043:火ノ神

 宝箱の中には1枚の茶色く色あせた四つ折りの紙が入っていた。その紙には『火ノ神カラ逃ゲヨ。森カラ白ク輝ク土地ヘ脱出セヨ』と書かれていた。

 この紙に書かれた謎こそが最終ミッションだ。


 そしてキンタロウたちの前には全身が赤い炎で燃えている鳥がキンタロウたちを見下しながら天を舞っている。

 全長およそ3メートルほどある大きな鳥だ。赤く燃えている炎は無造作に動き見たものを翻弄している。

 その『火ノ神』が見下す人間に向けて咆哮。翼を羽ばたかせ熱風で威嚇をする。


「火ノ神ってまさかこの鳥のことかよ……こいつから逃げるのが最終ミッションってことか……」

 キンタロウは目を見開いて驚いた表情で言った。

 驚いているのはキンタロウだけではない。その場にいる全員が驚き緊張している。


 ドラゴンという空想上の生物が存在することはキンタロウから聞かされている。そして命をも軽く奪っていく危険生物だということも。

 このジャングルには緑ヘビや青ワニといった危険生物はいるものの空想上の生物ではない。全身の色に違和感があるだけで現実世界に存在する生物だ。

 しかし目の前、否、真上で存在を主張している燃える鳥は現実ではあり得ない生き物だ。空想上の生物で例えるのならば『不死鳥』と言った方がしっくりくるだろう。


「み、皆さん! 全速力で逃げましょう!」

 モリゾウが声を上げた。その瞬間キンタロウたちは走り出した。どこへ逃げるかは決めていない。しかし全員が同じ方向に逃げた。

 なぜなら目の前の宝箱が置いてあった右耳の位置は行き止まりだからだ。なので行き止まりの反対方向に体が吸い込まれるように動くのは当然だろう。

 そして全員が動き出した3秒後に火ノ神も動き出した。



「ウミちゃんの兄ちゃんはスタート地点に行ってウミちゃんたちと合流してくれ! 最終ミッションをクリアしなくても2時間経過で次のマスに行けるらしい! その間は俺たちがこの焼き鳥を何とか食い止めっからー!」

 全速力で走るキンタロウが隣にいるダイチに妹たちがいるスタート地点へ戻るように指示した。


 ダイチたち兄妹チームの残り時間は15分だ。ダイチの妹たちがいるスタート地点に戻る頃には終了時間になっているだろう。そして案内兎のゴロウが言ったように報酬はもらうことはできないが先に進むことが可能になる。

 先に進むことによってこのジャングルから抜け出すことができ同時に火ノ神から逃れることもできる。


「君たちを見殺しにするような真似はできない!」とダイチがキンタロウの指示を否定する。


 キンタロウは眉間にシワを寄せて息を思いっきり吸い込んだ。


 そして叫んだ。


「モグラァア! 行けぇえ! 全力で行けぇえ!」

 肺が張り裂けそうになるくらい大声を出したのだ。その声にダイチは驚いた。


「こんな焼き鳥の足止めくらい俺たち4人ならなんとかなる! 俺は誰も死なすつもりはねぇんだよ! お前が死んだら俺とウミちゃんとの約束果たせねぇだろうが! だから先に行けぇええ!」


 叫ぶキンタロウは息を荒くしている。走りながら叫んだせいで肺がおかしくなってしまったのだ。

 そんな本気で叫ぶキンタロウに返す言葉が見つからなくなったダイチ。

 キンタロウの意見も十分に理解できる。ただここで火ノ神から逃げるということはキンタロウたちボドゲ部を見殺しにすることと変わらないのだ。

 ダイチ自身そんなことはしたくないと思っている。

 しかし悩むダイチの背中をモリゾウが優しく押した。


「だそうですよ。こっちは大丈夫です。なので行ってください!」

「何から何まですまない……絶対に死ぬなよ!」

 ダイチは覚悟を決め地面に潜った。そのまま全速力で妹たちがいるスタート地点へと向かって行った。

 その速さはレーシングカーよりも速い。そして地面は盛り上がるだけで土煙が出ない。地上を走るキンタロウたちへの配慮だろう。


「モグラくそ速ぇえーー!」

 ダイチの全速力を見て感動するキンタロウが言った。

 そんな騒がしいキンタロウに向かって火ノ神は熱風を喰らわす。


「うぉお危ねぇええ」

 キンタロウは熱風に紛れ込んだ炎をギリギリのところで回避。否、運良くあたらなかっただけだ。


「くそ熱いじゃねぇか、ざっけんな! 熱すぎなんだよ! どっか行けよ、焼き鳥ィイ!」

 怒りが込み上げるキンタロウは火ノ神に向かって文句を連発し挑発をする。

 その挑発を理解したかどうかは不明だが火ノ神はキンタロウに向かって咆哮した。


「クォオオオオオォォオォオー!!!」


 火ノ神が咆哮した瞬間、ノリはゴルフボールほどの大きさの石を火ノ神目掛けて全力投球した。

 ノリが全力投球した石は3発。その3発全て同時に投げ火ノ神に命中した。

 1つは右翼、もう1つは胸、最後の1つは腹あたりだ。


「キャォォオッッツ!!!」っと子猫のような可愛いらしい声を出す火ノ神。石を当てられただけでもダメージは通るようだ。


「ナイス! ノリ!」と歯を光らせながらサムズアップするキンタロウ。

 

 キンタロウの先ほどの火ノ神に対する挑発は自然と出たものではなかった。作戦だ。この作戦は『おとり作戦』もとい『挑発作戦』とでも言っておこう。

 キンタロウが騒ぎ立てることによって火ノ神気を引かせる。その間にノリが攻撃を仕掛けるというものだ。

 キンタロウとノリは事前に『挑発作戦』について打ち合わせ済みだ。なので火ノ神に石を当てることができたのだ。

 ちなみにこの石は青ワニと戦った川で拾ったものだ。ノリのズボンのポケットに入れてあった。


 しかしキンタロウの『挑発作戦』が成功したものの結果的に火ノ鳥に怒らせてしまった。


「ははッ! 怒れ怒れ怒れ、そして自滅しやがれー!」

 キンタロウは鼻で笑いながら走り続けた。火ノ神はキンタロウに踊らされてむやみやたらに熱風攻撃をするが全く当たらない。


「モリゾウッ! なんか閃いたかー?」

 キンタロウは、何かを考えている様子で走っているモリゾウに声をかける。キンタロウとモリゾウの距離は遠い。なのでキンタロウは叫ぶように声をかけたのだった。


「白く輝くところってのがゴール地点だと思うんですが全くわかりません」

 モリゾウもキンタロウに聞こえるくらいの声で叫ぶ。


 モリゾウが言った『白く輝くところ』とは、最終ミッションの紙に書いてあった『白ク輝ク土地』を指す。紙はすでに燃えてしまっているのでモリゾウの記憶を頼りに言葉を解読するしかないのだ。


 宝箱の中にあった紙には『火ノ神カラ逃ゲヨ。森カラ白ク輝ク土地ヘ脱出セヨ』と書かれていた。

『火ノ神』は全員がすでにわかっている通り真上を飛ぶ『火の鳥』のことだ。

『森カラ白ク輝ク土地ヘ脱出セヨ』の『森』は、このジャングルのことだろう。

 それでは『白ク輝ク土地』とは一体どこなのかだろう?

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