094:仲間の死
並列意思のクローバーは4面ダイスが転がるわずか3秒の間に思考を巡らせた。
(あのマッチョくんの最大値スキルってのは厄介だけどそれは最初だけ♣︎いくら攻撃フェイズで最大火力の4を出しても選択フェイズの時点で攻撃対象がいないマッチョくんは攻撃すらできない♣︎うふふ。ただ能力カードを引かれるのは厄介なのには代わりないけどね~ん♣︎)
まずクローバーは最大値スキルを持つノリに対して思考を始めた。
クローバーの思考通りノリの最大値スキルは4面ダイスの最大数値の4しか出ない。なので選択フェイズで攻撃対象が存在しないノリは攻撃フェイズすら行えないのだ。
攻撃できず防御カードも引けないノリは能力カードだけで凌ぐしかない。
ノリの思考を終わらせた後、クローバーが転がした4面ダイスは3の数字を頂点にして静止した。は3回復カードが引ける。クローバーは回復カードの山のトップを取るまでの動作で今度はモリゾウについて思考を巡らせた。
(勇者サイドの中で一番ダメージを受けているのは緑髪くんね。彼はよく頭も回るし探偵スキルも厄介だわ♣︎この死のゲームの
思考が終わり回復カードを引いた瞬間「うふふ♣︎」とクローバーが薄く微笑んだ。
その後、決定的なダメージやゲームを左右する動きは全くなく勇者サイド、魔王サイドのターンが過ぎていった。まるで何か悪いことが起きる前触れのように……。
そしてそのターンはノリのターンで起きてしまったのだ。
「ふんっ」
ノリは獲得フェイズのため4面ダイスを振った。最大値スキルで出る数がわかっているがルール上4面ダイスを振ってからカードを獲得しなければならないのだ。
もちろん4面ダイスで出た数字は1番大きい数字の4だ。4は能力カード。このゲームを大きく左右するカードだ。その能力カードの山のトップをノリは引いた。
能力カードを引き、そのカードの表を見た瞬間、ノリは心臓を抑え苦しみ始めた。
「う、ぅぐ、がはっ……」
そのままはノリはその場に倒れてしまったのだった。引いたカードはノリの手のひらから落ちていき裏向きのまま床に落ちて行った。
「ノ、ノリィイ!」
倒れたノリを見て叫ぶキンタロウ。モリゾウとイチゴは声が出ないほど衝撃を受けている。
その後、イチゴはノリが引いたカードを拾いそのカードの内容を見た。そして震えながらそのカードの内容を読み始めた。
「の、呪いのウサギ人形……」
「呪いのウサギ人形!?」
「このカードを引いたプレイヤーはHPが……」
そこまで読み黙ってしまったイチゴ。恐怖で震えてその先が言えなくなってしまったのだ。
そんなイチゴの様子を見たモリゾウが覗き込みそのカードの続きを読んだ。
「HPが0になる……」
モリゾウが読み終えた後、イチゴは崩れるように膝をついた。
ノリのHPが0になったことが判明した。死のゲームのルールでHPが0になったプレイヤーは命を落とす。つまりHPが0になったノリは死んでしまったのだ。
「うふふ♣︎突然死んでラッキーだわ~ん♣︎HPが低い緑髪くんよりも先にマッチョくんが死ぬなんてね~ん♣︎」
「うふふふ❤︎」
テーブルの向こうにいるクローバーとその先のトランプ模様の椅子に座るハートはノリが死んだことに対して笑い始めた。
その笑い声をかき消すかのようにキンタロウは叫びながら倒れているノリの元に走って駆け寄った。
「ノリ、おい、ノリ! しっかりしろ。おい、おい! ノリ、ノリィイ」
ノリの肩を揺らすキンタロウだがノリからの返事はない。
「おい、ノリ……ノリ、おい、ノリ!」
「キンちゃん……」
ノリの肩を揺らし続けるキンタロウの肩にモリゾウが手が優しく置かれた。置かれた手に気付いたキンタロウは涙を流しながらモリゾウの顔を見た。その後、目が合ったモリゾウは静かに首を横に振った。
「でもまだわかりません。死のカードがあるということは復活のカードもあるはずです」
