021:サイコロバトル開始

 サイコロバトル。6面サイコロを振って出た目の大きいプレイヤーの勝利。

 ただし「あいこ」だった場合は主催プレイヤーの勝利。つまりボドゲ部側のプレイヤーの敗北になる。

 そして勝負は全部で5本。妹ウサギに勝つためには3勝しなければならない。

 サイコロバトルに勝利した場合の報酬は『召喚獣』。敗北した場合の報酬はない。そして罰などもない。



「さぁさぁさぁ、1番手は誰かしら?」と妹ウサギがサイコロバトルを始めるためのプレイヤーの選択を促す。

「俺、俺、俺! 俺がやる!」

 1番手に名乗りあげたのは、勢いよく手挙げたキンタロウだ。


「それでは……『ウサギき』!」

「またそれか! 『ウサギき』!」

 妹ウサギが唱えた後にキンタロウも唱えた。

 するとサイコロが両者の目の前に出現した。出現したサイコロは赤と青のサイコロではない。

 キンタロウ側に緑色のサイコロ。ぶくぶく太った茶色い妹ウサギ側にオレンジ色のサイコロだ。


 オレンジ色と緑色はこの空間に相応しい色だ。なぜならニンジンの家具や置物はオレンジ色と緑色で統一されているからだ。


「キンタロウくんファイトォ」

 イチゴがキンタロウに向かって小さくガッツポーズをとる。可愛らしい姿だが、イチゴの後ろでマッチョポーズをとっているノリが視界に入ってしまいイチゴの可愛さが薄らいだ。


