第44話 バレンタイン
2月14日、今日はいわゆるバレンタインだ。
女子が男子にチョコを渡す何ともロマンティックな日らしいのだが……ここ数年俺はバレンタインとは無縁の生活を送っているのであまり関わりのないイベントだ。
いつも通り投稿すると玄関にはローカーを入念に確認する男子達で溢れていた。
「おい、お前あったか?」
「ふっ、0だぜ」
「そうか……だが落ち込むのは早い! まだ教室の机が残っている」
「ああ、行こうぜ!」
そう言って確認していた男子が急いで教室へと向かっていった。
俺も自分のロッカーへ向かい扉を開ける。
だが案の定何も入っていなかった。
「ま、そうだよな」
そもそも俺は中学校からバレンタインチョコをもらったことがない。
あるとすれば姉に義理チョコをもらったくらいだ。
「早く教室行くか」
俺は上履きに履き替え教室へと向かった。
教室に入るとやたらと男子達がそわそわしていた。やはりみんなもらえることを期待しているのだろう。
そして皆ある場所をチラチラと伺っていた。
彼らが見る場所に目を向けるとそこには予想通り『聖女様』と『氷姫』と『妖精ちゃん』がいた。
彼女達は互いに友チョコを交換しあっている。
「香織、あなたもうそんなにもらったの?」
「バレンタインは……いい……チョコがたくさん手に入る。」
水瀬さんの手には大量のチョコが詰まった紙袋が握られていた。
流石は女子からの人気が凄まじい水瀬さんだ……男子より全然もらっているな。
中には交友関係が広い奴や、人気のある男子なんかはもらっていたがそれでも両手に収まるくらいの量だった。水瀬さんのあれはかなりすごいな。
「今日はどちらかというとあげる方なのよ……誰かにあげたりしないの?」
「……ない」
「まぁ、そうよね。私もないわ」
「私も今年は二人だけですね」
なぜか瀬戸さんは意味ありげな表情で清華さんに言うと彼女も何かに気づいたように微笑んだ。
その会話をこっそり聞いていた人達は目に見えてかなりがっかりしていた。
学年の美少女三人から誰ももらえないことが確定したわけだからそれも当然だろう。
(元々俺には無縁な話だな)
もしかしたら瀬戸さんにもらえるかもなどと淡い期待を少しでも抱いていた過去の自分が恥ずかしい。
俺はテンションが下がった男子達を横目に自分の席に向かった。
◇
放課後授業を終えた俺が下駄箱で靴を取り出そうと扉を開けるとかわいいリボンの梱包がされた箱が置いてあった。
俺はとりあえず扉を閉めた。
今、あったよな? チョコみたいなやつ。
少し嬉しい反面誰からのものかわからないため警戒心も生まれた。
中学の頃のイケメンがバレンタインの日に髪の毛入りチョコとかあったらしいしな。
俺が恐る恐る扉を開けるとやはり箱が置いてあった。よく見ると横に手紙が置いてある。
中を見るとその手紙は水瀬さんからのものだった。
手紙には『この間はありがとう、これ市販品だけど、お礼。』と可愛らしい文字で書かれていた。
あの時のお礼か……彼女らしいな。
俺は手紙を読み終えるとチョコと一緒にそっと鞄の中に入れた。
お返しもちゃんとあげなきゃな。
俺が今度こそ鞄を持って帰ろうとしたところで後ろから声を掛けられた。
「悠真、お疲れ」
「清華さんもお疲れ様。今帰り?」
「それもあるけどあなたに用があったのよ」
清華さんが俺に用事? 一体なんだろう……恋愛アドバイスとかか?
もしかしてまたあのケーキやにいきたいとかか? あそこ高いんだよなぁー……
「なんかあなた今失礼なこと考えてなかった?」
「……何も」
「まぁいいわ……それよりはいこれ」
そう言って清華さんはラッピングされた箱を差し出した。
どう見てもそれはチョコだった。
まさかの清華さんからのチョコに数秒固まっていると清華さんが鋭い視線で睨んできた。
「何? 私のチョコを受け取らないと?」
「い、いや、違う! ありがたく受け取らせてもらうよ」
俺が両手でチョコを受け取ると清華さんの鋭い視線は元に戻った。
水瀬さんが言ってた通り、やっぱりこの人怒ると怖いな……まじで気をつけよう。
「あなたには真奈がよく世話になってるしね。この私からチョコをもらえるなんて身に余る光栄よ」
「誰にも渡さないって言ってなかった?」
「あんなの嘘よ。そう言わなければずっと見られるでしょ? それに嘘をついてるのは私だけじゃないしね」
「どういう意味?」
「ふふ、さぁね。家で楽しみにしながら待ってなさい」
そう言いながら俺の横を通り過ぎると手をひらひらと振りながら彼女は帰っていった。
一人取り残された俺は手元のチョコを見る。市販のチョコだがすごく美味しそうだ。いいものをもらった。
「にしてもまさか二つも貰うことになるなんてな」
一つもらえるだけでも奇跡なのにあの二人からもらえるなんて思っても見なかったな。
瀬戸さんからはもらえなかったがまぁこういうこともある。にしても今年のバレンタインはいい思い出になったな。
俺はそんなことを思いながら学校を後にした。
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