも仲間がいるのか?」

 イチゴの言葉だけで他に仲間がいるということに気が付いたダイチ。ダイチも相当頭が切れるタイプらしい。


「鋭いですね。僕たちは4人で行動してます。僕はモリゾウです。こちらは……

「イチゴですぅ」

「それで他の2人は逸れてしまいました。騒がしい金髪頭のキンタロウと筋肉男のノリの4人で行動してます」

 自己紹介がまだだったことに気付きモリゾウは改めてボドゲ部のメンバーの自己紹介をした。

 自己紹介をすることによって逸れてしまった2人の手がかりを探ろうとしていたがダイチは「残念ながら見かけていない」と首を横に振った。


「ところでクリアできない壁とはなんなんですか?」

 キンタロウたちの行方について手がかりがないことを知ったモリゾウは話を戻した。


 先ほどのダイチの質問でイチゴが答えたように勉学においての成績は現状モリゾウが学年1位を独走中だ。ボドゲ部の中でも圧倒的にモリゾウの頭は良い。

 次に頭が良いのはイチゴだろう。かといって一般的な学力と言えるだろう。平均な学力と言えばわかりやすいかもしれない。

 そして筋肉男のノリ。スポーツ万能の筋肉バカで学力よりも筋肉だ。学力においてはイチゴよりも下と言えるだろう。

 最後にキンタロウ。学力だけにおいてはボドゲ部の中では最下位だろう。頭の悪そうな顔つきは見た目通りだ。ただボドゲや賭け事などにおいてはモリゾウ以上の実力を発揮する。

『神様が作った盤上遊戯ボードゲーム』の世界においてはモリゾウ以上に期待できるのはキンタロウかもしれない。


「見せた方が早い。とりあえずついてきてくれ。俺がブチ当たった壁まで案内する」

「どこに向かうんでしょうか?」

 当然の質問だ。見せた方が早いと言われても目的地や目的などを知っておいた方がモリゾウたちも気持ちの整理がしやすい。むしろ問題に直面しているのなら情報はいくらでも欲しいところだ。


「目的地は右耳だ!」

 モリゾウたちが向かう目的地は地図上で宝箱が置いてあるウサギの顔の地形の右耳だとダイチは言った。

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