第41話 二人で毛布に

 清華さんとの会合から帰宅した俺が玄関のドアを開けるとすぐに瀬戸さんが姿を見せてくれた。


「ただいま」


「おかえりなさい、月城君。遅かったですね」


「ちょっと用事があってね。」

 

「そうですか、お疲れ様です」


 流石に清華さんに恋愛相談をしていたなど言えるはずもなく誤魔化す作戦に出た。


 幸い彼女も深く追求してくることはなかったのでよかった。


「もう夕飯できますから待っていてくださいね」


「うん、ありがとう。楽しみだよ」


 俺が彼女への好意に気づいてからも特に変わらずいつも通りの毎日を送っている。


 強いていえば少し体が触れ合う度に少し胸がドキドキするくらいだ。


 正直俺は今の生活がすごく気に入っている。毎日瀬戸さんの美味しい料理を食べて、それから彼女と色んなことを話したりするこの日常が心地いい。


 ずっとこんな毎日が続けばいいなと思う一方でいつかはかの関係を変えたいと思ってもいる。


 彼女に告白してもしそれを受け入れてもらえたら彼女と恋人としてこの時間を過ごせる。


 だがその反面失敗した時はこの生活が変わってしまうかもしれない。俺はそれがものすごく怖かった。


「月城くん、どうしましたか?」


「……いやなんでもないよ。ところで今日のメニューは何かな?」


「今日はシチューです。とても温まりますよ」


「いいね、瀬戸さんのシチューは絶対美味しいね」


「月城くんは本当に私の料理が好きですね」


「実際この世で一番美味しいと思う」


「ふふ、ありがとうございます。楽しみに待っていてくださいね」


「うん楽しみ。」


 今はまだもう少しだけ、この生活を続けていたい。



 ◇



 夕飯を食べ終えた俺たちはいつも通りまったりしモードに入っていた。


 今日は最近契約した配信サイトで去年話題となっていた映画を二人で見ている。


 二人でソファーに座りながら見ていると少し瀬戸さんが寒そうに少し体を震わせていた。


「瀬戸さん、これ使って」


 俺はブランケットを彼女に差し出した。


「気づいてたんですか? すみませんありがとうございます」


 彼女は俺の手からブランケットを受け取ると自分の体に被せた。


(……可愛い)


 毛布にくるまる姿はとても愛おしく、可愛い。まるで小動物みたいだ。


「あったかい……」


「それはよかったよ」


「それに月城くんの匂いがします」


「ま、まぁ俺も使うからね」


 こんなことを好きな人にされてドキリとしない奴は絶対にいない。実際俺は何かいけないものを見てしまったような感覚に襲われてすごくドキドキしている。


 大丈夫かな? 臭くなかったかな?


「ふふ、月城くんの匂い……」


 そして彼女はぎゅっと毛布を抱き寄せ嬉しそうに微笑む。


 彼女をしばらく見ていたせいか映画の話が少し先に言ってしまっていた。


(まぁ、いつでも見れるからいいか……)


 映画はいつでも見ることができるが毛布にくるまる彼女は中々見れない。この景色を良く目に焼き付けておこう。


 そう思い彼女をじっと眺めていると視線に気づいた彼女が不思議そうな表情をした。


「どうしました?」


「いや、なんでもないよ」


「……なるほど月城くんも毛布にくるまりたかったんですね!」

 

 何故その結論に至ったのか……


 清華さんに書いた通り瀬戸さんはやはり天然なのかもしれない。


 俺がそんなことを考えているうちに彼女はすでにもう一人が入れるスペースを用意していた。


「さ、月城くん入れますよ」


「……いいの?」


「もちろんです」


「じゃあ失礼するよ」


 欲望に負けた俺は素直にブランケットにくるまった。


 先に瀬戸さんがくるまっていたゆえかかなり暖かい。


 そして距離がとても近い。ブランケットのサイズは決して大きくなく、俺と瀬戸さんがギリギリ入れるくらいの大きさだ。


 肩が触れ合うほどの距離感に俺の鼓動が早くなる。


 彼女の体温が、匂いが俺の脳を刺激する。


 だがここで欲望に負けてはダメだ。俺は負けない。


「ふふ、暖かいですね」


「……そうだね」


「こんなに近くなんて初めてです」


 そういうと瀬戸さんは俺の肩に頭を乗せた。


 彼女の綺麗な黒髪が、綺麗な顔が真横に近づき俺の鼓動がさらに早くなる。


「せ、瀬戸さん!?」


「……しばらく肩を貸してもらっていいですか?」


 瀬戸さんが上目遣いでねだるように言う。


 好きな人にそんなことを言われては到底断れない。


 それに俺もこの状況をかなり楽しんでおるようだ。


「俺の肩でよければいくらでも貸すよ」


「ふふ、ありがとうございます」


 そういうと彼女は静かに目を瞑った。


 少しするとすぅすぅと可愛らしい寝息が聞こえてきた。


 ものすごくカメラに収めたい気持ちが湧いたが流石に付き合っていない女子を撮るのはまずいと思って断念した。


「……ゆっくり休んで瀬戸さん」


 俺は安心して眠る彼女を微笑ましく見つめた。







 【あとがき】


 最後までお読みいただきありがとうございます!


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