029:緑色の大蛇

 場面は変わりキンタロウとノリがまだ列にいた頃に戻る。

 

 キンタロウとノリが列から逸れてしまったのは一瞬のことだった。警戒は怠っていない。だがそれは起きてしまったのだ。

 キンタロウとノリの2人は全身を縄のようなものに巻きつかれ一瞬のうちに何かに連れていかれたのだ。

 声を出す間も無く一瞬だ。物音ひとつもなかったのでモリゾウとイチゴは2人が連れて行かれたことに気が付かなかったのだ。


「うぉおい、ジェットコースターかよぉお。キ、キモチワル、やばっ……ヴォェ……」

 縄に縛られ振り回されているキンタロウが騒いでいる。しかしすでにモリゾウとイチゴには聞こえないほど遠くにまで連れて行かれていたのでキンタロウの声は2人には届かなかった。


 ノリは自慢の筋肉を使い縄を解こうとしているが全く解ける様子がない。

 そのままキンタロウとノリはジャングルの固い地面に向かって勢いよく投げ飛ばされてしまった。このままでは頭から地面にぶつかり潰れてしまう。


「おい、やば、ぞぉお、うぅぇえ!?」

 キンタロウは地面にぶつかる寸前に空中で急停止した。運よくキンタロウの足に木のツルが巻きついて地面に叩き潰されることを回避したのだった。

 筋肉男のノリも同じく木のツルに絡まって地面に叩き潰されるのを免れた。


「ふんぬっ!」

 ノリは自慢の腕力で体に絡まっている木のツルをちぎった。そして地面に着地。


「いててて……。クソ。なんだよ、いきなりよ……」

 キンタロウは足に巻きついているツルがなかなか解けなくて文句を飛ばしている。


「しかも最悪だぞ。モリゾウたちと逸れちまった……。って、え!?」

 キンタロウはツルを解きながら連れてこられた場所を確認するくるくると回転し辺りを見渡した。そして逆さまになりながらも、見てはいけないものを見てしまい衝撃を受けている。


「へ、ヘビ……だよな」

 キンタロウとノリの目の前には緑色の蛇がいる。

 ヘビの頭の大きさは人間の頭と同じくらいの大きさだ。そしてヘビの体は異常に長い。長すぎる。10 メートル、15メートル、いや25メートルほどあるかもしれない。体はとぐろを巻き蛇行しているのではっきりとした長さはわからない。けれど25メートルほどあるのではないかと思うくらい長いのだ。


