096:ゴールへ向かう覚悟
深い深い暗闇の中、1つの淡い光が突然現れる。闇の中に現れた光は瞬時に中心となる。そしてk裏闇の中にいる少年を呼んでいるかのようにぷかぷかと上下に動き続ける。
少年はその光を求めて手を伸ばす。伸ばした手は光に近付く気配は無い。しかし光はどんどん大きくなっていく。
いつの間にか闇よりも光の方が大きくなていった。そしてその光は少年を包み込んだ。
その瞬間、キンタロウの意識は覚醒する。
「ぅ……」
「キンタロウ。起きたのじゃな」
「イ、イリス……」
キンタロウの目覚めに真っ先にイリスが気が付いた。キンタロウの妖精として気を失っているキンタロウのそばにずっといたから真っ先に気が付いたのだろう。
「おれ、は……今は、どのくらい……お、おれは……」
「3時間くらいじゃろう」
意識が覚醒したばかりのキンタロウは頭が回らず寝ぼけたかのように言葉がバラバラだった。けれどイリスはキンタロウが聞きたいことを察し答えたのだ。
キンタロウがどのくらい意識を失っていたのかを。
「そうか……」
キンタロウは自分が長時間意識を失っていたことを知り肩を落とす。そしてまだ聞きたい事は山ほどあった。
「死のゲームは……」
キンタロウはクローバーとの1対1の戦いになったところまでしか記憶がない。怒りに支配され我を忘れていたキンタロウは記憶が曖昧になっていたのだ。死のゲームの結果がどうなったのかわからなず焦っていた。
辺りを見渡すと死のカードゲームを行なっていたテーブルが無くなっている。そしてその奥にはピエロが座っているはずのトランプ模様が入った椅子が寂しそうに置かれている。
「ピエロがいない……どうなったんだ」
「キンタロウ。お主は死のカードゲームに勝利したのじゃよ」
「お、俺が勝った……。お、俺が……」
「そうじゃ」
キンタロウはクローバーとの1体1の戦いになった獲得フェイズで攻撃カードを引き当てた。そして選択フェイズで4分の1の確率でクローバーを当てる。さらに攻撃フェイズで最大火力の4を出しクローバーのHPを0にさせたのだ。
まさに奇跡の1ターン。
「運よくすぐにクローバーを倒しおったよ。じゃが、クローバーは消えただけで死んではおらん」
「そうだよな……そういや、そんなこと言ってたな……並列意思だったっけか?」
クローバーはハートのピエロから出現した並列意思だ。並列意思は分身のような存在で死のゲームに参加し負けたとしても死ぬことはない。
本体のハートのピエロが死なない限り並列意思のクローバーは再び現れることができるのだ。
「敗北したピエロは嬉しそうにくるくると回りながら煙に包まれて消えていったぞ。不気味じゃったわ」
ピエロは敗北したのにも関わらずご機嫌に体を回転させながらピンク色の煙に包まれこの場から消えたのだった。
ピエロは消え際、意味深に微笑んでいたのをイリスは気になったが皆まで言わなかった。
「本当にふざけた野郎だな。あのピエロ」
イリスと話しながら立ち上がるキンタロウ。怒りと悲しみに支配された心の中の闇は完全には消えていなかったが外傷や疲労感は無くなっていた。
キンタロウが気を失っている間にイリスが治癒魔法で治したのだ。
「……ぁ」
立ち上がったキンタロウは辺りをもう一度ゆっくりと見渡した。いくら見渡してもそこには、いるはずの仲間がいない。
現実を噛みしめたキンタロウは悲しみに打ち拉がれ体が熱くなる。止まっていたはずの心の闇の浸食が再び動き出しそうになったが深呼吸をして平常心を保つ。
「……今は95マスだよな」
「そうじゃ」
「5以上が出なきゃゴールできねぇのか……」
キンタロウは拳を握りながら静かに呟いた。
キンタロウとイリスがいるのは第6層95マスだ。100マスのゴールにたどり着くためには6面ダイスで5以上の目を出すしかない。
6面ダイスで5以上の目が出る確率は3分の1だ。
もしも4以下の数字が出た場合は強制的に死のゲームが待ち受ける。最悪の場合ルールなしの怪物たちとの殺し合いが始まる可能性もある。マスの数が大きければ大きいほどその可能性が上がる気がしてキンタロウはなかなかダイスを唱えらずにいた。