「キンちゃん。召喚獣は今後のマスで必ず必要になります。絶対に勝ちましょう」

 モリゾウはキンタロウに拳を向けて気合いを入れた。

 キンタロウは拳を返して「おう!」と一言笑顔で応えた。

 そして妹ウサギに向き直り、「先に言っとくぞ。運も実力のうち。俺たちが勝つ」


「それじゃ、やりましょ~」


 ボドゲ部と妹ウサギのサイコロバトルが始まる。


 先に振ったのはキンタロウだ。その場に緑色のサイコロを勢いよく振った。

 振られた緑色のサイコロは勢いが止まることなく転がり続ける。そしてニンジンのタンスに当たり勢いが殺された。

 勢いが殺された緑色のサイコロはゆっくりと止まる。止まったサイコロの目を確認するためにキンタロウが走った。


「俺の数字は……さ、さ、さん……」

 キンタロウが出した緑色のサイコロの目は3だった。


「やべぇえ、やっちまった!」と思わず口にしてしまうキンタロウ。

 大口を叩いた後とは思えないほどの情けない表情をしている。


 続いて妹ウサギがオレンジ色のサイコロを振った。キンタロウとは違い目の前にゆっくりと転がした。

 転がるオレンジ色のサイコロは止まるタイミングが予想できてしまうほどゆっくりだ。

 残り3面で止まるだろう。残り2面。次の面で止まる。ただ次の面はこの一瞬では誰もわからない。考えればわかるが考える時間よりも面が出る方が先だった。


「あら……」と妹ウサギは面が出た瞬間にあっけない言葉を放った。


 オレンジ色のサイコロの目は2だ。

 キンタロウの目は3。妹ウサギの目は2。つまりキンタロウの勝利。


「うぉおしゃー! 奇跡、奇跡、奇跡! 危ねぇえ! まず1勝だ!」と子供のように大はしゃぎで喜ぶキンタロウ。


「キンちゃん。やりましたね!」とモリゾウも喜ぶ。

「キンタロウくん。おめでとうぅ!」とイチゴがハイタッチをしにキンタロウの元へと向かった。そしてハイタッチをする。


 筋肉男のノリは「ふんっ!」と鼻で息を一気に吹き出しマッチョポーズをとってキンタロウの勝利を祝福した。


「本当に運がいいのね~。それともあたちの運が悪かったのかしら。次は誰があたちの相手かしら?」

 妹ウサギは悔しそうにしていない。むしろ余裕綽綽といったところだ。


 次の対戦相手として手を挙げたのはノリだった。ノリはただ手を挙げただけではない。手の甲を向けて腕に力を入れながら挙げている。

 筋肉男のノリらしく筋肉を見せつけながら手を挙げたのだった。


「ノリ! 受けとれ!」

 キンタロウはノリに向かって緑色のサイコロを投げた。

 ノリはノールックで緑色のサイコロを片手でキャッチする。そのままサイコロをダンベルのように上下に動かし筋トレを始めた。

 これはノリなりの精神統一だろう。


 精神統一を終えたノリはポージングを変えた。そしてドッジボールで相手を思いっきり狙うかのように白い壁に向かって緑色のサイコロを投げた。

 緑色のサイコロは白い壁に激突し跳ね返った。そのまま転がり続ける緑色のサイコロはノリの足元まで戻ってきて勢いが止まった。

 ノリが投げた緑色のサイコロの目は6だ。


 6の目が出た瞬間、『勝った』とボドゲ部全員が確信した。

 そしてノリはモストマスキュラーポーズをとった。


「う~ん。あたちは6を出さなきゃ負けね~」

 妹ウサギはオレンジ色のサイコロを両手で持った。そして地味に目の目にオレンジ色のサイコロを転がした。

 そして転がるオレンジ色のサイコロはキンタロウとイチゴの前まで転がり止まった。 

 出た目は6だ。


 ノリも妹ウサギも6だ出た。コレは『あいこ』だ。ルール上『あいこ』の場合、妹ウサギの勝ちになる。

 つまりこの勝負は妹ウサギの勝利だ。


「あいこということは……負けか……」

 勝利を確信してしまった後の敗北はただの敗北とは違い精神ダメージが大きい。筋肉男のノリでさえ頭が真っ白になりマッチョポーズを忘れるほどだ。

 ただのサイコロ勝負だが6を出しての敗北は完全敗北を意味する。

 勝利の女神は妹ウサギに微笑んだのだ。


「やったー、やったー、あたちの勝ちーだわ~。これで1勝1敗ね~」

 大喜びでぴょんぴょんと飛び跳ねている。


「6であいこは仕方ないです。ドンマイです」

 モリゾウはノリの肩を叩き励ました。肩を叩かれたノリは筋肉が反応し、忘れていたマッチョポーズを取り始めた。

 敗北したノリの筋肉はどこか元気がなくいつもよりも小さく見える。


「ノリくん。どんまいだよぉ」とイチゴも励ました。


 キンタロウは真っ直ぐに緑色のサイコロを見続けて何か考え事をしていた。


「次は私がいくよぉ。よろしくねウサギさん」

 3番手として手を挙げたのはイチゴだ。


「うふふ。女の子でも容赦しないわよ~」

 先に投げたのは、この勢いに乗りたい妹ウサギからだった。

 先ほどまでの投げ方とは違いノリノリで天に向かってオレンジ色のサイコロを投げた。

 力もなく投げられたサイコロは中途半端に宙から落下し1回転もしないまま止まった。

 オレンジ色の出た目は5だ。再び勝利の女神は妹ウサギに微笑もうとしている。


「おねがーいぃ」

 イチゴは願いながら優しく緑色のサイコロを転がした。


 妹ウサギに勝つためには『6』の目を出さなければならない。

 勝つ確率は6分の1。負ける確率は6分の5。


 そんな勝率の低いイチゴの緑色のサイコロは6の数字を無残にも過ぎ去りゆっくりと止まった。

 緑色のサイコロの出た目は4だ。


 妹ウサギにイチゴは敗北した。


「これであたちの2勝1敗よ。後1勝であたちの勝~ち!」

 獲物を追い込む肉食動物のような笑みを浮かべて妹ウサギは唇をペロッと舐めた。


「ごめん。負けちゃったぁ」

 イチゴは落ち込みながらボドゲ部の元へと戻って行った。


「大丈夫、大丈夫。まだ負けてない! 残りの2戦をどっちも勝てばいいからな!」

 イチゴを励ますキンタロウ。そしてモリゾウに向かって「だろ?」とプレッシャーを与えた。


「そうですけど……プレッシャーがすごい……。でもサイコロ勝負は運なんですから負けても仕方ありませんよ」

 本心から出た言葉なのか、負けた時の保険の言葉なのか、モリゾウが弱音を吐く。


「4番手は僕です。考えても無駄なので後は信じて振るだけです」


 モリゾウが緑色のサイコロを手に取った。そしてサイコロを回転させるように回しながら振った。

 回転軸がサイコロの角になりコマのように回る緑色のサイコロ。回転が弱まるがどの面に止まるか全く予想できない。

 モリゾウは止まるまで目を閉じ神に祈るように手を合わせた。


「お願いします。お願いします」


 緑色のサイコロは止まった。止まった気配を感じモリゾウはゆっくりと目を開ける。

 緑色のサイコロの出た目は3だ。

 3の目を見たモリゾウは先ほどよりも強く願った。


「お願いします。お願いします。お願いします」

 手を握り締めて強く何度も願う。


 妹ウサギは「これで終わりよ~」と大声をあげながらオレンジ色のサイコロを天に向かって投げた。

 サイコロは無回転のまま落下。落下した反動で無回転だったサイコロが転がった。



 強く願うモリゾウが勝利する確率は3分の1。

 その場にいる全員が妹ウサギが投げたオレンジ色のサイコロが止まるのを静かに待った。

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