第42話 妖精ちゃんとの遭遇
学校終わり、いつも通り帰り道を通っているとふとコンビニが目に入った。
「コンビニなんてしばらく行ってないなぁ」
前はよく夜ご飯などでお世話になっていたコンビニだが最近は瀬戸さんが料理を作ってくれることもあり、全くよっていなかった。
コンビニの前の旗を見るとホットスナックが今なら2個買うと安くなるキャンペーンをしているようだった。
久しぶりにコンビニのホットスナックが食べたくなってしまった俺は気付けば自然と店内に足を運んでいた。
「いらっしゃいませー」
店に入ると若い女性の店員さんが笑顔で挨拶してくれた。
俺はそのままレジ前のホットスナックコーナーへ行くとそこには見知った人影があった。
「水瀬さん……」
「ん? あ、ゆーま……」
水瀬さんはこちらに気づくとゆっくりとした口調で言った。
そういえば彼女と二人で会うのは初めてだな。
「覚えててくれたんだ」
「真奈の大事な人だから……当たり前」
「あ、ありがとう」
瀬戸さんが俺を大事な人と水瀬さんに話したのか? もしそうだったとしたら嬉しいな。
「水瀬さんも何か買いにきたの?」
「……あれ」
水瀬さんが指差す方向を見ると保温ケースの中に真っ赤なチキンがあった。
その下を見ると今日発売激辛チキンと書かれていて見た目通りとても辛そうなチキンだ。
「美味しそう……」
「お、美味しそうだね……」
俺はあまり辛いのが好きではないので普通のにしておこう。
そう心に誓っていると水瀬さんが困ったような表情をしていた。
「買わないの?」
「買いたいけど……お金忘れちゃって……」
それであんなにも悔しそうにチキンを眺めていたのか……。
じーっとチキンを眺める様子に店員さんも苦笑いをしている。
よし、決めた。
「水瀬さん、俺が奢るよ。」
「……いいの?」
「瀬戸さんの親友が困っているのは見過ごせないよ」
「……じゃあお言葉に甘えさせてもらう」
「うん、買ってくるから待っててね」
俺は少し笑顔になった水瀬さんを微笑ましく思いながらレジに向かった。
◇
俺がレジで会計を済ませ、外へ行くと水瀬さんがベンチに座って待っていた。
よほど楽しみなんだろうか足をバタバタさせている。かわいい……
「お待たせ」
「全然待ってない……私のためにありがと」
「水瀬さんが喜んでくれて俺も嬉しいよ。じゃあ食べようか」
「食べる!」
水瀬さんがキラキラと目を輝かせて俺の方を見る。瀬戸さんが水瀬さんを可愛がる理由が良くわかった。
水瀬さんは圧倒的癒し枠なんだ。
「わぁ……!」
水瀬さんにチキンを渡すと目をさらに輝かせながら真っ赤なチキンを見つめる。食べること大好きなんだろうな。
そして一口食べてとても幸せそうな顔になっていてとても美味しそうだった。
「美味しい……!」
「よかった、じゃあ俺も」
一口かぶりつくと口の中にジャーシーな鶏肉の旨みが広がる。
久しぶりに食べたがやはり美味いな。
そして続々と食べ進めていくと横から弱々しい声が聞こえた。
「か、から……!」
隣を見ると水瀬さんが辛そうにに舌を出し、涙目になっていた。
最初は余裕だったが途中から辛さがきたのだろう。実は辛いの得意じゃなかったのかな?
「だ、大丈夫?」
「は、はひほうふ……!」
うん、駄目そうだ。
「ちょっと待ってね……はいこれ、飲める?」
俺があらかじめ購入しておいたジュースを差し出すと水瀬さんは小さい手でジュースを取りそのままごくごくと飲んだ。
そして辛さがなくなったのか先程より落ち着いている。
「ありがと、ゆーま。……助かった」
「辛そうだったからさ、一応買っておいたんだけど正解だったね」
「私のために……」
「それより大丈夫? 食べれる?」
「大丈夫……残さず食べる」
「わかった、でも無理せずゆっくりね」
その後水瀬さんはジュースを飲みながらあの激辛チキンを完食した。
そして結果的には満足そうな表情を浮かべている。
「ごちそーさま……」
「すごいね……食べきっちゃった」
「飲み物があれば……余裕。」
確かにあれから水瀬さんはきつそうな表情は一切せず食べきってみせた。ジュースで辛さを和らげたのだろうか。
「聞いた通り……ゆーま優しい」
「そうかな?」
「優しくしてくれる人……多い。けどここまで……私を気遣ってくれる人……美来と真奈くらい……」
「そう言ってもらえて嬉しいよ」
長年ずっと居る瀬戸さんや清華さんたちのような人達と一緒にしてもらえるとは……嬉しいな。
確かに前瀬戸さんが言っていたように水瀬さんはなぜだかすごく世話を焼きたくなってしまう。
「よかった……ゆーまなら任せられる……きっと……真奈を……」
そう言いかけたところで彼女は慌てて口を閉じた。
彼女は何を言いかけたんだろう?
「ふー、危ない……言うところだった……言ったら……美来に怒られる」
「清華さんに?」
「ん、美来怒ると怖い……」
怒った清華さん……めちゃくちゃ怖そうだな。感情を出さずに淡々と怒る奴だ。
彼女の機嫌を損ねないようにしよう。
「食べ終わったし……私は……帰る」
そう言って彼女はベンチからピョンと飛び降りる。
小柄な彼女がやると小動物みたいでかわいい……例えるなら子猫だろうか。
「じゃあね……ゆーま今日はありがと」
「俺も楽しかったよ」
「私も……また明日」
「うん、また明日」
「あ、言い忘れてた」
俺も自宅の方向へ向かって歩き出そうとした時、清華さんのそんな声がしたので俺は振り返った。
「真奈のこと……お願い。……私の親友だから……」
「もちろん、任せて」
「ふふ……そういうと思った……じゃあね」
「うん」
瀬戸さんは本当にいい親友たちに囲まれているんだな。二人とも本当に瀬戸さんのことを大事に思っている。
俺も彼女達の期待に応えなくちゃな。
俺はそう胸に誓いながら遠ざかっていく水瀬さんの後ろ姿を眺めた。
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