019:クリア率0%の攻略方法

『神様が作った盤上遊戯ボードゲーム』は『クリア率0%』のクソゲーだ。

 このゲームにクリアしたら現実世界に帰れる。しかしクリアできないのなら挑戦する意味がない。

 けれど挑戦しなければ結局のところ食糧難に陥り餓死する未来が見えている。

 それならば挑戦し前に進まなければならない。たとえクリア率0%だとしても。


 キンタロウは質問をした。


「どう攻略する? クリア率0%のクソゲーを?」


 キンタロウはクリア率0%のクソゲーの攻略方法を質問したのだ。


 モリゾウも悩む。クリア率0%のゲームをクリアすることは不可能だ。だからモリゾウも答えを導き出せないでいる。

 そしてノリは、いまだにキンタロウに向かってマッチョポーズを取り続けている。そんな筋肉男のノリも曇った表情だ。


「俺さ、ゲホォ……俺さ、ゴールした時に言われたんだよ。ゴールとクリアは違うみたいなことを……だからゴールしてもクリアできないんなら他の手はないかなって思ってさ……」


 そんな時、小さな手のひらをピーんと高く挙げる美少女に視線が集まった。


「ゴールしたらクリアだよぉ」とイチゴが答えた。


 その答えはキンタロウの話を全く聞かずに答えたものではない。キンタロウの話をしっかり聞いて答えたものだ。


「どういうこと?」


 キンタロウは首を横に傾けた。


「えーっとね。みんなでクリアして未来に行けば、もうゲームしなくてもいいんじゃないかなって思ったのぉ」


 イチゴの言っていることはわかる。クリアした後、好きな時間に飛べるのなら未来に行けば『神様が作った盤上遊戯ボードゲーム』に参加していないのではないかということだ。

 過去に飛んでしまったら結局、ゲームに参加する運命に手招きされる。それなら未来に飛べばいい。

 確かにイチゴの理屈は正しい。だが、簡単には未来には行けない。


「あまり記憶がないけど……俺、過去に戻る前に何かやったんだよ……『過去』か『未来』かを選ぶ何かを……」


 キンタロウの記憶がないのも無理はない。キンタロウは自分が金色の3面ダイスを振ったことを認識していないのだ。

 それでもキンタロウの記憶の引き出しを全部開け、引き出しの裏の裏までを確認した結果『過去か未来かを選ぶ何か』までたどり着いていた。


「それって……」とモリゾウが青ざめた表情になった。

 そんなモリゾウに対してキンタロウは言葉を代弁する。

「ああ、未来が出てしまった場合、仲間の死を回避する方法が消える……」


 仲間の死より前の過去に戻れば死を回避できる。キンタロウの今の現状がそれだ。

 しかし未来になってしまった場合はその未来で過去に戻らない限り仲間の死を回避することが不可能になる。


「戻ってこれてよかった……」


 キンタロウは『過去』に戻ってこれたことに安堵した。


「好きな時間に戻れるって……過去か未来かの好きな時間ってことですか……それがランダムなのか強制的なのか、それによっては、話が変わってきますね」


 モリゾウが落ち着かない様子で腕に抱えるサイコロを見ながら話した。

 そしてキンタロウは再び拳を握りしめた。


「ここから先は誰も死なずにゴールしよう。死を回避できない可能性があるし死を前提に行動するのもおかしい。みんな生きてゴールできたなら過去に戻る必要がなくなる。そしたらイチゴが言ったように未来に行けばこのクソゲーから抜け出せる」

「でもゴールして『過去』に行かなくてはならなくなった場合はどうするんですか?」

「それはだな……『未来』か『過去』か決まる寸前に戻ればいいんじゃないか? それなら『未来』が出るまで何度も挑戦できそうだぞ」

「それって、強制的なものでしたら永遠と過去が出続けますよ……それこそクリア不可能です」


 キンタロウとモリゾウはお互いの意見を出し合うが解決方法が見つからない。

 むしろ『未来』に決まらなかった場合解決詰んでしまうことに気が付いてしまった。

 だからこそクリア率0パーセントなのかもしれない。


 そんな落ち込む2人の少年とマッチョポーズをする筋肉男の視界に再び小さな手をピーんと挙げる美少女の姿が映った。


「み、みんなで過去に行かなくちゃいけない場合は、『神様が作った盤上遊戯ボードゲーム』が誕生する前の世界に行けばいいんじゃないかなぁ? そ、それでゲームを作らせないようにするのぉ」