モリゾウはキンタロウとイチゴを励ますかのようにノリの生き返る方法を瞬時に考えそのまま言った。これは2人を励ますだけの言葉ではなく己自身も励まし心を落ち着かせるために放った言葉だった。
しかしモリゾウの希望を断ち切るかのようにクローバーは口を開いた。
「復活方法はないわ~ん♣︎だって死のゲームだもの♣︎復活したらつまらないじゃな~い♣︎」
クローバーは死んだデュースの体で人形劇を始めながら死人を嘲笑うかのように言ったのだった。
そんな姿にキンタロウは怒りが爆発しそうになったが堪えた。今集中すべきことはクローバーへの怒りよりもノリを生き返らせる方法の方を考えることだ。
「そ、そうだ、イリス。お前なら何とかできるんじゃないか?」
キンタロウは蘇生スキルを持つ妖精イリスに望みを託した。しかしイリスはキンタロウの檸檬色の髪の上で首を振った。
「残念じゃが蘇生スキルは1回限りじゃ」
「そ、それなら治癒魔法で!」
「治癒魔法では傷は治っても心臓を動かし生き返らせるということはできんのじゃよ。すまない」
イリスは申し訳なさそうに答えたがイリスは何も悪くはない。悪いのは目の前で笑っているピエロ。このゲームを作り出した神様だ。
「それじゃあマッチョくんが死んだってことで私のターンが始まるわね~ん♣︎」
クローバーは悲しみに打ち拉がれるボドゲ部を気にせずにターンを始める。
「おい、くそ……ノリ、どうすれば……」
キンタロウを無視するクローバーの獲得フェイズが始まった。転がった4面ダイスは1を出している。1は武器カードを引くことができる。
クローバーは勢いよく武器カードの山のトップを引く。そしてそのカードを確認することなく選択フェイズに移った。
すぐに4面ダイスを転がし攻撃対象を決定させた。4面ダイスで出た数字は2だ。攻撃対象に選ばれたのはモリゾウだ。そして畳み掛けるかのように攻撃フェイズのために4面ダイスを振った。
「うふふふ♣︎」
クローバーは4面ダイスが静止する前に獲得フェイズで引いたカードを見てから不気味に笑った。なぜならカードを確認した時点でモリゾウの脱落が確定したことに気が付いたからだ。
「うふふ♣︎私が引いたカードはリンゴ爆弾。攻撃力が2上がるのよ~ん♣︎よって私の攻撃力は7になったわ。攻撃フェイズで出た目は3。つまり緑髪くんに10のダメージね~ん♣︎」
ニヤりとクローバーが笑い、クローバーのコマが動き出した。
クローバーのコマは代役になる前のデュースのコマである。デュースに似たウサギのコマがモリゾウのコマに向かって攻撃を仕掛けてきた。
モリゾウの残りHPは5。防御力は2だ。クローバーの攻撃には耐えられない。そのことを攻撃を受けるモリゾウが真っ先に悟りHPが0になる前にキンタロウとイチゴに言葉を告げた。
自らが死ぬ間際に伝える言葉といえば感謝の気持ちや謝罪の気持ちなどだろう。死のゲームにおいての場合は稀に応援の言葉などもかけるかもしれない。
しかしモリゾウがかけた言葉はそのどれでもなかった。
「
その言葉を告げた後、モリゾウのHPが0になり心臓発作をしたかのように静かに倒れた。
それは応援の言葉のようであってそうではない。応援の言葉とは相手を力づけたりサポートしたりする言葉のはずだ。
モリゾウの最後の言葉には『どちらか』という言葉がある。キンタロウとイチゴの両方に生きてクリアしてほしいのならそんな言葉は必要ないだろう。
モリゾウがその言葉を選んだのはこのゲームの真相に辿り着いたモリゾウからのメッセージだ。だが、モリゾウが命がけで残したメッセージを受け取れるかどうかはキンタロウとイチゴ次第なのだ。
「モリゾウゥウウ!」
キンタロウの叫び声が第6層95マスに響き渡った。連続して仲間が死んでいったのを目の当たりにしたキンタロウは冷静ではいられなかった。
キンタロウにとっては二度目の仲間の死。涙を流し喉が枯れるまで泣き喚いた。泣き喚くしかなかったのだ。
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