「大丈夫じゃよキンタロウ。何があってもワシが守る。ドラゴンでもケルベロスでも襲ってきても大丈夫じゃよ」
イリスはキンタロウの檸檬色の髪の上に止まった。そして檸檬色の髪をかき分け自分の座るところを整えそのまま腰掛けた。
「心強いな……。そうだよな、落ち込んでるのがバカバカしくなってきたわ。絶対にゴールしてみんなを救わねーと。じゃなきゃ前回の周回の覚悟が嘘だったってことになるからな。たとえゴールのマスに止まらなくて死のゲームを受けることになってもぜってーゴールしてやる」
キンタロウは空になったトランプの模様が入った椅子を見ながら改めて覚悟を決め直す。
そして次のマスに進むためのサイコロを出すために『ダイス』を唱えた。
「ダイス!」
キンタロウの目の前にはサッカーボールほどの大きさの赤いサイコロと青いサイコロが出現した。
心の準備はまだ不十分なキンタロウだが覚悟は決まっている。その覚悟はドラゴンに殺されかけまぜかゴールしそのまま今回の周回へタイムスリップしたときから決めていたものだ。だからキンタロウは立ち止まれない。前に進むしかないのだ。
「でも、できればこれでゴールしたい!」
キンタロウは先に層を決める赤いサイコロを両手で取った。そのまま広い床の方へと転がした。
転がり続ける赤いサイコロは転がる摩擦によって勢いを失っていき静止する。
「どうせ95マス以上は全部第6層になるんだからなに出てもいいんだよ!」
赤いサイコロを何の期待もなく確認するキンタロウ。
キンタロウが転がした赤いサイコロは2の目を出している。2の目は第2層を表す。第2層はディオスダードのような召喚兎が貰える層だ。
しかし95マス以上は全て第6層になってしまう。第6層は死のゲームが待ち受ける。なので95マス以上では赤いサイコロを転がす意味がないのだ。だからこそキンタロウは何の期待もせずに赤いサイコロを見たのだ。
続いてキンタロウの目の前に浮き続ける青いサイコロを両手で掴む。
「ノリがいたらゴールだったな……」と、キンタロウは小さく悲しげな声でボヤいた。
ノリの最大値スキルがあれば確定で6の目が出る。95マス以上で赤いサイコロを見なくてもいいように青いサイコロも見ずに出る目がわかるのだ。
そして確実にゴールすることができていた。
「悔やんでも仕方ない。俺は前に進んでみんなを助けるんだよー!」
キンタロウは青いサイコロに気持ちを込めて思いっきり投げ飛ばした。投げ飛ばした先にはピエロが座っていたトランプ模様の椅子がある。
そいの椅子に青いサイコロが直撃したが椅子は倒れることなく青いサイコロは弾かれ床に落ち転がった。
青いサイコロは転がる摩擦によって勢いが失っていき静止した。
ワープが始まるまでの数秒で青いサイコロが出した目をキンタロウは確認するために1歩前に歩き出す。その後すぐに歩き出したばかりの足を止めた。
「ノリ……」
足を止めたキンタロウは死んだ仲間の名前を呼んだ。
名前を呼んだ理由は青いサイコロにある。青いサイコロの出た目は6だ。まるで死んだノリが背中を押してくれているかのように6が出たのだ。
現在95マス。6マス進み100マスを超えたのでゴールになる。キンタロウにとっては3度目のゴールだ。
するとキンタロウとイリスは赤と青の光に包まれた。刹那の瞬間、ワープが始まりキンタロウたちは100マスのゴールに到着した。
神様が作った盤上遊戯(ボードゲーム) 〜クリア率0%のデスゲームだろうが俺は何度でも挑戦する〜 アイリスラーメン @irisramen
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。神様が作った盤上遊戯(ボードゲーム) 〜クリア率0%のデスゲームだろうが俺は何度でも挑戦する〜の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます