第15話 呼び出し

 学校を終え、帰ろうと下駄箱を開けると中に一枚の紙が入っていた。


『駅前のケーキ屋さんにきて、話がある』


 とだけ添えられていて差出人の名前は書かれていない。


 駅前のケーキ屋さんっていうとこの間瀬戸さんに買ったお店か……一体なんでこんなところで?


 告白とかそういう類のものって感じゃないし、いたずらかな? しかも差出人不明とか怖すぎる……


 正直行きたくないが行かないとまずい気もする。


「よし、いくだけいって誰もいなかったら帰ろう。」


 そして変な人がいたら速攻で逃げよう!


 

 ◇



「この中のどの人が待ち合わせの人なんだ?」


 ケーキ屋に着くと店内は若い女の人で溢れており、中にはうちの学校の生徒たちもいる。


「やっぱり人気店なのかな?」


「そりゃそうよ、だって有名店だもの。」


 声がした方向に振り向くとそこには席に座ってコーヒーを嗜む少女がいた。


 ダークブラウンの長く美しい髪に綺麗な碧眼の美少女、学校で『氷姫』と呼ばれる美少女の姿がそこにはあった。


「き、清華さん?」


「待ってたわよ、月城悠真。」


「ま、まさか清華さんがこれを?」


「ええ、ごめんなさいね? 告白だと期待しちゃた?」


「別に、そんなこと思ってない。」


「ふふ、本当に聞いた通りの性格ね。とりあえず座って。」


 俺は清華さんに促され彼女の正面に向き合う形で座った。


 正面から見る清華さんはやはり圧倒的美人で前に座るだけでも緊張してくる。


「今日は瀬戸さんと、水瀬さんはいないの?」


「香織は誘ったのだけれどめんどくさがって来なかったわ。それに今日話すことは真奈には秘密よ。」


「うん、わかった。」


 とそこに若い店員さんがやってきた。


「ご注文はお決まりでしょうか?」


「わたしはホットコーヒーとモンブランといちごたっぷりのタルトとショートケーキ、ガトーショコラをお願い。あなたはどうするの?」


「俺はカフェラテを一つ。」


「畏まりました。」


 そう言って店員は下がっていった。


 まさかあんなにケーキを頼むなんて思わなかった。意外と大食いなのかな?


「さて、話をする準備はできたわ。早速本題に入りましょうか。」


 一体なんの話だろうか……瀬戸さんの友達としてこれ以上彼女に近づくなとか?


 そうして身構えていると彼女が口を開いた。


「あなたと真奈の出会いを教えて欲しいの。」


「出会い?」


「ええ、あなたたちの関係は1ヶ月前になんの前触れもなく始まったわ。普通その前に何か大きなことがあったと思うでしょう?」


 鋭い……流石は瀬戸さんに次ぐ学年2位だ。それに多分感のよさや洞察力や推理力は清華さんの方が上だろう。


 しかしあのことを言ってもいいのだろうか?


 言ったら嘘だと言われないただろうか?


「安心して、あなたが言ったことは誰にも言わないし、絶対に信じるわ。」


 そんな俺の心情を見透かしたように彼女はその美しい碧眼で優しく俺を見つめる。


 この人になら……話してもいいかな。

 

「じゃあ、話すよ信じられないと思うけど。」


「絶対に信じるわよ。」


 その信頼できる言葉に俺は決心し瀬戸さんとの出会いを話した。その間彼女は何か質問をするわけでもなく、ただ静かに俺の話を聞いていた。


「というわけなんだ」


「……」


「清華さん?」


「いえなんでもないわ、ただこれであの子の気持ちに納得がいったというかーー」


「気持ち?」


「今のあなたが知る必要はないわ、それは直接真奈から聞きなさい。」


「わ、わかったよ。」


 そしてちょうど話の区切りがついたところでケーキとコーヒーが運ばれてきた。


「お待たせしました、モンブランに、いちごたっぷりのタルト、ショートケーキ、ガトーショコラ、ホットコーヒーとカフェラテになります」


 ケーキとコーヒーを置き終わると店員は軽くお辞儀をして奥へと消えていった。


 そして清華さんは置かれたケーキをなんとも美味しそうな表情で幸せそうに食べている。


 この時の表情は先程までの冷静なときのものでなく、一人の少女のような表情だった。


 それにしてもよく食べるな……あの体のどこにあんなに入るかのか……食べても太らないってのは羨ましい。


「とりあえず事情はわかったわ。それより今日はもう一つあなたに重大なことを知らせにきたのよ」


「重大なこと?」


「1週間後……なんの日か知ってる?」


「とくに何もないと思うけど……」


「はぁ……1週間後は真奈の誕生日なのよ。」


 清華さんは呆れたように言った。


「そ、そうなんだ……プレゼントどうしようかな……」


 瀬戸さんと出会って結構経つとはいえ、まだまだ俺は彼女のことを全然知らない。 どんなものがすきかも。


「今度プレゼントを買いに行きましょう。私もてつだうわ。」


「い、いいの?」


「あの子のことはよく知っているつもりだし、親友の気持ちを応援したいのよ。」


 本当に彼女は瀬戸さんのことを大切に思っているんだなと改めて思った。


 そしてちょうど話が終わる頃には彼女はケーキを全て平らげてしまっていた。

 

「ご馳走様、美味しかったわ。流石有名店ね」


「今日は俺が払うよ」


「……いいの? 私、結構食べちゃったわよ?」


「今日は話を聞いてくれたし、肝心なことも教えてくれたしね、そのお礼だよ。」


「じゃあお言葉に甘えさせてもらうわ。」


 会計金額は予想以上に高かったが後には引けずなんとか支払った。


「じゃあ、またね月城悠真。」


「うん、清華さんも気をつけて」


「あ、そうだったわ。これだけは伝えないと」


 そう言って彼女はこちらに振り返った。


「私の大切な人を守ってくれてありがと、そしてもし……あの子が再び危険に晒されることがあったらその時は彼女を守ってあげて」


「うん、もちろんだよ。絶対に守る。」


 もう二度と彼女をあんな目に合わせない。何があっても俺が守る。たとえそれで俺が死のうとも。


「ありがと、あの子があなたを気に入った気持ちが私にも少しわかった気がするわ。それじゃまた明日」


「また明日。」












 













 









 






 


 












 

 

 



 

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