009:案内人はウサギ
『第1層2マス』に到着したキンタロウ一行。
そこは先ほどと変わらない真っ白の床と真っ白のどこまでも続く天井。そして壁。
先ほどとの違いを提示するのならば一つだけある。
「第1層2マスにようこそ~。ここは
耳の垂れた小さな茶色いウサギが出迎えてきたのだ。品種はおそらくロップイヤーだろう。
なぜ、『おそらく』と前置きをしたのかと言うと、普通ウサギは喋らない。なのでロップイヤーなのかどうかも怪しい。
「ウサギが喋った!」と一同は目を丸くして驚いた。
そんな中イチゴは目をハートにさせ、よだれを垂らしながら喋るウサギに話しかけた
「ウサギさん可愛いすぎぃ! 触ってもいいですかぁ?」
「緊張感がない小娘だな。いいぞ。思う存分触るが良い」
喋るウサギに許可を得たイチゴは躊躇いなくもふる。もふりまくる。
首、お尻、耳、手足、ありとあらゆる体の一部をもふりまくった。
「うぉっ、そ、そこ、そこも良いぞ小娘」
もふられまくっているウサギは、かなり喜んでいる。口元を動かしたり、足をバタつかせたり反射的に動いている。
ウサギの習性だろうか止まる様子がない。そしてイチゴも止まる様子はない。
「ハァ……ハァ……ま、まんぞ……くぅ」
イチゴのもふもふタイムが終了した。息を荒くして満足している。そしてもふられまくったウサギも満足そうにしながら倒れている。もふられていないのに後ろ足はまだビクビクと動いていた。
幸せそうな表情のまま『第1層2マス』の説明を始めた。
「ぼ、僕は案内兎のボンだ。さ、先ほども言った通り……ここは
案内兎のボンが言うスキルとはこのボドゲ空間で使える特殊な能力の事だ。そして説明は続く。
「今からサイコロを振ってもらう。出た目のスキルを獲得する事ができるぞ~」と溶けるような声で説明を言い終えた。
案内兎のボンは本当に溶けてしまいそうなくらい地面に張り付いている。普通に可愛い。
「せ、説明はそれだけ? どんなスキルがあるんだ?」
キンタロウは地面に張り付いているボンをもふりながら疑問を口にする。
キンタロウももふりたくてうずうずしていたのだ。
「う、おっ、小僧もじょ、上手だな……そ、そこぉ……」
ボンは白い床を噛みながら気持ちよさそうにしている。
「教えないと、もふるのやめるぞ~。イチゴも手伝ってくれ!」
「りょ、了解ぃ!」
キンタロウとイチゴの2人でもふもふの拷問が始まった。
「もうダメぇ! 言おうとしたのに、先にこんなことされたら……順序がおかしいぃ!」
ボンの言う通りだ。説明を拒んだわけでもないのに先にもふもふの拷問が始まったのだから。
「た、確かにそうだ……。ただ」もふりたいって気持ちが先走っちった」
説明を聞くためにもふるのをやめたキンタロウとイチゴ。2人は手や服についたボンの毛を叩いて落としせながら説明を待った。
「ふ~。さて、説明するぞ……」
ボンは白い床にべったりとくっつきながら説明を始めた。気持ち良すぎて体が動けないらしい。
「1の目が出たら身体能力向上だ。腕力や足の速さや跳躍力など何か1つランダムで上がるスキルだよ~。2の目が出たら相手や仲間の位置がわかったりする探偵のスキルだよ~。3の目が出たら……あー、えーっと……忘れた!」
片目を閉じ舌を出してテヘペロと可愛らしい表情で誤魔化そうとするボン。案内人、否、案内兎としてあるまじき行為だ。しかしそんなボンの姿は憎めない。なぜなら可愛いからだ。
「ふ、ふざけるなよウサギめー! 可愛いからって容赦しないぞ!」
キンタロウは声を荒げた。そして白い床に倒れ込むボンに向かって飛んだ。
飛んだ先はボンの上だ。踏まないようにきれいに着地している。
「うひひひひ~」
何かを企んでいるような笑みを浮かべながらキンタロウは指を激しく動かした。
