第43話 聖女様とチョコ

 いつも通り、夕食を食べ終えた俺がまったりしていると瀬戸さんが豪華な箱を持ってきた。


「月城君、いいチョコが手に入ったので一緒に食べませんか?」


「いいチョコ?」


「はい、チョコの有名店のものらしいです」


 確かに箱も豪華だし、何と言っても箱には高級チョコの有名店の名前が入っていた。


 これ確か一つ一つがとんでもなく高いチョコじゃなかったか? しかも予約がいっぱいで中々入手できない奴だ。


 こんな貴重なものを手に入れてくるとは……流石瀬戸さんだな。


「そんな高そうなチョコ食べられないよ」


「値段は気にしなくていいですよ、私が月城くんと食べたくて用意したので」


「……いいの?」


「はい、もちろん」


「じゃあいただくよ」


 俺が折れると瀬戸さんがすごく嬉しそうに笑った。


「ふふ、よかったです。コーヒーを用意し ますね」


「ありがとう」


 数分後彼女が二つのコーヒカップを持って戻ってきた。


 二つとも彼女がお茶用にと家から持ってきてくれたものだ。


 とても柄が良く高級そうだ。


「お待たせしました」


「ありがと、瀬戸さん。う〜んいい香りだね」


 瀬戸さんの淹れてくれるコーヒーは毎回とても香りがよくたっていて美味しい。


 前に俺も淹れてみたがその時は苦味や酸味が強くて瀬戸さんが淹れてくれたコーヒーとはまるで別物だった。


 何かコツでもあるのかな? 今度きいてみよう。


「チョコとコーヒーは良く合いますからね」


「今日はブラック?」


「はい、チョコはかなり甘いですから、コーヒーはブラックの方がいいですね。月城くんはブラックが苦手でしたっけ?」


「……そんなことない」


「無理しなくても砂糖とミルクもありますよ」


「……飲める」


「ふふ、かわいい」


「そ、それより早く食べよ!」


「そうですね、食べましょうか」


 瀬戸さんが豪華な箱を開けると中には四角形のチョコが9個入っていた。


 一見シンプルだがどのチョコも艶があり非常に美味しそうな見た目をしている。


「すごいね、綺麗な形だ」


「形は同じでもそれぞれ違うそうですよ、右から、ミルク、ノーマル、ビターだそうです。」


 瀬戸さんが箱の中に入っていた紙を見ながら応えてくれた。


 これは味の食べ比べを楽しむ商品なのかもしれないな。


「月城くんはどれからいきますか?」


「まずはノーマルからいこうかな」


「では私はビターにします」


 俺達はそれぞれのチョコを手に取ると口へ運んだ。


 口の中に広がるのはチョコの甘味と少しの苦み。それぞれがちょうど良い割合でシンプルだがとても美味しい。


 ノーマルのチョコでもこれほどとは……やはり高いものは違うな。


「うん、ノーマルのチョコすごく美味しい。シンプルイズベストって感じで」


「ビターもほろ苦いけどカカオのいい香りがしてとても美味しいです」


 瀬戸さんはチョコを食べ終えるとコーヒーを一口飲んだ。


 瀬戸さんは毎回ブラックを飲んでいるが苦くないんだろうか?


「次はミルクにしようかな」


「私は月城君が気に入っていたノーマルにします」


 ミルクは口の中に入れた途端甘さが広がった。苦味はなく、ただ甘さが広がる。


 これも美味しい……もしかしたらこれコーヒに会うかも。


 コーヒーのカップを持ち、一口飲む。するとコーヒーの苦味とミルクチョコの甘味が調和してとてもいい味を生み出している。


「月城くん、ブラック飲めましたね」


「こ、これくらいはね……さて次もノーマルを———」


 そう思い箱に手を伸ばした時先に瀬戸さんがビターチョコを手に取り、俺に向けた。


「これも食べてみてください、すごく美味しいですよ」


「いや、それは後で食べようと思ってたんだけど……」


「もしかしてビターは苦手ですか?」


「いや、せっかくだしいただくよ」


 正直ビターチョコは苦味が多くて苦手なのだが……瀬戸さんのおすすめなら喜んで食べよう。


「じゃああ〜んしてあげますね」


「それは大丈———」

 

「あ〜ん」


 最近あ〜んにもだいぶ慣れてきてもう動揺することないと思っていたが……今回は手で直接なのと好きな人にしてもらうと言うのが俺の鼓動を速めていた。


 俺は瀬戸さんの指に口をつけないように気をつけながらチョコを口に含んだ。


 さっきの二つとは違い、口の中に広がるのは苦味。だが決して嫌なものではなくカカオの苦味はとても香りが良く香ばしい。


 それに瀬戸さんからのあーんということも相まって少し甘く感じた。


「どうですか?」


「すごくおいしかったよ」


「それはよかったです。では、今度は月城君が私に食べさせてください」


 そういうと彼女は目を瞑り、待つように口を開いた。


 俺は箱からミルクチョコを手に取ると瀬戸さんの口へそっーと近づける。


 瀬戸さんの口に触れないように慎重に進み、後もう少しというところで瀬戸さんがパクりとチョコを口の中へ入れた。


「!?」


 瞬間俺の手に瀬戸さんの唇が触れた。柔らかな感触は今まで感じだことのないもので何にも例えられない感触だった。


 動揺する俺とは裏腹に瀬戸さんは落ち着いた様子でコーヒーを一口飲む。


「ミルクもとても甘くて美味しいですね、コーヒーとよく合います」


「……そ、そうだね」


「どうしました月城くん?」


 瀬戸さんがイタズラが成功した子供のような顔で俺の方を見てくる。


 これはやられたな……


「な、何でもないから!」


 俺は赤くなった顔を必死に手で隠す。


「そうですか? ふふ、今日はこれくらいにしておきましょう。それで月城くんはどの味が気に入りましたか?」


「そうだね……瀬戸さんにおすすめしてもらったビターも、甘いミルクも美味しかったけどやっぱりノーマルかな」


「なるほど……月城君の好みはノーマルなんですね……」


「好み?」


「いえ、何でもありませんよ」


 俺は不思議に思いつつも、再び瀬戸さんがあーんをしてきたのでそのままチョコを堪能した。





 【あとがき】


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