第19話 聖女様に胃袋を掴まれた

 瀬戸さんが作ってくれた夕飯を食べ終わった俺はソファーでくつろいでいた。


「やっぱりうますぎる」


  今日の献立はハンバーグやはり俺が今まで食べてきたハンバーグのレベルを余裕で超えてきた。


 恐らく店でできても全然数がないレベルだと思う。


 今度作り方とか教えてもらおうかな?


「ふふ、月城くん幸せそうですね」


 コーヒーを淹れてくれた瀬戸さんが俺の横に座った。


 彼女からはやはり俺の選んだ香油のいい匂いがする。


「今日の夕飯もすごく美味しかったからさ。瀬戸さんの料理は本当にどれも美味しいね」


「ふふ、ありがとうございます。私も月城くんの食べてるとこ見るの好きですよ」


 本当にこの人は無自覚によく好きとかかっこいいを連発してくる。こちらとしてはめちゃくちゃ心臓に悪い。


 でもそれと同時にめちゃくちゃ嬉しいんだけど。


 彼女に褒めてもらえることでこんな自分にも少し自信がもてる。

 

「もう月城くんの胃袋はつかめましたかね?」


「掴んでいるというかすでにかっつりホールドされてるよ。」


 実際もう彼女以外の手料理では満足できないほど俺の舌は完全に瀬戸さんに支配されていた。

 

「ふふ、ちゃんと掴めていてよかったです。

一生離すつもりはありませんからね?」


 彼女は嬉しそうに微笑んだ。


 確かに俺の胃袋はもう一生彼女に掴まれた

ままなのだろう。将来瀬戸さんが結婚してしまった時に俺はどうするのだろう?


 ん? 結婚してしまう? ……俺は何を言っているんだ?


 何故か瀬戸さんが他の人と結婚することを想像すると少し胸がざわついた。


「月城くんボーッとしてどうしまししたか?」


 心配そうな顔で彼女が俺の顔を覗き込んでくる。


 その顔を見て俺の鼓動が早くなる。


「い、いや。なんでもないよ」


 そんな自分に嫌気がさして俺はコーヒーを一気に飲み干した。


 コーヒーの苦さが思考をさっぱりさせてくれる。


「……うまい」


「月城くん、おいしい時はそんな渋い顔はしませんよ? 砂糖とミルクを入れるべきです。」


「そんな子供じゃないし」


「ふふ、別に砂糖とミルクを入れることはそんなに子供っぽいことではありませんよ。」


「……俺はこのままでいい」


「ふふ、強がりなんですから。」


 彼女はなんとも可笑しそうに笑った。


「そういえば月城くん、明日予定はとくにありませんか?」


「ん? 特にないと思うけど……どうかしたの?」


「よかったです、実はお母様から娘の恩人を連れてくるようにと言われてしまいまして。」


「あぁ……」


 別にお礼とかいいんだけどなぁ……


 本当にあの場面での俺の行動はただボコられただけで褒められるようなことは何もやっていない。


「月城くんが嫌なようでしたら私から母にいっておきますが……」


「いや、行くよ。せっかくのご提案だし。」


 ここで断っては相手のメンツを潰すことになってしまうし、それに瀬戸さんのお母さんがどんな人なのか少し見てみたいという興味もある。


 瀬戸さんがこんなに美人なんだからお母さんも美人なんだろうか。


「……いいんですね?」


「うん」


「そうですか……わかりました。ですが母の相手はかなり疲れるので覚悟しておいてくださいね」


「う、うん」


 え? どういうこと? なんかすごく不安になって来たんだけど!?


 こうしてなぜか瀬戸さんのお母さんに会うことになってしまった。




 

 



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