086:スキルについて

「スキルですか?」

「そうスキル。第1層で手に入れたスキルなんだけど、そこにいた案内兎が忘れん坊だったから俺のスキルがなんなのかわからなかったんだよ。そんで今の今まで分からねーまま。スキルを確認できたりできないか?」

 未だに己のスキルを知らないキンタロウ。今後のゲーム攻略の勝率を上げるためにも己のスキルを知っておくべきだろう。物知りなメイドウサギのタルトなら知っている可能性があると思いキンタロウは質問したのだ。

 しかしながらタルトは首を横に振ってから質問に答えた。


「残念ながら私の担当は第3層ですので他の層のことは詳しくありません。申し訳ありません」

 タルトはペコペコと頭を下げ謝った。


「そ、そうだよなぁ……ありがとうメイドウサちゃん」

 キンタロウはタルトの耳と耳の間にできたもふもふが集まった頭を見ながら感謝の気持ちを告げた。

 あっという間にキンタロウのスキルの件についての話は終わった。結果は何も変わらず謎のままだ。そんな中イチゴは何かを発言したい様子で小さな手をピーンと挙げている。ピンク色のウッドチェアに座っているが飛び跳ねそうな勢いだ。


「あの、あのっ、私もスキルについて話そうと思ってたの!」

 イチゴも自分のスキルについて気になっていたことがあるらしい。イチゴもキンタロウと同じく己のスキルがなんなのかまだわかっていない状態なのだ。

 しかしキンタロウとは違いイチゴのスキルは身体能力向上系のスキルだということのみ判明している。イチゴの様子からしてその身体能力向上スキルの何かがわかったのだろう。


「私のスキルって身体能力向上スキルって言ってたでしょ? 何が向上してるかわかった気がするの!」

 イチゴは挙げていた腕を折り曲げノリのようにマッチョポーズをとった。力こぶが全然ない細い腕だ。


「まさか、筋肉が増える!?」

 イチゴの言葉に真っ先に反応したのは筋肉男のノリだ。ノリが本来望んでいたスキルは身体能力向上スキルで筋肉の増加だ。イチゴのマッチョポーズから筋肉増加系なのではないかと直感したのだろう。否、筋肉が感じ取ったのだ。


「ううん。違うの。筋肉は変わらないの」

「そ、そうか」

 イチゴは首を横に振った。どうやら筋肉増加系のスキルではないらしい。その言葉にノリは落ち込んだ様子でマッチョポーズをとった。自分が欲していたスキルだ。ノリ自身が手に入れることができなかったのならせめて仲間の誰かが手に入れて欲しいと願っていた。


「それじゃあどんな能力だと気が付いたんですか?」と、モリゾウが話を続けた。

「うん。私たちずっとジャングルを走ってたでしょ? その時に気が付いたんだけど、私どんなに走っても疲れなかったの」


 イチゴが自分のスキルを気が付いたのは第5層17マスのジャングルで火ノ神から逃げている時のことだ。炎のジャングルを走って逃げ回っているときに体力が無いイチゴは疲れることがなく走ることができたのだった。

 運動神経が悪いイチゴは体育の授業などで直ぐにバテてしまう。なのに走り回ってもバテなかったのは身体能力向上スキルが原因だと考えたのだ。


「そういえばイチゴが疲れてるところ見てない気がするな。俺たち全員呼吸荒くしてたよな」

 キンタロウもイチゴがバテていなかったことに違和感を感じていたらしい。モリゾウもノリも同じだ。イチゴがバテなかったことに対して違和感を感じたが緊迫した状況で必死になっているだけなのだろうと無意識に思い込んでいたのだろう。

 そしてイチゴのスキルについて考えていたモリゾウが手に乗せていた顎を離し口を開く。


「イチゴちゃんの身体能力向上スキルは持久力スキルなのではないでしょうか?」

「持久力スキル?」

「はい。持久力、つまりスタミナが向上し疲れない体になった。もしくは疲れ辛い体になったのだと思いますよ」


 モリゾウの考えは正しい。イチゴの身体能力向上スキルで得た能力は『持久力スキル』だ。イチゴは持久力、つまりスタミナが向上し疲れ辛い体になったのだ。なのでジャングルで火ノ神から逃げ回った時に全く疲れなかったのだ。

 ただスタミナ以外の身体能力は一切向上していない。腕力も跳躍力も瞬発力もそのままのようだ。


「多分そう。私のスキルは持久力スキルなんだと思う。モヤモヤが晴れてスッキリしたぁ」

「ちょいちょい、俺だけがスキル判明してないじゃん。俺のモヤモヤは倍増したんだが。モヤモヤ増加スキルかもしれねー」

 スッキリと晴れ渡った笑顔になったイチゴに対して曇り顔のキンタロウ。心の中にできたモヤモヤが増加してしまう。


「俺も親父みたいに雷とか出せるかな? 電撃波ビリビリ、電磁砲バチバチ! ダメだ。出そうにも無い……」

 キンタロウは父親のユウジが使っていた雷の魔法を試した。もちろん雷の魔法は出るはずがない。ここで出されてもパニックになり困るだけだ。

 雷の魔法が出なかったことによりキンタロウはウッドチェアに座りながら体育座りをして落ち込んでしまった。その小さく丸まったキンタロウの背中をイチゴは小さな手で優しく摩った。いつもなら頭を「よしよし」と撫でるのだがキンタロウの頭の上にはイリスが独占している。なので頭を撫でることができなかったのだ。


「ドラゴンの件もスキルの件も何となく解決しましたね。他に何かありますか?」と、落ち込むキンタロウの代わりにモリゾウが仕切る。


「俺のスキルをもう少し考えようよー。みんなだけスキル使えてズルいって! 俺もスキル使いたい使いたい」

 キンタロウは子供のように駄々をこねて騒いでいる。頭の上に乗っているイリスは檸檬色の髪をしっかりと掴み振り落とされないように耐えている。イリスにとってはジェットコースターのようなものに乗っている感じでいい迷惑だ。


「キンちゃんのスキルが判明している方が勝率が上がりますが、ここまで考えてもスキルの見当がつきません。なのでキンちゃんのスキルのことは残念ながら考えてる余裕がないですね」

「うぅ……鬼、鬼畜……ぅぅ」

 再び落ち込むキンタロウ。イチゴが背中を撫でて慰める。イリスは振り落とされることがなくなりホッと一息ついた。

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