第3話 聖女様と登校

「おはようございます、月城君。」


「お、おはよう。」


 翌日彼女は約束通り朝早くから来てくれた。今日は彼女も学校なのでいつもの制服を着ている。


 制服を着ている瀬戸さんは普段学校で見かける『聖女様』そのものだった。


 改めてすごい状況だな……朝から聖女様がきてくれるなんて……


 この状況は他の男子達から見れば羨ましくてたまらないだろうが俺は素直に喜ぶ気にはなれなかった。


「ごめん瀬戸さん。学校もあるのにこんな朝早くから来てもらって」


「これくらいなんの苦でもありませんよ、それよりはいこれお弁当です。」


「ええ!? 瀬戸さんが作ってくれたの?」


「はい、私が心を込めて作りました。」


 まさかお弁当まで作ってくれるとは……この人はどこまで優しいんだ

 

「ありがとう……すごく楽しみだよ。」


「ふふ、そう言ってくれると嬉しいです。後で感想も聞かせてくださいね?」


「もちろん!」


 今日の楽しみが一つ増えたと俺は内心すごく喜んでいた。


「では学校へ向かいましょう。表に車が来ているので月城君も一緒に乗りますよ」


「ええ!? 俺も!?」


「当然です! さ、行きますよ。」


 俺は瀬戸さんに連れられ外に出ると家の前には黒塗りの高級車が止まっていた。


 え? テレビで見たことあるけどこれって確かすごい高い車じゃなかったか? 運転手の女の人もすごい気品があるしやっぱお嬢様様なんだなぁ


「宮澤さん、この人が私の命の恩人、月城悠真くんです。」


「真奈様の専属ドライバーの宮崎と申します。お嬢様を助けていただきは本当にありがとうございます!」


「い、いえ僕のほうこそ瀬戸さんに助けられてます! それと今日はよろしくお願いします!」


「畏まりました。ではお二人とも車の中へ」


 そう促され俺は人生初の高級車へと乗り込んだ。



 ◇



 車での移動は早くあっという間に学校の門の前に着いた。


「うぅ、やっぱり見られてる……」


「本当に私たちすごく見られてますね」


この展開はある程度予想していたのだが……まさかこんなにも注目されるとは……


「あの男誰?」


「なんで聖女様と一緒に登校してんの?」


「まさか彼氏!」


「なんであいつ聖女様と親しげにはなしてるんだよ!」

 

 これも予想通りというかやはり聖女様の隣に立つ男をよく思わない人は多くさっきからコソコソとはなされている。


 俺の学校生活大丈夫か?


「月城君、どうかしましたか?」


「ちょっと視線が気になるなと思ってさ」


「私は慣れていますが月城君は慣れていませんよね……すみません私の計算不足でした。」


「いや、瀬戸さんのせいじゃない。」

 

 これは俺も覚悟していたことだ。このくらいは受け止めなければ。

 

「月城君は優しいですね」


「……そんなことない」


「そこ強がらなくてもいいんですよ?」


「……強がってない」


「顔隠しても照れてるのバレバレです」


 そんなやりとりに心地よさを感じながら俺たちは教室へと向かった。



 ◇



 午前の授業が終わり昼休みの時間となったが未だに俺に対する視線はおさまっていない。


 幸い、悪絡みや文句をいいにくる奴はいなかったが、とにかく見られて落ち着かない。


 

 それに比べて瀬戸さんはいつもと変わらず女友達と楽しそうにお昼を食べている。


 俺も彼女みたいに普段通りに振る舞った方がいいのかもしれないな。


「俺もご飯食べるか」


 そう思い今朝瀬戸さんから受け取った弁当箱を取り出した。


 蓋を開けると出てきたのは色とりどりのおかずとご飯。栄養に配慮された日本食はどれも美味しそうで食欲が湧いてくる。


「いただきます」


 瀬戸さんに感謝しつつ両手を合わせた。


 お弁当の味は言うまでもなくどれも素晴らしく、煮物はよく味が染み込んでいてとても柔らかかった。焼き魚は身が魚本来の旨みがよく出ていた。卵焼きは俺好みの甘い卵焼きで最高に美味しかった。


 そしてあっという間に食べ終えるとスマホがピコンとなった。


 見ると瀬戸さんからのメッセージが入っていた。


『いい食べっぷりでしたね。』


『本当においしかったよありがとう』


『いえいえ、私もみていてとても楽しかったです』


 まさか彼女にずっとみられていたとは……美味しすぎて変なかおしてなかったかな?


『私も作った甲斐がありました。明日はどんなのがいいか後で教えてください』


『わかった、本当に助かるよ』


『いえいえ、ではまた放課後に』


 メッセージを終え、彼女の方をチラリと見ると彼女が一瞬こちらに微笑んだ。


(……本当に心臓に悪いな……)

 俺はその美しい表情にドキリとしつつも平静を装い次の教科の準備を始めた。




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