083:恐るべしメイドウサギの魅力
ボドゲ部はゴールを目指すべく『第3層83マス』にワープした。
ここは先ほどの『第4層77マス』の何もない真っ白な空間とは違いカフェのような場所だ。おしゃれな木製のテーブルにピンク色で可愛らしいひらひらのテーブルクロスが引かれている。他にもカーテンや床などもピンク色に統一されたなんとも可愛らしい空間だ。
しかしこのピンク色の空間にボドゲ部たちは身構えた。
「ピエロの部屋か? ピンクすぎてアイツの顔が浮かんだ」
キンタロウの思想同様に他のメンバーも同じことを思っている。ボドゲ部が神様が作った盤上遊戯の世界にワープした時に最初に見た道化師のピエロの事だ。
あのピエロは化粧や衣装、大きな靴や髪色など全身をピンク色でコーデしている。なので真っ先にピエロの顔が浮かんでしまったのだ。
「100マスまで残り22マスです。ピエロが出てきてもおかしくありませんね。それに第3層は初めてです。何が起きるかわかりません。気を引き締めましょう!」
モリゾウが警戒心を高める。
その後、ゆっくりと目を閉じて探偵スキルを発動する。モリゾウの探偵スキルは相手や仲間の位置を確認することができる能力がある。その能力を使い『第3層83マス』に自分たち以外の生き物がいるかどうかを確認する。
「あぁ、わかってるよ。ここまできたんだ。今の俺は何事にも動じねぇ。集中力感度ビンビンだぜ。それに心強いイリスも一緒だしな」
キンタロウは自分の頭に座っている妖精イリスの檸檬色の髪を撫でながら真剣な表情で言った。その場から動かず集中力を高め辺りを細かく見渡している。
ノリもイチゴも同じくその場から動かずに辺りを見渡している。全員が潜んでいるであろう敵に対処すべく警戒心を高めている。
「反応があります!」
「いた!」
モリゾウとキンタロウはほぼ同時、否、モリゾウの方が若干早めにボドゲ部以外の他の生物に気が付いた。キンタロウでも気が付いたということはすでにその生物はボドゲ部たちの目の前に現れていることになる。
その生物は、ピンク色がいっぱいのカフェの雰囲気に相応しい姿をしていた。白色のひらひらが付いた黒色のスカートを可憐に着こなし、白色のカチューシャが可愛く頭の上にちょこんと乗っている。その姿、まさにメイド。黒色を基調としたメイド服はピンク色のカフェと同化せずにカフェとメイドの両方が両方の持ち味を出している。
そのメイドはスカートの裾をつまんで丁寧にお辞儀をした。
「ようこそ『第3層83マス』へ。私はここの案内兎のタルトです」
メイド服を着ていたのは全身真っ白な案内兎だった。小さなサイズから子ウサギもしくはミニウサギだろう。
メイド服姿のウサギが挨拶を終わらせた瞬間、2人の人影がそのウサギに向かって飛んだ。
「ウサギでメイド! めちゃくちゃラブリー! ああん。もふりたいを通り越して俺をもふって欲しい!」
「うさぁうさぁうさぁうさぁ」
メイド服姿のウサギに興奮し飛び出したのはキンタロウとイチゴだった。キンタロウは両手の指をたくさん動かし今にもタルトをもふろうとしている。
もふりにいかないのはタルトの可愛さにこれ以上近付けないでいるのだ。実際のメイドカフェでもお客さんがメイドさんに触れてはいけない暗黙のルールがあるようにキンタロウとタルトの間には見えない壁があるのだろう。
そんな中、暗黙のルールを通り越して頭をおかしくしているのは可憐な美少女のイチゴだった。
イチゴは何かに取り憑かれたようにタルトの耳を口に加えはむはむして両手で思う存分も振りまくっているのだ。ウサギ好きのイチゴの理性はメイド服を着た真っ白なミニウサギによって壊れた。
耳をはむはむされているタルトだが満更でもない表情をしている。本来ウサギとは触られることが大好きな種族だ。なのでタルトも本能から嫌がらずに喜びを覚えているのだろう。