その激しく動かしている指を勢いよくボンの腰目掛けて動かした。先ほど以上のもふり。
「どうだ。キングオブモフリストの俺の本気のもふりはー!」
「ゆ、許して~、だ、ダメェ、か可愛いウサギちゃんを、そんなにもふらないでぇぇえ」
口では抵抗しているが体はもうキンタロウのもふりの餌食になっていた。すでに限界の案内兎のボン。そしてもふるのを楽しむ自称キングオブモフリストのキンタロウ。
そして呆れた様子でそれを見ていたモリゾウがため息を吐いた。
「そんなに悠長にしてる暇はありませんよ。とりあえずサイコロを振ってスキルを獲得してみましょう」
モリゾウの言葉に対してノリはマッチョポーズをとり同意見だというのをアピールしている。
イチゴはキンタロウを羨ましそうに見ていた。ただもふもふしたい。それだけだ。
「ではでは、皆さん『ウサギ
サイコロのダイスと大好きをかけたダジャレだった。上手いと言えば上手いダジャレだが全く面白くない。
そんなダジャレを言ったボンを白い目で見つめる4人だったが、言われた通りに唱えた。
「「「ウサギダイスき!!!」」」
打ち合わせしたかのように全員が同時に唱えた。するとウサギの可愛らしい写真がプリントされたサイコロが4人の目の前に出現した。
このもサッカーボールくらいの大きさだ。そして顔の前で上下に動きながら浮いている。
「これこれ見てくだい~!」
今まで白い床で寝ていたボンがテンションを上げながら突然飛び跳ねて起きた。飛び跳ねた先は一番近いキンタロウの真横だ。
「これが僕の妹が5歳の時の写真です~。5歳なのでこれが5の目です~。それでこれが1歳の時の! 可愛いでしょ~。1歳なのでこれが1の目ですよ~」
案内兎のボンと同じく茶色いロップイヤーらしきウサギの写真がプリントされている。どうやらプリントされている写真に映っているウサギはボンの妹らしい。
そしてこのサイコロの目は妹ウサギの年齢で表される。1歳の頃の写真はとても小さく1歳だとわかるが4歳5歳6歳は見た目の大きさがどれも同じで区別がつかない。
おそらく一番ブクブクに丸くなっているのが6歳で6の目だろう。何とも分かり辛いサイコロだ。
「って! どれがどれだかわかんねーよ!」
「だからこれが1歳でこれが3歳! そしてこれが5歳!」
くるくるとキンタロウのサイコロを回して説明するボン。説明を受けてもわからないキンタロウは、覚えるのを諦めた。サイコロを振って出た目だけ知れればそれでいいからだ。
「わぁあああぁ……じゅるり……」
可愛い妹ウサギのサイコロに見惚れて目がハートになっているイチゴ。垂れそうなヨダレを乱暴に拭いた。
そんな時、モリゾウのパチンっと手を叩く音が『第1層2マス』に響いた。
「皆さんの言いたいことは分かります。ですが写真のことは一旦置いときましょう」
モリゾウは目の前のサイコロを両手で掴んだ。モリゾウがサイコロを掴んだのを見てキンタロウ、イチゴ、ノリの順番でサイコロを掴んだ。
これで全員がサイコロを持ったことになる。あとはこのサイコロを振るだけだ。
「じゃあいくぜ! みんな準備はいいか?」
3人の視線がキンタロウに向き頷いた。準備万端の合図だ。
「せーのっと!」
そんなキンタロウの掛け声とともにサイコロは同時に振られた。
転がるサイコロは重力に逆らえずに止まる。そしてそれぞれがスキルを獲得する。
スキル獲得の瞬間は体に変化はない。むしろ何も感じない。本当にスキルを獲得したのかすら疑ってしまうほどにだ。
そして妹ウサギの写真のせいで出た目が何なのかハッキリとわからない状態のキンタロウたちだった。
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