誘拐犯から黒髪清楚の聖女様を守ったら、毎日甘やかされるようになった件

ぷらぷら

第1話 誘拐されそうな聖女様

「や、やめて!」


「うるせー! ごちゃごちゃ言ってねぇでさっさと乗れ!」

 

 俺、月城悠真は学校が終わりいつもの通り帰っていると男女が争うような声が聞こえたのできてみればこれだ。

 

 今にも誘拐されそうになっている彼女は俺のクラスメイトの瀬戸真奈。有名な財閥の令嬢で、黒髪清楚な美しい容姿と優しい性格から学校では『聖女様』と呼ばれている。


「まぁ、家柄も容姿もいいし誘拐の標的には最適ってわけか……」


 恐らく誘拐した後は身代金を要求するだけでは終わらないだろう。利用されるだけ利用されて最悪の場合死ぬ可能性だってある。


(どうする……警察を呼ぶか? いやそれでば間に合わない。だとしたら俺がいくしかないんだが……)


 俺は彼女の腕を引っ張るゴツい男を見る。


 身長は190センチくらいで体重は恐らく100キロは言っているだろう。しかもあのボディービルダーのような分厚い筋肉。あの腕で殴られたらひとたまりもないだろう。


 それに比べて俺は178の65。おまけに帰宅部なのでしばらく運動もしてないし、筋肉もない。


 出ていっても一瞬でボコられる気しかしないが……


「誰かっ! 誰かっ! 助けてー!」


「無駄だ! こんなところ誰もきやしねぇよわかったらささっとのれ!」


「い、嫌!」

 

 助けを求める人を瑞瑞見捨てるようなことは決してできない。


「何をしているんだ、外道。」


「あぁ? 誰だてめぇ」


 男から発せられる威圧感に体が小刻みにぶるぶると震える。これが圧倒的強者と対峙した時の恐怖感か……


 対して向こうは俺に誘拐の現場を見られたと言うのにちっとも怖けず堂々としている。


「あなたは……月城くん?」


「月城ぉ? ああお前の同級生かなんかか。で、なんのようだ小僧」


「見ての通り誘拐を阻止しにきたんだよ」


「ふふ、ふはははっ! 阻止しにきただぁー? 善人気取りも程々にしろよ」


「別に俺は自分を善人だとは思わない。だが誘拐されそうになっている美少女を助けるのは全ての男子の宿命だろうが。」


「くく、違いないな。おいドライバー! お前この娘見とけ!」


 ゴツい男が車の運転席に向かって叫ぶと銀髪の男が現れた。


 ゴツい男と比べると細いがしっかりと筋肉がついていてこちらも勝つのはかなり厳しそうだ。


「えー、俺ドライバー担当なんすけど……」


「うるせー。つべこべ言わず見とけ、俺はこの小僧の相手をする。」

 

 ゴツい男は着ていた上着を脱ぎ捨てタンクトップになった。上着を着ていて見えなかった筋肉が露わになりさらに俺の負けが濃くなった。


「どうした小僧こねぇのか?」


「く、やってやるよ!」


 俺はそう言いゴツい男に向かって駆け出した。


 奴は自信からか全く防御の姿勢を取らない。まず俺の攻撃を受けるつもりだろう。ならば狙うは腹だ。


「うぉぉーー!」


 俺は男の腹に向かって全力で右の拳を打ちつけた。


 しかし帰ってきたのは壁を殴ったような感覚。内臓には全く届かず男も平気そうに俺の顔を見て笑っている。

 

「どうした小僧? まさか今のが本気の殴りじゃねぇだろうなぁ?」


「あ、あ……」


「はぁ、期待はずれだな。てっきり誘拐を阻止しに来る勇気があるからもっと強いもんだとおもっていたんだが……。」


 俺が呆然としていると男が俺の右腕を掴んだ。振り払おうと右手を動かすがびくともしない。


(くそっ! 腕力が違いすぎる!」


 そうこうしていると男が右手を後ろに引き殴りの構えを取っていた。


「いいか小僧、本物の殴りってのはなぁ……こうやるんだよっ!」

 

 次の瞬間俺の腹部に男の拳が打ち込まれた。


 今まで感じたことのない痛みに視界がぼやけ、意識が飛びそうになる。


「がはっ!」


「っ……! 月城くん!」


「お、耐えたか。やるじゃねぇか今のを受けて立ってる奴はなかなかいないぜ? だがもう動けねぇだろ」


「まだだ……俺はまだ動ける!」


「ほぉ、中々根性のある小僧だ。いいだろうお望み通り動けなくなるまで痛ぶってやるよ!」


 そこからはほとんど一方的だった。


 殴る、蹴るの繰り返し。俺の体はもうすでに何本か骨が折れていて俺はもう立ち上がることができなかった。


「もうやめて! 貴方達の言うことを聞くからこれ以上彼をいたぶらないで!」


「へぇ、案外素直じゃねぇか。だがなこいつはもうこの現場を見ちまったんだ。生かしておくわけにはいかねぇ。」


 そう言うと男はズボンのポケットからナイフを取り出しその切先を俺に向けた。


「お願い! 彼を殺さないで! なんでもするから!」


「大人しくしてろ!」


「さて、小僧。これでさよならだが俺は優しいんでな。最後に一言あるか?」


 どこがだよ!と突っ込みたくなったが痛みで大声も出せないのでやめておく。


 俺は腕時計の時間を確認する。この男にボコられて大体10分。そろそろか。


「最後の一言を言うのは俺じゃねぇ、お前らの方だ。」


「なにを言ってーー」


「そこまでだ!」


 次の瞬間周りに大勢の警察が現れた。彼らは誘拐犯達に銃を向けている。


 そう、俺があらかじめ通報しておいたのだ。しかし時間がかかるためそれまでは俺が足止めしていた。


「腕を上げて武器を捨てろ、ここら一帯の包囲は完了している、貴様らに逃げ場はない。」


「ど、どうする?」


「ここまでだ、俺は死にたくない。」


 そういうとゴツい男はナイフを捨て両手を上げ降伏した。それに続いて銀髪の男も瀬戸さんを離した。


「お嬢さん大丈夫ですか」


「私は問題ありません、それよりも彼を!」


「なっ! ひどい怪我だ! すぐに救急車をーー」


 俺は彼女が助かって安心したのかそこで気を失った。



 ◇



 あの後俺は近くの病院に搬送され処置を受けた。幸い内臓などにはダメージはなかったが肋骨と足の骨が折れていて数日入院することになった。


 誘拐犯の二人組は警察に逮捕され、瀬戸さんも無事だったようだ。


 俺の稼いだ時間は決して無駄じゃなかったんだと思うとこの負傷を負ったこともどうでも良くなった。


「まさか松葉杖をつく羽目になるとは……しかもまだ顔も痛てぇ……」


 俺慣れない松葉杖をつきながらなんとかマンションの部屋の前まで辿りつくと鍵を取り出そうとカバンを漁った。


「よしあっーーあぁぁぁぁ!!」


 ようやく見つけた鍵は俺の手から滑り落ちマンションの大理石の床に落下した。


(マジか……どうしよ……」


 鍵を取ろうにも松葉杖の状態では届かず困り果てたその時だった部屋の鍵を白く美しい手が拾い上げた。


「はいこれ、怪我してるんだから無茶しちゃダメですよ。」


「あ、ありがとーーって! 君はーー」


 俺が顔を上げるとそこにいたのは美しい黒髪に白く透き通るような肌を持つ美少女ーー


「お久しぶりです、月城くん。」


 学校の『聖女様』……瀬戸真奈がいた。




【あとがき】


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