 イチゴの提案は『神様が作った盤上遊戯ボードゲーム』そのものを破壊することだった。好きな時間に行けるのなら『過去』が出た場合『神様が作った盤上遊戯ボードゲーム』が作られる前の時間軸、さらにその場所に行くことが可能かもしれない。

 イチゴは自分の意見に自信を持てずにもじもじと恥ずかしそうに答えた。

 そんなイチゴの手をキンタロウは握りしめた。


「イチゴ……」

「キ、キンタロウくん!?」

「お前……」


 イチゴに緊張が走る。この先、どんな罵声を浴びせられるのか。もしくは笑われるかもしれない。

 そんな風に言われる未来を想像したイチゴは、名前の通りイチゴのように顔を赤くした。


「天才かよ!!」

「えぇ?」


 イチゴは想像していなかった言葉に驚いた。


「イチゴの言う通りだ。誰も死なずにゴールして未来に行けたらクソゲーをやらずに済む。過去に言った場合はこのクソゲーをぶっ壊せばいいんだ! 人間相手ならノリがいるからなんとかなるだろう!」


 ノリはキンタロウの言葉を聞き、マッチョポーズで応えた。


「そ、そうだけど……そんなに……すごいこと言ってないよぉ。過去に行っても未来に行っても今のこの時代には帰って来れないしぃ……」

「いいや、イチゴ。お前はすごい。天才だ。誰もそんなこと考えつかねぇよ。それに生きてればそれだけでいいじゃんかよ!」


 キンタロウは希望が見えやる気がみなぎった。そして瞳をキラキラと輝かしている。

 純粋にイチゴの考えをすごいと思ったのだ。 

 イチゴの根本から破壊する考えとキンタロウの全員が生き延びる考えが交わりクリア率0%のクソゲーのクリア方法にたどり着いたのだ。


 クリア方法を簡単に見つけたイチゴは神様よりもすごい。


 それにキンタロウだけではない。モリゾウも納得した表情をしている。

 ノリはマッチョポーズをとっているがいつもよりもキレッキレだ。おそらく感心しているのだろう。 


「あ、ありがとうぅ」


 イチゴはもじもじとしながら褒めてくれたキンタロウに感謝した。


「よっしゃー! 次のマスに行こう! 絶対に誰も死なずにゴールしてみせよう!」


 キンタロウのやる気スイッチがONになった。


 モリゾウは驚きながらも呆れた様子で「もう大丈夫なんですか?」とキンタロウに向かって言った。


「とりあえずは……消えない心の傷ってやつ? そこまでは回復してないけど、体力的に疲れてないし問題ない!」


 キンタロウとモリゾウはお互いを見て頷いた。


「イチゴありがとうな」

「こちらこそぉ」


 キンタロウの横にずっといたイチゴに感謝を告げる。イチゴが、ただ隣にいるだけでキンタロウの心は癒されたのだ。


「ノリもありがとうな」

「ふんっ! ふんっ!」


 そしてマッチョポーズを繰り広げていたノリにも感謝を告げる。マッチョポーズを見て元気が出たからだ。だからノリにも感謝したのだ。いや、筋肉に感謝したのだ。


「モリゾウも頭使ってくれてありがとうな! さすがボドゲ部の頭脳派だぜ」

「褒めても何も出ませんよ」

「わかってるよ。それじゃ頼む!」

「ええ。ちょっと怖いですが、振りますよ」


 モリゾウは両手で抱えるように持ったサイコロを真下に振り落とした。


 コロコロと静かに転がるサイコロ。そのサイコロを全員が注目して止まるのを待つ。止まるまでの時間は約3秒だ。だがその3秒はキンタロウたちにとって10秒ほどに思えただろう。


 サイコロとサイコロが途中でぶつかり勢いが殺された。そして今回のサイコロの出目が確定する。


 赤いサイコロの出目は2。青いサイコロの出目は3。つまり『第2層11マス』に移動するということになる。


「ドラゴンのマスじゃない!」


 キンタロウが叫んだ瞬間、赤と青の光がボドゲ部の4人の全身を包み込んだ。そして瞬きの刹那の一瞬でワープした。


 キンタロウも初めての『第2層11マス』に到着。

 未来が変わったのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る