085:ドラゴンについて

 ピンク色で溢れるカフェ。メイドのウサギが紅茶を運んでいる。ボドゲ部はウッドチェアに腰掛けて優雅に紅茶を飲んでいた。


「それじゃ作戦会議中始めようか! 何か気になることとか質問はあるか?」

 キンタロウは過酷であろう今後のマスに備えるため作戦会議を始めようと声をかけた。声をかけたタイミングはメイドウサギのタルトの可愛さで気絶してしまったキンタロウが目を覚めた紅茶が出された時だった。

 ちなみに最後に目を覚ましたのはキンタロウだ。何事もなかったかのように紅茶を飲み始めている。


「よく目覚めて直ぐにそんな言葉が出てきますね」

「そ、そりゃ一応ボドゲ部の部長なわけだし、こういう時まとめるのは俺の役目かなと」

「まあそうですけどね……」

 呆れた様子でモリゾウがキンタロウに向かって声をかけた。当然だろう。キンタロウが目覚めたのは気を失ってから3時間後だ。程良い仮眠。否、睡眠でキンタロウは元気になった。

 キンタロウが3時間も眠っていたおかげでボドゲ部たちが受けていた傷はイリスの治癒魔法の効果でほぼ完治していた。全員が火ノ神との死闘で受けていた火傷も。緑ヘビとの戦闘でできたノリの背中の内出血や胸にできた打撲傷も。完治するまで治癒魔法で癒すことができたのだ。

 それでもイリスが癒せるのは傷のみ。背中部分が大きく開いたキンタロウのパーカーやシャツ、ジャングルで走り回った時に服にできた擦り傷などは直せない。


「それにしてもイリスの治癒魔法はすげーな。背中の痛みとか体にできたかすり傷とか全部治ってるわ」

「そうじゃろ。傷ならなんでも治せるのじゃよ」

 キンタロウに褒められたイリスは腰に手を当てて自信満々に鼻を鳴らした。その後、キンタロウは何かを思い出したかのように言葉が飛び出した。


「あっ、そうだ。イリスに聞こうと思ったことがあったんだ!」

「なんじゃ? ユウジとアヤカのことか? 残念ながらワシが知っていることは全て話した」

 キンタロウが聞きたいことといえば赤子の頃に死別してしまった両親のことだろうとイリスは推測したがそれは違かった。


「いや、親父たちのことで聞きたいこともあったけど今聞きたいことは違う」

「それじゃなんじゃ? ワシに聞きたいこととは?」

「なぁイリス。俺をドラゴンから助けてゴールまで連れてってくれたのはお前だよな?」

 キンタロウは疑問を口にした。

 黒田とのロシアンルーレットで銃弾を引き当ててしまい一度死んでしまったキンタロウ。死んでしまったキンタロウが生き返ったのはイリスの一度限りの蘇生スキルによるものだった。それならばドラゴンに殺されたであろう前回の周回でキンタロウを生き返らせドラゴンを倒したのはイリス以外に考えられないのだ。


「そういえばドラゴンがどうとか言っていたのぉ。残念ながらワシはドラゴンのことは知らん。なのでキンタロウの疑問を解消することはできんのぉ」

「まあそうだよな。前回のゴールした周回で俺はドラゴンと遭遇する前の過去に戻ったんだもんな。でもドラゴンに俺が殺された時でもイリスは助けてくれたよな?」

「そりゃもちろんじゃ。ドラゴンだろうが神だろうがキンタロウが殺された場合、自動的にワシの蘇生スキルが発動しワシも眠りから覚める。ただ、ワシはこの世界のドラゴンに勝てるほど強くはないのじゃがな」


 腕を組みながらイリスは答えた。その後イリスは治癒魔法を使ったことによって削られた体力を休めるためにキンタロウの檸檬色の髪の上に乗り座った。

 疑問が解消されなかったキンタロウは「う~ん」と小首を傾げスッキリしない様子でいる。


 キンタロウは前回の周回でドラゴンに仲間を殺された。もちろんキンタロウも体を噛みちぎられ殺された。しかしキンタロウはなぜかゴール地点にいたのだ。

 今回の周回でイリスが現れたことによってキンタロウが生き返ったことについての疑問が一つ解消された。しかしイリスにはドラゴンを倒せるほどの実力はない。キンタロウが生き返ったからといってドラゴンを倒さない限り再び死ぬのは間違いないだろう。


 キンタロウにとっては1回限りの蘇生スキルが2度発動している。それはキンタロウが過去に戻り蘇生スキルを使ったことが無かったことになったからだ。過去に戻り死んだ仲間が復活したようにイリスの能力も同じように復活したのだ。同様に倒したか可能性があるドラゴンも復活しているのだ。


「過去に戻ってしまっているのならワシも流石にその記憶はない。それにキンタロウの記憶を探ってもドラゴンに殺されてからゴールするまでの記憶がプツリと消えておる。まるで何者かに記憶を消されたようにのぉ」

「俺の記憶を消すってなんのためにだ?」

「わからん。ただのワシの深読みじゃよ。忘れておくれ」

「気になって仕方ないんだが……」


 過ぎてしまった過去。確認する方法がない過去だ。これ以上考えても答えにはたどり着かないだろう。そう考えたイリスは話を終わらせようとした。キンタロウは心の中にモヤモヤを残しながら項垂れている。

 その後、終始話を聞いていたメイドウサギのタルトが耳をピーンと立たせながら小さくもふもふな手を挙げた。


「ドラゴンはこの世界で一番強い生物です。ドラゴンを倒すと無条件で100マスに進むことができますよ。その場合ワープして直接100マスのゴールに行くはずです。どうやってドラゴンを倒したかまでは私もわかりませんが、ドラゴンを倒した後のゴールについては話の辻褄が合うと思います」

 メイドウサギのタルトが腕を組みながら推理した。その考えながら推理する姿はどんな名探偵よりももふもふで可愛い。


「なるほど。ゴールについてはスッキリした。あとはどうやってドラゴンを倒したかだよな。う~ん。イリスじゃ無理ってなるとこればかりは考えてもわかんねーや。でも前回の周回でも俺を助けてくれたってのはわかったよ。ありがとうなイリス」

「当然じゃ」

 キンタロウは頭の上で休んでいるイリスの頭を指で撫で回した。そしてドラゴンを倒したら無条件でゴールまでワープできることを教えてくれたメイドウサギのタルトにキンタロウは質問を始める。


「そんでついでに物知りでもふもふで可愛いメイドウサちゃんに質問!」

「はい。なんでしょうか? なんでも仰ってくださいませ」

「それじゃ遠慮なく。俺のスキルわかる?」


 キンタロウは未だ謎の己のスキルを聞いた。これもまたドラゴンの次にキンタロウが気になっていたことだ。

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