「イチゴずるいぞ! くっ、俺にはこれ以上近付けない。可愛すぎる。可愛すぎるよぉ。俺のような身分の人間がこんなに可愛いメイドウサギに近付いて良いものなのか!」
膝を突き崩れ落ちたキンタロウは涙を流し時代劇のような一人芝居をした。
「こんなに可愛いウサギさんは初めてぇ。うさぁうさぁうさぁうさぁ」
「う、うぉお、耐えられん。俺の心が耐えられん。可愛すぎりゅぅうううう」
タルトの可愛さに壊れる2人に対しモリゾウは静かな怒りを飛ばした。
「ちょっとちょっと、お2人とも、落ち着いてくださいよ。さっきまでのは何だったんですか。何事にも動じないとか言ってましたよね。気を引き締めてくださいよ」
「なあ、もふっていいか? もふっていいよな。もう俺我慢の限界!」
モリゾウの激に聞く耳を持たないキンタロウは黒いシャツの襟をモリゾウに掴まれ元の位置まで引っ張られた。
「メイドウサギィイイイイイ」
モリゾウに引っ張られたことによってタルトと離れていくキンタロウの悲痛の叫びだ。
「モリゾウの鬼! まだもふれてねーんだぞ。見ろよ、あのふかふかの毛並みを。胸にできたまふまふも国宝級だぞ」
「はいはい。わかりましたから落ち着いてください」
落ち着くことがなく暴れ続けるキンタロウ。そのキンタロウの黒いシャツの襟を掴み続け再びタルトの方へ向かってしまわないように制御するモリゾウ。
「ノリちゃんキンちゃんを持っててください。イチゴちゃんを現実世界に引きずり戻してきます」
モリゾウはキンタロウの襟をノリに渡しイチゴの元へ歩いて行った。そしてイチゴの白く可愛らしいワンピースの襟には触れずにイチゴの両腕を掴みタルトという魅了の魔法から解放した。
「私のもふもふがぁ」
モリゾウに引きづられるイチゴは涙を流しながら遠ざかっていくタルトに向かって誠意一杯手を伸ばした。
そしてイチゴが再び飛び出してしまわないように筋肉男のノリはイチゴの腕を軽く掴んだ。右手にはキンタロウ。左手にはイチゴだ。
そして、場面の切り替わりを知らせるかのようにモリゾウは咳払いをする。
「これでようやく落ち着いて話ができますね。ここ第3層83マスはどんなエリアなんですか?」
モリゾウは案内兎のタルトにここのマスはどんなマスなのか問いかけた。初めて訪れる第3層にモリゾウは慎重になっている。
「ここ第3層83マスは青いサイコロを2つ振って次に進むエリアですよ。つまりラッキーマスですよ」
タルトはふわふわのお尻をぷりぷりと振りながらモリゾウの質問に答えた。
「青いサイコロを2つ振れるんですか!?」と、モリゾウは目を丸くして驚いた。モリゾウだけではない。筋肉男のノリも驚いている。驚いた衝撃でキンタロウとイチゴを掴んでいた手を離してしまった。
「ぁ……」
ノリが手を離してしまったせいでキンタロウとイチゴはタルトに向かって飛びついてしまう。
「もう一回お尻ふりふりしてくれー! できればそのお尻のもふもふをもふらせてくれ!」
「私のもふもふちゃん。可愛い。ぐへ。ぐへへへへ」
キンタロウは我慢できずにタルトの顔に向かって自分の顔を擦り付けてもふもふを堪能している。同時に飛びついたイチゴはタルトのもふもふのお腹に向かって自分の顔を埋めていた。
「もうダメッ。もふもふだしめっちゃいい匂い。可愛すぎ可愛すぎる!」
「キンタロウくん。この子を私たちの召喚兎にしようぅ!」
「イチゴ。ナイスアイディアだ。このもふもふは今後の戦いに絶対必要だ」
理性を失い壊れた2人はもうモリゾウの手に負えないほどだ。恐るべしもふもふで可愛いメイドウサギの魅力。
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