「もしかしてなんだけど俺たちって」

「あぁ」

「このヘビに捕まったのか!」

 先ほどの縄の正体はヘビの体だったのだ。


「しかもさ……ここ、このヘビの巣っぽくないか!? なんか骨みたいなのとか落ちてるし。俺たちエサとして連れてこられたんじゃないよな……」

 青ざめるキンタロウとヘビを警戒するノリ。2人は目の前の状況を理解した。自分たちがエサとして連れてこられたのだと。


「に、逃げるぞ、って絡まって動けねえよ。おい! 蜘蛛の巣かよ。どうやったらこんなに絡まんだよ!」ツルに絡まって動けないキンタロウは騒ぎながら暴れている。


 そんな騒がしいキンタロウに狙いを定めた緑色のヘビが口を大きく開けながら動き出した。


「やばいって! やばいって! やばいってよー!」

 死が香りが近付きキンタロウはさらに暴れ出した。そしてキンタロウの胴体に牙を向けた。

 ノリはツルに絡まっているキンタロウの腕を引っ張り、襲いかかってくる蛇から緊急回避した。九死に一生とはこのことだ。


 ノリはキンタロウを引きずりながら全速力で緑ヘビから逃げる。キンタロウに立ち上がる時間などないのだ。なぜなら緑ヘビがすぐそこまで迫って来ている。


「ノリィイ、ありがとうぅ、ウゴベッ、助かった、ゴベッ、い、命の恩人だ、ヴォエッ、か、感謝永遠にィイ、ガハッ」

 キンタロウは固い地面に背中を引きずられ頭やをぶつけながらもノリに感謝を告げた。


「舌噛むぞ」

 ノリはキンタロウに一言だけ忠告し、緑ヘビから逃げることに集中した。


 さすが筋肉男のノリだ。キンタロウを片手で引っ張りながら緑ヘビよりも速いスピードで走っている。そしてキンタロウもキンタロウだ。素直に引きずられている。


「どうするキンタロウ?」

「う~ん」

 走ることで精一杯のノリが緑ヘビの打開策をキンタロウに委ねる。キンタロウは引きづられながら目を閉じ考え始めた。この状況でよく冷静に目を閉じられたものだ。


「鑑定スキル発動!」

 目を開けたキンタロウが突然叫び出した。キンタロウはノリに掴まれていない方の左手を緑ヘビに向けている。


「キンタロウ、お前のスキルって鑑定なのか」

「いや、やってみただけだ、何も鑑定できてねぇ、普通初期スキル的なので所持しててもおかしくな、グヴァハ! し、舌噛んバァ」

 なぜかキンタロウは鑑定スキルが使えると思っていた。そして使えないことに文句を言っていたら舌を軽く噛んでしまったのだ。

 緑蛇から必死に逃げるノリは舌を噛んだキンタロウにかまっていられない。


 そんな中キンタロウは口の中に広がる血の味を感じながら打開策を真剣に考え始めた。


(ここで逃げてもまた襲ってくるに違いない。それか俺たちを諦めて標的をイチゴたちに変更する可能性もある。そもそもイチゴたちも別のヘビに襲われていないか心配だ。そればかりは襲われていないことを願うしかないけど……。今、俺たちが使える切り札と言ったら召喚兎のディオスダードだけだが、ディオスダードはイチゴたちがピンチの時に使ってほしい。俺たちが今ここで使って、イチゴたちが使えなかったら最悪の展開だ。ディオスダードの使いタイミングは本気でやばい時に限る。いや、待てよ。今がその時なんじゃ……。いや、ダメだろ。まだだ。ディオスダードは最終手段、切り札として使う。となると、残されている手は俺たちのスキルだが、俺のスキルはまだわからない状態だし、ノリのスキルはデカイ数字を引き当てるやつだからな、この状況では使いもんにならないな。う~ん。打開策見つからねぇ。詰んだかこれは)


 舌を噛んだおかげで冷静になったのかもしれない。でも冷静になりすぎて切り札のディオスダード以外の打開策は全く見つからない。

 そもそもキンタロウは考えて行動するタイプの人間ではない。筋肉男のノリも同じだ。

 2人はその時の状況に応じて行動するタイプだ。ボドゲでも日常生活でも。

 しかし大蛇に襲われるということは想定できても対処することは不可能だ。大蛇と同等もしくはそれ以上の力がなければこの場は乗り切れないだろう。


「何か思いついたか?」

「い~や、何にも。この状況、ディオスダードを出さないと詰んでるなって考えに行き着いたところ」

 キンタロウは再び舌を噛まないように口を小さく開けながら話す。


「ただ、おとり作戦ってのを今思いついたんだがやってみるか?」

「おとり作戦?」

「ああ、おとり作戦だ」


 キンタロウが突然思いついたのは『おとり作戦』だ。

 キンタロウとノリのどちらかが緑ヘビのおとりになり、おとりにならなかった方が緑ヘビの背後から攻撃を仕掛けるというなんともシンプルな作戦。


「成功する確率を上げたい。おとり側と攻撃側の適任は誰がふさわしい」

 キンタロウの問いにノリは考え始めた。もちろん走ることには集中している。そしてキンタロウも引きずられっぱなしだ。一刻も早く状況を変えなければ、いずれ緑ヘビに食べられてしまう。


「キンタロウはおとり側が適任だな」

「だ、だよな……」

 適材適所。攻撃側は筋肉男のノリが適任だろう。ひょろひょろのキンタロウでは攻撃が通じないかもしれない。そしておとりならキンタロウだ。体力的にノリの方が逃げ切れてなおかつ反撃もできる可能性があるがノリは2人もいない。なのでキンタロウがおとりになるしかないのだった。緑ヘビも弱っているキンタロウを狙いに行くはずだろう。


「わかってたけど、やるしかないよな。はぁ……ノリ、思いっきり俺を投げてくれー、ツルに絡まらないところで頼む……」

「了解」


 ノリは引きずっているキンタロウを片手で思いっきり前方に投げ飛ばした。キンタロウは草のクッションに背中から着地しすぐに立ち上がり走った。

 ノリはキンタロウを投げた方向とは別の方向に走って逃げる。


 二手に分かれたエサを見て緑ヘビの動きが止まった。しかしほんの一瞬だ。緑ヘビは瞬時に判断し標的を定めた。


「予想通りだぁあ! こっちに来いやクソヘビが!」


 緑ヘビは、肉付きがあり御馳走にもなり得るノリではなく、弱々しく確実に仕留められるキンタロウを標的に定めたのだった。キンタロウとノリの計画通りにことが進んだ。あとは、ノリが背後から攻撃し仕留めるだけだ。

 流石のノリも拳ひとつでは緑ヘビを倒すことはできないだろう。なので武器になるようなものを探さなければいけないのだ。その間、キンタロウは必死に逃げ続けなければならない。


「ギィヤァアァアア! 意外と速いのねェエエエ! イヤァアアアアアア! こ、怖いんですけどォオオ!」


 キンタロウとノリのおとり作戦が始まった。

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